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魔術侯爵家の幼馴染み  作者: 伏綸子
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セヴィオ帝国始動

 憂鬱だ。

 実に酷い。

 何故もっと美味しく頂けなかったのだろうか。

 クラープが可哀想だ!


「はぁ......」

「あんたさっきから(うるさ)いわよ」


 実はレン、先程が溜息を連発している。

 隣で歩いていたアリスも倦怠感を感じてしまうぐらいだ。


「また今度買いに行けばいいでしょう?」

「まぁ、そうなんだけどさ。こう......最初に食べた時の感動をもっと感じたかったんだよ......。はぁ......」


 と言う有り様である。

 アリスにおいては「何言ってるのこの人? それに引きずり過ぎ」と引き気味な言葉を吐き捨て変人扱いしている始末だ。

 時間はおおよそ午後の三時後半。

 メインロードでなくても、民の往来が激しい時間帯だ。

 勿論、レン等の歩行している道はメインロードの人混みを避ける為薄暗い路地。

 そんな中、アリスが自分の着用している煌びやかなローブとは相反した、薄黒い靉靆(あいたい)たるローブを纏った人影を見掛ける。


「ねぇ、あの人何してるの?」

「分からない......」


 黒ローブを着ているのは体躯から視て男性だろう。

 その黒ローブを指で差しながらアリスが怪訝そうな顔でレンに問う。

 だが、無論そんなことレンには分からない。だが彼も懸念していた。何せ胡乱な者が怪しそうに周りをキョロキョロしているのだ。気になるのも自然な事だろう。

 暫く二人が黒ローブを視ていると、


「――きゃっ!」


 レンが突如アリスの手を握り近辺の壁の闇に引き込んで押し倒す。


「ちょっと、何す――」

「――しっ! 静かに」


 驚いたアリスが声を上げようとするがレンが右手で口を塞ぐ。

 レンがこのような行動に至ったのは黒ローブがこっちを向くのを察したからだ。

 別に隠れる必要もないのだが......。まぁ、一応念の為だ。

 黒ローブが怪しげに辺りを見渡す。

 誰も居ないと認知した後、街路の(しきがわら)を矢継ぎ早に取り外し、埋もれていた土をスコップで掘り返しては茶色い紙袋を埋めて甃を元に戻し隠した。

 その動作を二、三回繰り返した黒ローブは王都内では使用禁止なはずの魔法を用いって闇に消えていった。


「消えた......」


 その一部始終を隠れ覗き見ていたレンが影から顔を出す。


「急に何するのよ! 危うく窒息死するところだったわ!」


 アリスがレンに怒鳴り付ける。

 アリス......お前......、鼻呼吸出来ないのか!?

 そんな意味のわからない事を胸の奥で思ってしまったが突然闇に引っ張られ押し倒されては苦情を申したくもなるのだろう。

 そうレンは思い寄り、取り敢えず弁明する為事情を説明した。


「......そうだったのね。急に怒鳴ってごめんなさい。でも、だからと言って、急に押し倒すのはちょっと......」

「あ、ああ。それに関してはごめん。少し強引過ぎた」


 そう言うアリスだがレンに押し倒された時顔を赤くして惚けていた。

 しかも顔を俯かせて、だ。

 可愛い......。

 日頃ツンツンキャラなアリスには中々見られない表情。

 素直に謝っているレンだがその顔を目撃していたので内心押し倒して良かった、と思ったのだった。



 ○ ○ ○



 王都セドウェル城外近辺の森林。

 鬱蒼と茂る草木の中。

 帝国の象徴である深紅の火焰竜(フレイムドラゴン)を施した鉄鎧を着用している男三女一、計四人の集団が居た。


「そろそろよね」

「壁内部隊からサウンド・テリングで合図が届いたら、だな」


 最初に口を開いたのレジーヌ・クリダ。ポニーテールで緋色の髪をし、整った顔立ちをした三十代半ばの女性だ。

 レジーヌに応えたのはアレクセイ・バタイユ。灰色の短髪、頬に切り傷を負った痕が残っている勇猛な顔をした四十代後半の男性。

 彼等は帝国軍の兵士でもかなり高い魔力量と実力を持ち合わせた精鋭部隊だ。今回、彼等の任務は王都セドウェル内に潜伏していた部隊が王都から抜け出すのを援助する、と言うもの。

 内容そのものは簡単そうに聞こえるだろう。だが、実践して見ると予想以上に困難なのだ。何せ、王都セドウェル内の兵士は王国独自の過酷な訓練を耐え抜き、模擬戦をしその中で選抜された上位兵士しかいないのだ。

 王都の城門付近を防衛している兵士ともなると防御に特化した魔法を得意としている為、一人無力化するだけでも一苦労だろう。


「やっぱり無理なんじゃないですか? だって無敗要塞と呼ばれているんですよ?」


 二人の会話を耳に挟んでいた、最も若い二十代後半の男性、デフロット・マズリエが不安を煽るように弱音を吐きながら介入してくる。

 彼はこの少数精鋭部隊に数ヶ月前入隊したばかりの新人隊員だ。だが新人とはいえ、その実力は同年代の中でもトップクラス。彼がこの精鋭部隊に配属されたのもその実力が認められているからだ。

 そんな彼が今回の作戦に不安を持つのは経験が少ない、と言うだけではない。単純に王都セドウェルの軍兵の力量を養成兵時代に教えこまれていたからだ。


「お前ら、大丈夫だ。此度の作戦では援助だけが目的ではない。今馬車の荷台に積まれいている物の試験運用も兼ねている」


 アレクセイが腕を組みながらキッパリとそう言う。

 すると最後まで沈黙を貫いていた三十代後半の男性、フランク・レーベルが馬車の荷台に積んであった剣を持って、三人の元に近づいて来る。


「これは?」

「魔剣......ね」

「そうだ」


 デフロットが問い掛け、レジーヌが答える。

 そのレジーヌの答弁にアレクセイが目を瞑り頷きながら肯定した。

 『魔剣』とは通常の剣に何らかの原因で魔力が宿ったものだ。ただの『剣』との違いは魔力が宿っている、という事だけではない。

 主な違いは刀身から魔法そのものを発動し、放つことが出来る点だ。

 通常、剣を以て戦う時、魔法と剣戟を別々のものとして認識し戦わなければならいない。だから魔術士と剣士があるのだ。

 戦いにおいて基本的に魔法士は後方からの援助や遊撃で、剣士は先陣に立って敵を迎え撃つのが役目だ。

 だが魔剣はその両方を併せ持ち両立させる。

 つまり、魔剣を持つだけで二人分、又はそれ以上の闘いが出来るということだ。

 魔剣はその圧倒的強さ故に、重宝される。

 だが、数が少ない。その理由は魔剣の創り方が未だに不明だからだ。魔剣は主に古代建造物の宝庫から聖遺物(レリック)として発見される。初めて発見される時、いつも魔剣は既に出来上がった完成品として見つかる。

 勿論、各国の科学者や考古学者達がその謎を懸命に明かそうとしている。が、現在も闇に包まれたままだ。


「要は、この魔剣を使って闘う、という事ですか?」

「よく見ろ。ただの魔剣じゃない」


 デフロットが白銅色に彩られた魔剣の刀身をじっと見詰める。

 少し刀身の角度を変えながら見ると光で文字が見えてくる。


「これって......、刻印魔法か!」


『刻印魔法』とは魔法を起こすまでの工程を文字にしてそれを魔法発動の媒体とする魔法だ。

 これも古代の遺物の中にあった魔法書(グリモワール)を解読し活用したものだ。魔法具もこの刻印魔法を発展させ創られている。


「うむ」


 アレクセイが小さく頷く。


「ですが、これは不可能な技術のはずですよ!」


 魔剣に刻印魔法を施すのは危険且つ、不可能なのだ。

 刻印魔法は魔力が流されれば魔法を発動する。

 そして魔剣は魔力を帯びている。

 魔剣に刻印魔法を付与するのが不可能だと言われる要因は魔剣が魔力を帯びている面にある。もし魔剣に刻印魔法を施すと、魔法が暴発するのだ。仮に魔剣に強力な攻撃魔法を付与しそれが暴発すると軽々と街一つが滅び、灰になるだろう。

 だからこそデフロットの反応は当然で必然的なのだ。


「だが、現に今ここに存在している!」


 アレクセイが声を荒らげながら事実を述べる。

 彼自身も動揺しているのだろう。

 未知の技術を前にして畏怖を抱く。

 それは生物として自然な感情だ。

 だが、その気配すら見せないのは流石と言えるだろう。


 暫くの間四人は、自分の腰に指してある魔剣を見詰めて呆然と立ち尽くしていた。

 木が風で揺れ葉擦れが響く。

 そんな中、突如四人がいた森に作戦開始の指示が届いた。


『こちら城内部隊。任務を完了した。直ちに王都を脱出する』


 その声を聴いた全員はここで死ぬかもしれないと思っただろう。

 だが、誰もそれを口にしなかった。

 いや、口にせずとも自分達は実験台(捨て駒)にされているのだと分かっていた。

 だからこそ誰一人その事を言えなかったのだろう。


 そして彼らは決心し汗で滲んだ手で魔剣を握り締め森を出て行った。



 ○ ○ ○



 時間は午後四時。

 外出していた民達は家に帰り、昼頃の活気的な賑わいはゆっくりと帰る人々に消えていた。

 早い所では店の閉店準備をしている所もある。

 城壁外で依頼(ミッション)を遂行していた冒険者達は報酬を受け取りに冒険者組合に向けて歩いていた。

 街は空と同じように静まりを取り戻していく。

 その静まりが最も現れる薄暗い路地。

 落ち着きを取り戻したレンとアリスは再び黒ローブについて会話していた。


「それで、さっきのやつはどうしたの?」

「消えた。恐らく迷彩魔法『ディスガイス』だろう」


 レンがアリスの疑問に応える。

 迷彩魔法『ディスガイス』。

 その名の通りディスガイスは対象への光を屈折させ対象を不可視、又は迷彩する魔法だ。


「それ、怪し過ぎない?」


 アリスが首を傾げて言う。

 ディスガイスは主に軍兵の潜入部隊が習得している。

 アリスが怪しんでいるのはそれを知っているからだろう。


「そうだな」


 レンがアリスの質問に肯定して、レンも同じように首を傾げた。


(何が目的で魔法まで使ったんだ......)


 五、六秒腕を組みながら考えていると黒ローブが街路に袋を埋めていたのを思い出した。


「あ、そういえばあいつ何かしてたな......」

「何かって、何をしてたの?」

「ほら。彼処(あそこ)で袋を埋めてただろ?」


 黒ローブが作業をしていた街路の端沿いを指で指しながらレンが言う。

 指を指した辺りは黒ローブが作業をした際に掘り返した土が残ったままだ。

 こうして見ると雑だと分かるだろう。

 何かしら急いでいたのかもしれないとレンは考えたがその「何か」は分からない。

 そこで取り敢えず黒ローブが埋めた袋を掘り返してみることにした。


「よいしょっと、これか」

「これ? ただの袋ね」


 甃を外し土を手で掘り返したレンが見つけた袋を持って呟く。

 それにアリスが素直で率直な感想を述べた。


「まぁね。でも中身が問題だ」


 レンがアリスの普通の感想に苦笑する。

 そして続けざまに袋から中の物を出しながら言った。


「あら、魔結石じゃない。勿体ないわね」


 レンの言葉を無視し出てきた物を見てガッカリとした表情で言う。

『魔結石』は高密度の魔力が物質化し固体になった物だ。通常は市場では出回らない。故に、高価な鉱石として世間一般で認識されている。

 魔法具によっては魔結石をエネルギーコアとして使用している物もある。それぐらい魔結石は中々手に入らない貴重な物なのだ。


「お前さぁ......、良く見ろよ」

「え?」


 レンが呆れた声で言い、魔結石をアリスの目の前に向ける。

 こういう大事な所が抜けているので困ったものだ。

 このまま大人になると思うとだらしなくて想像している方が恥ずかしい。


「あ......、危険だわ! 何してるのよ!」


 なんてやつだっ!

 自分の事を棚に上げて俺を非難して来たぞ。

 これは大人になる前に治療せねば......。

 今度、前に放った爆発魔法を此奴(こいつ)に向けて放ってやる。

 なんて言うショウモナイ事を頭の中で考えていたレンが「いけないけない」と自分に、胸の中で言い聞かせ意識を切り替え、魔結石について話し始める。


「分かったか? これ刻印魔法が施されてるんだよ」

「んじゃ、さっさと処理しちゃいなさいよ」


 ええい! 偉そうに。言われなくてもやるわ!

 何故だろう。この数分だけで苛立ちが抑えられない。

 取り敢えず深呼吸。

 レンがすーっ、はーっと深い呼吸をしてから魔結石を地面に置き刻印魔法の解除に取り掛かる。

 刻印魔法は鉛筆や筆などの物質で書かれていれば、その文字を消すだけで済むのだが魔力で書かれた文字てなると手間が掛かってしまう。

 魔力で書かれていると、その魔法と同じ魔法を重ねがけ。それからその文字を自分の干渉下に置いて魔法を中断し消す、と言う少し面倒な処理方法になるのだ。

 簡単に纏めると同じ魔法を対象にくっ付け、剥がし消し去ると言う内容だ。

 それをササッとやってパパっと終わらせたレンは膝立ち状態から立ち上がった。


「ふぅ。これでいいかな」

「むぅ。やっぱり納得いかないわ!? なんでそんなに早く終わるのよ!」


 真横でギャーギャー喚くアリスに耳すら傾けず、レンは自分の思考に意識を向けた。


(掛けられていた刻印魔法は爆発魔法『デトネーション』だった......)


 即ちそれは王都を、セドウェルを爆破しようとしていたと言う事だ。

 爆発魔法『デトネーション』はレンが先日岩を破砕させた際に使った魔法だ。その時レンは魔力を抑えて放っていたので、大規模な爆発は起きなかった。

 だが、今回の魔結石は違う。魔結石に秘められた高密度で大量の魔力が一斉に魔法に使われれば岩の破砕程度では済まされない。

 最悪周囲が爆発による爆風で吹き飛び、爆炎で街が炎に包まれ瞬く間に地獄と化すだろう。


(巫山戯(ふざけ)てはいられない......)


 焦りを感じたレンが早く他の魔結石を掘り出し解除しようと動き出した。


「レン、どうしたの? そんなに急いで」

「急げ、アリス! 刻印魔法はデトネーションだ!」


 レンの返答に、はっとアリスは息を飲み絶句した。

 そしてこれから起きる災禍が瞬時に脳裏に駆け巡る。

 崩れ落ち瓦礫になる建物。

 燃え盛る火の海。

 そして人々の悲鳴。

 アリスはあまりの衝撃に数秒間呆然と立ち尽くしていたがすぐに我に戻り今すべき事を成すため、急いで甃を取り外し、袋を掘り返した。


「はい。もう他には無いの?」

「いや。あると思う。でも場所が分からない」


 アリス掘り返した袋から魔結石を出しレンに手渡す。それからアリスがまだ無いのかと訊く。

 それにレンは直ぐに返事を返したが曖昧な答えしか言えなかった。


「取り敢えず一つは残しておく。これは近くの兵士に見せ、助けて貰う。行くぞアリス」

「ええ」


 アリスがレンの呼び声に一言で応えその背中を追っていった。

お久しぶりです?

今回は二週間以内に書き上げられました!

自分を褒めたくなりますね。


さて、そんなことは右斜め後ろ四十五度に置いておくとして。


今回はざっくり言うと帝国について書きました。

本当にざっくりですが。

すいません。これ書いているのが午前22分なんです。

深夜テンションなのです。


それより、

今回はどうだったでしょうか?

楽しんでいただけて入ればとても嬉しいです!

実は僕も今回は楽しく書いていました。

途中から「うぉ〜! 楽しい〜!」ってなりました。

特に四人のところなんか新しい設定をつぎ込めたので楽しかったです。

これからもこんな感じてかけていけたらなと思います。


最後に

読者さん最後まで読んで頂き有難うございます。

次回はあの黒ローブから始めようと思っています。

是非そちらも読んで頂けると幸いですね。


そして、

評価等付けて頂けると凄く嬉しです!

日頃から「うぉ〜!」ってなります。


それでは!

また次回お会いしましょう!


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