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魔術侯爵家の幼馴染み  作者: 伏綸子
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王都へ〜後半〜

 アリスの説教後レン達一同の乗る馬車は殆ど止まらずに疾駆し続け無事、目的地の町――アテシュヌに着いた。

 尚、旅中で馬車が沼に嵌ってしまったこともありアテシュヌに着いたのは日が沈んだ後だ。


 レンは馬車から降り、荷物が入った鞄を抱えカウンターで背筋を伸ばし待っていた美人な女性から受け取った鍵を見て扉に三〇一と書かれた部屋に入った。

 抱えていた七日分の荷物も部屋の隅に置き一息つこうとベッドに(すわ)った。

 ここで余談だがアリスは丁度レンの左隣の部屋にいる。

 隣室とを隔てる壁は薄くはないが壁に耳を当て澄ますと微かに声が聴こえる程の厚みだ。

 レンももう十四歳で男の子だ。

 今までそういった試しはないが隣に美少女が居ると知っていてこの橋を渡らないわけがない。

 壁と密接していたベッドの壁側に移動し右耳を壁に当てる。

 すると水飛沫と鼻声が微かに聴こえてきた。


「……」


 その微かな音を静かに聴いていたレンは水の音が消えアリスがこちらに近づいて来るのを感じた。

 すると突然、

 ――ドンッ!!


「うわぁっ!」


 向こうから壁が叩かれ耳を当てていたレンは突然の衝撃音に驚き思わず声を上げながらベッドの下に落ちてしまった。

 レンが困惑している中、突如部屋に声が響き渡る。


「あら、レン。何してるのかしら?」


 問い掛けの声。

 その声の主はアリスだった。

 別室にいる筈のアリスの声が、レンのいる三〇一号室に響き渡ったのは彼女が振動を伝達する魔法、『サウンド・テリング』を使ったからだろう。

 この魔法は自分の魔力を体内から放出し空気に付着、固定し魔子を振動させて音を鳴らす魔法だ。

 アリスの怒りの籠った問い掛けに数秒遅れてレンが応える。


「い、いや。何でもないよ……」

「あら、そう? ならいいわ」


 会話を終わらせアリスは魔法を止めた。

 レンの顔は(必要無いのに)落ち着いたものだったが、内心怖く、心臓の鼓動は早くなっていた。

 この夜、レンはこの機を持ってアリスを相手にそういうことは、よそうと心に刻んだのだった。



 ○ ○ ○



 翌朝、レンは昨日と同じくアリスの乗った馬車に乗車していた。


「はぁ……」

「どうしたのよ、レン? 昨晩眠れなかったの?」


 レンの疲れ果てた溜め息にアリスが訝しそうな目を向けながらその理由を訊ねる。


「いや、単純に今日も馬車なのかってさ」


 昨日の夜まではずっと馬車に乗っていたレンは「今日も馬車か」と憂鬱な気持ちに浸っていた。


「仕方がないじゃない」

「まぁ、その通りなんだけどさ」


 言葉では分かっているとアリスの言葉に肯定するが拭いきれない嫌な気持ちにレンはまた深い溜め息をついた。


「よし! 寝よ」


 急に声を上げたと思えば「寝る」と発言。

 流石のアリスも「よし!」より「寝よ」に気を取られてしまった。


「あなたねぇ……。まだ朝なのよ?」


 アリスが呆れた眼差しを向けながらそう言った。


「でも、やることがないだろ? 睡眠は暇潰しには最適なんだよ」

「はぁ……。もういいわ、私も寝よ」


 アリスもそそくさと寝る準備を進めるレンを見てたった一人でずっと起きているよりかは、自分も寝て暇を潰そうと考えレンと同じく就寝の準備をする。


 こうして二人は暇で憂鬱な旅を「寝る」と言うだらけた方法で潰したのだった。


 ついでだが、この日の夜、二人は長時間の眠りのせいで体内時計が狂ってしまったのか夕方から翌朝まで起きていた。



 ○ ○ ○



 セルテルズ王国、首都――セリブラムの中心には王宮がある。王宮の敷地は五角形になっておりその外周は鉄壁の要塞で護られている。

 王宮内、多数の対魔法結界、対物理結界などで厳重に護られている会議室では十二貴族のうちの一人アルベルト・クラークから届いた報告書について討論が行われていた。


「……そうか、セヴィオ帝国はまたもや争いを繰り広げるつもりか」


 会議室の中心には半月状に造られた白い机とその机に沿って椅子が一五脚置かれている。

 そのずらりと並んだ椅子の真ん中に坐った、金髪の国王――エグラス・センテルズが報告書を読んだ後、苦悩混じりに呟いた。


「ですが、幸い最後の戦いで帝国は多大な戦力を失っています」

「そうです。たとえ帝国でもあの戦争から十年も経っていていない今、そこまでの戦力は準備するのはほぼ不可能でしょう」


 エグラスの不満を拭うかのように同席していた貴族達が椅子から立ち上がり帝国開戦の可能性を否定する。

 それからその場にいた貴族達は先に立った二名に続き次々と個人の意見や考えを話していった。

 ほぼ同意見の応えがその場にいた全貴族から聞こえてきたところで、


「そうだな、帝国に関しては取敢(とりあ)えず引き続き偵察部隊に調査をさせておこう。では皆、ご苦労だった」


 エグラスが今後の方針を決め、会議の終わりを告げる。

 その場にいた貴族達も王が会議室から去った後、次々と足並みを揃えて部屋を出て行く。

 こうして帝国についての話し合いは特に何の進展もなく幕を閉じたのだった。



 ○ ○ ○



 ホテルに着いた後、レンはベッドに寝転がり魔法の練習をしていた。


「……」


 たった一人の部屋で黙々と魔法の練習を進めるレン。

 彼が現在習得しようとしている魔法は『ワイヤータップ』だ。

 この魔法は簡単に言えば盗聴だ。

 前日、アリスがレンの部屋を対象に発動した魔法『サウンド・テリング』の逆の効果を持つ。

 仕組みも殆ど変わっておらず、ただ魔子を振動させる主体が人の喉では無く部屋になるだけだ。

 ただその分体内の魔力をより多く消費する。

 その為魔力を体内に大量に保持していない人は魔力の欠乏症を起こす危険性が高まる。

 とはいえ、レンにその心配は無用だが。


「あ、できた……かな?」


 レンの耳元で空気が振動し音が鳴る。

 聴こえるのは昨晩と同じく水飛沫と鼻歌。


(おお! ついにやったぞ!)


 胸の中で歓喜の声を上げる。

 どうやらこの数分間の努力で実った物は大きかったようだ。

 だがその実も直ぐに刈り取られてしまった。


「あらレン、今回は面白いことをするわね?」


 ()()部屋に声が響く。

 レンの背中に冷や汗が滲み出た。


(まさか、こんなにも直ぐバレるてしまうとは……。流石はアリスだ)


 レンの中でも「アリスは必ずやこの魔法に気付く」と予想はしていた。

 だが予想以上に早く見破られてしまった為レンは焦燥感に駆られてしまう。


「な、な、なんでもないよ?」


 あまりの焦りにより口が上手く回らない。


「はぁ……。貴方ねぇ、二晩続けてやるなんて大した度胸ね。私も思わず惘れるわ」

「す、すいませんでした……」


 真面目にアリスに惘れられ、無意識にレンも敬語になってしまう。


「もういいわ。いいから早く寝なさい、明日も早いわよ」

「はい……」


 レンはこれ以上無茶なことをするのは危険だと察したかの柄にもなく素直に従った。


結局この日も「また収穫が無かった」とレンは自分に失望するのだった。


数ヶ月後にビッグイベントがあるため、投稿ペースが遅くなります。

┏○)) さーーせん……。


それはいいとして、

最後まで読んで頂き誠にありがとうございます!

良ければ評価等付けて頂けると幸いです!

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