王都へ〜前半〜
誕生日の翌日、まだ日が昇り初めている頃。
レンの家は慌ただしい喧騒に包まれていた。
「レン! ほら急いで!」
「もう! 分かったからちょっと待って!」
朝から叩き起こされていたレンは苛立っていた。
それに対し母から急げと言う矢が飛んで来る。
それはレンの耳に刺さり当然の如くレンの興奮度を益々上昇させていく。
早朝にレンがこんなに急かされているのには当然訳がある。
〇 〇 〇
――それは遡ること約二十分。
まだ太陽が昇ってさえいない時間帯。
早めに仕事――畑作業をしに出掛けるため、マックスは早朝から起きていた。
彼が畑作業に使う道具を用意している時コンコンっと家の玄関扉を誰かが叩く。
「ん? こんな朝っぱらから誰だ?」
マックスが支度の準備を中断し玄関扉を開けに行く。
扉の向こうにはいつものアリスがいた。
だが今日の彼女はいつもと違っている。
あの純白のワンピースを着ていないのだ。
今日の彼女は袖口や裾の部分が彼女の髪と同じ金色に輝いている赤いローブを羽織っており、その下には首から胸元までが露出し裾が膝より上まであるミニドレスのような服装をしていた。
「おはようございますマックスさん。レン君はいらっしゃいますか?」
「お、おはようございます。レンはまだ寝ておりますが……」
マックスがアリスに対し敬語で話しているのはアリスがこの地の領主――リチャード・クラークの娘だからだ。アリスと普通に会話ができるのは仲のいいレンや彼女の家族などの限られた人だけだ。
「そうなんですか? 昨日レンと会う約束をしたはずですけど……」
「わ、わかりました。今からレンを起こしますので少々お待ち下さい。」
マックスは自分の息子が領主の娘との約束を放棄し寝ていることに焦りを感じすぐさまレンを起こしに行った。
「おいレン。起きろ! 起きろって!」
頬を叩きながら何度も「起きろ」と言うマックス。
何度も頬を叩かれ耳元を大声で叫ばれレンは寝そうになりながらも起きることができた。
「……何だよこんな朝っぱらに」
「アリス様が来ているぞ」
マックスは玄関にいるアリスに聞かれないようにそう囁いた。
「……なら後にして貰えよ〜」
「出来るわけがないだろ! アリス様だぞ! レンにとってはただの幼馴染みでも俺らにとっては領主様の次女何だよ!」
「あ〜もう! 分かった! 行くから退いてよ!」
勘弁したレンは自分の目の前まで顔を出していた父を鬱陶しそうに退かし玄関で待っているアリスの所に行った。
「やぁ、アリス。おはよう。今日は朝から何の用だい?」
「おはようレン! ほら私、昨日言ったじゃない。今日は王都へ魔力鑑定をしに行くって」
確かに彼女は昨日の別れ際に「また明日!」とは言った。
だが王都へ魔力鑑定をしに行くとは言っていない。
「あのなぁ、もうちょっと詳しく言ってくれよ〜」
「ごめんごめん。まぁそういうことだから早く準備してね! 一時間後に出発だから。じゃあ、また後でね!」
彼女は謝罪を軽々しく言うと出発時間を述べてそそくさと去ってしまった。
こうしてジェラルド家は慌ただしい朝を迎えたのだった。
〇 〇 〇
――母に急かされてから約三十分後
旅の準備や身嗜みなどを全て整えたレン大きめの鞄を背負って村の入口付近で待っているアリスの所へ向かっていた。
「あ、やっと来た。レンー! こっちこっち!」
こちらに向かって歩いて来るレンを見たアリスは手を大きく横に振った後こちらに来るように促す。
「やぁ。アリス」
「レンってば遅いよ〜」
「元はと言えばあんたのせいだろ」とレンは言いたくなったがここは抑え、別の質問をした。
「そ、それで王都まではどれくらい掛かるの?」
「普通なら早くて五日で着くらしいわよ」
王都までは馬車に乗って五日。
レンは村周辺の町に何度か行ったことはあるがそれも馬車で数時間程度だ。
レンにとって5日も掛かる旅は人生で初めてだった。
だが旅の準備は意外にも万全としていた。
母と父が支度をしたからか7、8日間の旅を想定して準備されてあったので問題はなかった。
「結構遠いな」
「ここはこの国でも端にあるからそれなりに遠いのよ」
「そういえば、そうだったな」
レン達が住んでいるラウニ村は属している国――センテルズ王国の中でも東端にあり王都は若干西側にある。それによりラウニ村は国内では最も王都に離れてしまっているのだ。
「でも今回は馬車を引っ張る馬に強化魔法かけるから実際は半分程の時間で着くらしいわよ」
「おぉ! それは嬉しいな!」
長旅に慣れていないレンにとって五日もの間馬車に揺られるのは精神的に無理がある。だからこそアリスの最後の言葉は物凄くありがたいものだった。
「アリス様、そろそろ出発です。ご自分の馬車に戻られて下さい。」
「分かったわ、セトディン。ほら、レンも早く乗りなさい。」
「え? いや、僕は別の馬車に乗るよ」
クラーク侯爵家に仕える執事――セトディン・ノヴァクレムがアリスに早く馬車に乗るように促す。そこでアリスがレンも一緒に乗ろうと言うがレンも幼馴染とはいえアリスと2人きりで馬車の中はきっと気まずくなるだろうと分かっておりその申し出を断り別の馬車に乗ろうとする。
「いいから、いいから」
「え、ちょっと。お、おい!」
レンも口で抵抗はするもののアリスが腕を引きほぼ無抵抗のまま貴族馬車に連れ込まれそのまま村を出たのだった。
読者さん読んで頂きありがとうございます!
前回の続きです!
色々あり出すのが遅くなってしまいました……
m(*- -*)mス・スイマセーン
これからはもう少し早いペースで出せるようにします!
また評価等付けて頂けると幸いです。m(_ _)m