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魔術侯爵家の幼馴染み  作者: 伏綸子
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無敗要塞――王都セドウェル

 優しい陽射しが差す快晴。

 緑黄色に輝く草丘の先にそれは(そび)え立っていた。


 ――無敗要塞、王都セドウェル。


 汚れすら見当たらず光を反射させる純白に人の目を惹く程美しい紺碧と眩しい程に煌めく黄金色で彩られた円形城壁。

 その城壁内への城門は誰もが上を見上げるぐらい巨大で金色の装飾が施されていた。


「でけぇ......」


 城門に向け疾走中の馬車の窓からその光景を目の当たりにしていたレンが思わず感嘆の声を漏らす。

 レン達一同の乗る馬車から城門までは未だ少し距離がある。だが、それでもあの城壁と城門は目を離してはいられない程神々しく圧倒的な雰囲気を放っていた。


「止まれ!」


 城門前(まで)全速力で(はし)り近づいてくる高貴な馬車に向け兵士が手を挙げ停止の合図を送る。

 すると、全力疾走中の馬車がゆっくりと減速し停った。

 兵士と御者が話し始めて数分後再び馬車が城壁内に向け走り出す。――だが城内は人が多い為、通常の馬が小走りする程度のペースである。


 馬の蹄鉄による甲高い音がメインストリートに響き渡るも人々の活気旺盛な声に掻き消される。

 往来の激しいこの大通りは王都の中核――王城への道筋でもあることから端では屋台が多く開かれ、隣接する建物の殆どは家具、衣服、食料品等の生活上欠かせないものを販売している。

 先程レン達が(くぐ)った城門付近では、冒険者達が夕方頃依頼を終えて戻ってくるため酒場等もある。


 馬車は時折、右折左折を繰り返し二十分程走り続けた後、ラウ二村のアリス家に似た屋敷の前で停止した。


「はぁ......やっと着いた!」

「やっと着いたわね!」


 レンとアリスが下車がてら、溜め息混じりに歓喜の声を上げる。

 それも当然、旅中では前日の夜に雨が降っていたこともあり馬車の車輪が沼に嵌ってしまう事態が起きたり、逆にその後は何もハプニングなどもなくひたすら変わり映えもしない景色を観るだけの無味乾燥な時間になっていたからだ。


「この街凄いなぁ」


 レンが馬車から降りて通って来た街路に身体を向け再び感嘆の声を上げる。

 馬車の窓から覗き観た街はレンが住んでいたラウニ村とは全く違っていた。そもそも、ラウニ村は民家も少なくクラーク家の屋敷以外は一般的に木造だ。それに比べこの街セリブラムの街路は同型の(しきがわら)で舗装、民家を含めた全ての建物の外壁は街の明るい雰囲気に合わせ白の煉瓦で建てられている。

 更にはラウニ村にはアリスの屋敷付近に見受けられなかった魔法具を使った街灯が何十基もある。

 稀にとはいえ、それなりに栄えた街に出向いた経験のあるレンでも驚嘆を漏らす程だ。

 表情が乏しい妹のユリを連れてきたらどうなるのか、と一瞬レンの脳裏で無駄な思案が()ぎったが、(かぶり)を振って忘れることにした。


「なぁ、街を廻ってみてもいいか?」


 レンが突然首を傾げながらアリスにそう訊ねる。

 アリスもレンと一緒に行きたいのだろう。

 レンの質問に、


「ちょっと待っていて頂戴」


 と微笑みながら一度断りを入れた。

 すると、アリスは馬車の方に目を向け、荷物を下ろしていたセトディンに声を掛ける。


「ねぇ、セトディン。この後は他に予定あったかしら?」


 ほんの数日の旅とはいえ、クラーク侯爵家の御嬢様。大量彷彿(ほうふつ)の衣装、私物、道具がある。それに加え護衛として雇っていた王国騎士団達の荷物、食料などで馬車二台分が埋まる。

 当然その荷物をレンとアリス、セトディンだけでは運べる筈もない。そこで、セトディンは同行者と協力――どちらかと言うと全体の指揮を執っている――をして運搬していた。

 セトディンがアリスの問い掛けに手を止め応える。


「いえ、荷物を下ろしたら皆様休憩を取られますので予定は御座いませんよ」


 疲れを見せない笑顔でセトディンはそう言った。

 その笑顔は所謂(いわゆる)「イケメン」と「優男」を彷彿(ほうふつ)させてくるものだ。

 そこら辺の歩いている女性なら見惚れて壁に当たりそうだ。


「そう、分かったわ。ありがとうセトディン」


 そんな笑顔にも動じない、いつもの口調でアリスが謝辞を述べ再びレンの方に身体を向ける。きっとあの笑顔もいつも見ているので慣れているのだろう。


「荷物を下ろした後なら良いわよ。でもレンが一人で歩くと問題を起こしかねないから私も着いていくわね」


 アリスがこっち向いて承諾したかと思えばアリスが着いてくるのだそうだ。

 レンは内心「『問題を起こしかねない』ってなんだよ......」と思ったが道案内をしてくれるのだろうと解釈し、文句は言わなかった。


「分かった。じゃあ、さっさと降ろしちゃうか!」


 そういいながら張り切って大荷物を持とうするレンだが......。


「うわぁぁ!」


 張り切り過ぎて多量の荷物を持ってしまったようで、身体が耐えられず荷物諸共倒れてしまった。

 そんな滑稽な姿を見られたレンは顔を真っ赤にして立ち上がり速足で屋敷に向かっていく。

 その横でアリスが口に手を当て笑いを堪えていたが押され切れず最後には「アハハハハッ」と高笑いをしていた。


「いいから! アリスも早く運んでよ!」


 公の場で大笑いするアリスに苛立ちレンが運べ懇願するが......


「私には荷物運び(ポーター)がいるから運ばなくても良いのよ」


 と、アリスに一蹴されてしまい売り言葉が不発に終わる。

 荷物運び(ポーター)とは文字通り荷物などを運ぶ人だが、この荷物運び(ポーター)はクラーク家所持の屋敷のから出てきたところを見るに専属の荷物運び(ポーター)なのだろう。

 セトディンの指揮の下次々と荷物が屋敷へと運ばれて行く。

 風属性魔法で上昇気流を起こし、文字通り流していく方が効率的なのだが、生憎(あいにく)王都セトディン内では魔法による暴動、暗殺等を防ぐため魔法の使用を禁止されている。その代わり魔法具があるため基本的に魔法は必要ないのだ。



 ○ ○ ○



 荷物を各自の指定された部屋に運び、整頓し終えた二人は屋敷内の玄関で合流していた。


「さて、行きましょうか」

「そうだね。行こうか!」


 動き易い服装のレンに相変わらずお上品なフード付きのローブを来たアリス。正しく正反対な二人だからつい聖女とその護衛に見間違えてしまいそうだ。


 二人は屋敷から出た十数分後、先程見たメインストリート沿いにあった露店に着いた。馬車に乗った時よりも時間が省かれたのは所々民家の間にあった小路を通ったからだ。


「やっぱり全然違うな......」

「それはそうよ。だってセトディンは世界で最も繁栄しているのよ? ラウニ村とは程遠いわ。その分、魔法技術や科学技術も発展しているの。まぁ、そのお陰で十年前の戦争にも殆ど戦争的被害を被らずに勝てたものね」


 アリスが自慢げな顔をして長々と話す。

 確かにこの街はこの国の代表的でもある。それ故に他の街とは図抜けた技術力を持っているのも納得出来る。

 だがその技術力は街の雰囲気程度のものにはあまり使われていないだろう。それでは技術情報の漏洩になるからだ。

 国がその技術力を以て発展させるならば当然、軍事力だろう。アリスが説明した通り十年前ぐらい前の帝国との戦争でも勝っている。それがその証拠だ。

 帝国は数多の国と剣を交わしては勝利しその全技術を取り込んできた。その所為で帝国の軍事力はこの国を除いて世界でトップだ。


「それは、良いとしてなんか食べましょ」


 アリスが露店に並ぶ食べ物からの匂いよる誘いを耐えられなかったのだろうか。唐突に何か食べようと言ってきた。

 レンとしても少し小腹が空いてきていたので拒む必要も無い。


「......そうだね。何か食べようか」


 レンがアリスに向けてニッコリと微笑みながら言った。

 そして、屋台に並ぶ甘い食べ物に目を向ける。


「あれ、美味しそうね」

「ああ、美味しそうだね」


 二人とも全くの同意見のようだ。舌舐めずりをして、店の筋肉隆々で短い髭の生えたおっさんにこれは何なのか訊いて見た。


「お兄ちゃん、もしかして此処は初めてかい」

「はい。さっき着いたばかりで......」

「そうなのかい。これはね、『クラープ』って言うんだよ。牛乳、小麦粉、砂糖等を混ぜ合わせ、それを薄く焼き、出来上がった生地に果物とかクリームとか甘い物を色々詰めるんだ。この街で一番の人気商品なんだぜ」


 男性定員が他の定員の料理工程を見せながら最後に腕組みをし得意気な顔をして締め括った。


「それで、どうだい? 食べてみるかい」


 これだけ甘い匂いに鼻を刺激され、しかも上美味しそうな料理の工程を見せられては堪えようもない。


「「買います!」」


 待っていましたと言わんばかりに意気軒高として答えた。


「そうかい! ちょっと待ってな......。はいよ!」


 待たされるかと思いきや、クラープはすぐに手渡された。しかもまだ温かい出来たての物だ。

 大蛇の列が出来ているのに何故?と思っておっさんの方に視線を向けたら親指を立て、グッドサインをしていた。

 どうやらただの善意らしい。少し怖面だが口調に似た優しく呑気なおっさんなようだ。


「ありがとう」

「ありがとうございます」


 アリス、レンの順で礼を述べてから二人は近くのテラス席に腰を掛ける。

 先程定員に「少し経ってから食べな」と言われていた。もう既に「少し」と言う時間も経っているので、試しに一口(かじ)ってみる。

 ――何だこれ!


「美味い!」


 口の中で広がる甘いクリーム。その後から追ってくるパイナップルの程よい酸っぱさ。

 今まで食べたことが無い。

 まるで異国にでも来てしまった様だ。

 まぁ、確かに遠い地には来ている。だが、ラウニ村から馬で一週間もしない都だ。そこにこれ程までの文化の違いに深い溝が出来ていたのが衝撃的だった。


「久しぶりにここに訪れたけどこれ美味しいわね」


 アリスが緩んだ頬に喜色の表情を見せながらそう言った。

 少し話を訊いて見ると以前までこのデザートは無かったらしい。もしかしたら良いタイミングにこの王都に来れたのかもしれない。

 それより、一体これを作った人は誰なんだ。レシピを教えて欲しいものだ。だが此処でしか食べれないから人気があるのかもしれない。それにこのクラープとやらは中々値段が高かった。二人で銀貨二十枚だ。ようは、一つで銀貨十枚。だが新作という事実も含めると妥当な値段なのかもしれない。

 そんな事を考えていたら、いつの間にかクラープが......


「あれ? ないっ!」

「何がよ?」

「クラープがだよっ!」


 必死に手に持っていたクラープを探すレン。その手にはクラープがあった紙包みが掴まれていた。

 躍起になってクラープを探し回るレンをアリスは胡乱な目で見詰めていた。

 すると突如口を開けてこう言う。


「何言ってるの? もう食べたじゃない」

「......え?」


 つい惚けたような声を出してしまうレン。

 アリスの目をレンは凝視するがその瞳に嘘はないと分かり再度自分の行動を思い返す。

 アリスの話を耳に挟みながらクラープを食べていたが......


(あ......。あの時ね。成程、成程)


冷静に記憶を遡ってたら何となくクラープを食していのを思い出した。

本当に何してるんだ。

もっと楽しんで食べんかい。

握り拳を作ってそう自分に苛立ちを覚えたのだった。


投稿遅れてすいません。


今回はやっと王都に着きます。

長いですね......。

今思うと今までの「王都へ」編を一部とかに纏めるべきだなと思いました。

それと今回はいつもより少々長めです。

以前までは2500文字程度しか書いておりませんでしたが、これからは4000文字以上書くように精一杯努力致します!


最後に!

ここまでの読んで頂いてありがとうございます!

評価して頂けると幸いです。

ではまた次回、会いましょう!

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