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魔術侯爵家の幼馴染み  作者: 伏綸子
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序章

追記2021年4月1日午前10時30分に書き直しました。

 遠くの街まで見渡せる高い絶壁の上。

 柵を取り付けるなどしっかりとした整備がされていば周囲の村のデートスポットとなっていたかもしれない。


 ――だが、この時は違った。


 一人の少女が「はぁ、はぁ」と息切れをしながらその崖に向けて走る。


「……もう、ここまでなのね」


 金色に輝く髪を背中までスラッと伸ばし、深く美しい紺碧色の瞳を併せ持つ絶世の美少女が、絶望の淵に追い込まれ諦観の声を洩らす。


「もう逃げ場は無いな」


 木々の中から姿を消して現れたのは黒髪の少年。少女とは相反して決して美男子やイケメンの類いに入らないごく普通の少年だ。


「そのようね」

「アリス。もう終わりにしてやる」

「そうしましょう、レン。ここまで来たら終わりにしてあげる」


 金髪少女アリス・クラークと黒髪少年レン・ジェラルド。二人が揃って腰に携えていた鉄製の剣を握って引いた。鞘から抜かれた鉄剣は剣先を互いに向けて構えられる。

 絶壁を背中にするアリスから微風(そよかぜ)が吹き二人の頬を撫でた。その刹那レンの身体が視界から消えた。


「――――っ!?」


 カキーンとアリスの剣身から赤色の火花が散る。

 一歩退くとそこはもう崖で真っ逆さまに落ちていくに違いない。


「また――――っ!!」


 見えないレンからの斬撃。アリスは懸命にその剣の一筋一筋を見極め剣で受けているが、その衝撃で身体が徐々に後ろへ押される。

 そして、最後の斬撃。


「あ……」


 アリスは耐えきれず崖に落ちてしまった。

 確実に死んだ。最早助かる術はない。剣を絶壁に刺し止まるのも思考の範囲内だったが、それを防ぐために最後の斬撃の時点で崖と一定の距離を作らされてしまった。

 地面まであと約三百メートル。刻一刻と死のタイムリミットが近付く中そいつは居た。


「俺の勝ちだなアリス」

「はぁ……。また負けたわ」


 呑気なもので先程の黒髪少年レンはアリスと同じ様に頭から地面目掛け並列して落ちていた。


「てか、貴方また私の横にいるじゃない!! 仕方が無いから地面に着いた時ちゃんとタイミング合わせなさいよ!!」

「あははは……」


 地面まで残り数十メートル。時間と共に加速していく落下スピードはその数十メートルを一秒も掛けずに縮めた。

 巨岩が上から落下したかのような衝撃波が地面を轟かせた。周囲の土が飛び散る。

 アリスが地面に着地し立ったその瞬間ズドーンとレンが土を巻き上げて着地した。綺麗なまでにタイミングが合っていない。

 着地したレンの元にアリスが歩き寄る。そして一撃、鉄剣の平らな面をレンの頭に叩き込んだ。


「い――――ったぁ……」


 脳から響く痛みに悶え苦しむレン。アリスは「当然よ」とでも言う様な顔でレンを見てからフッと破顔して可愛らしい笑みを浮かべた。


「また服が汚れたわ。一度着替えてくるから今日はもうこれで解散! また後でね、レン」

「う、うん」


 可憐な少女が吹っ切った様に解散を命じる。

 その急な表情の変化にレンは一瞬の戸惑いを見せたがすぐに応えた。これも長い付き合いによる物だろう。

 レンを置いてゆっくりと帰路に着くアリスを数秒凝めた後、レンも何かを思い出したように家へそそくさと帰るのだった。



 ○ ○ ○



 太陽が山に隠れ烏が鳴き始める夕方。

 レンは庭で栽培している野菜に散水をしていた。

 先程レンが急ぎ気味に走り帰ったのはこのことだったのだろう。


  「レン、 もうご飯よ!」


 母マリーが俺の名前を呼んでいる。


「分かった、今から行く! 行くよ、ユリ」


 俺は右斜め後ろに顔をグイッと振り向けて俺より背が小さく儚い姿の黒髪少女の名を呼んだ。


「……うん……」

 

  レンと一緒に散水をしていた表情の乏しい妹ユリがほぼ真顔のまま小さく頷いた。

 と、その時。

 トントンっと誰かが後ろからレンの右肩を叩く。

 後ろに振り返るとそこには純白のワンピースを着こなし黄金色の髪を背中まで伸ばした人形のような可憐な少女がいた。


「こんばんは、レン!」

「どうしたんだアリス?」


 実はアリスは少し離れた隣の家に住むクラーク家の次女。

 レンとアリスは誕生日が近いからか幼い頃からよく森に行って二人で遊んでいた。たった二人で遊びに行く様子を見て村の人は仲良しカップルなんて言ってレン達の顔を真っ赤に染める事もあった程だ。


「実はね、これを見て欲しいの」

「これは……」


 レンがアリスに手渡されたものは花冠(かかん)だった。

 その花冠に使われている花の種類はミモザ、マーガレット、リナリアの計三種類。色は黄色、白、緑三種類だけだが色のバランスが取れていてとても綺麗だ。

 だがこの花冠は世間一般的な花冠では無かった。


「作る時に魔力を込めて見たけど、どう?」


 彼女が花冠に行ったのは物体に魔力を込めることで通常よりも壊れにくくする《魔力補強》だった。

 魔力と言うのはこの世界に存在する物質だが、通常は見えない為未だに謎に包まれている面も多々ある。

 それはさて置き、彼女は自分が行った魔力補強の具合を見てもらいたくて彼のところに訪れたらしい。

 魔力補強の具合の確かめ方はとても単純。

 魔力を対象の物体に送り、その際入った魔力量が多いと魔力補強がまだ甘く、逆に少ないと魔力補強が上手く出来ていることの証拠になる。つまりどれくらい魔力を入れられたかで分かるのだ。


 早速レンが花冠の上に手を(かざ)し自分の魔力を送ろうと試みる。

 するとレンの魔力が花冠内のアリスの魔力に押し返された。


 (す、凄い……)


 レンは顔には出さなかったが感心していた。

 彼が自分の魔力を押し返されたのはこれが初めてだからだ。

 魔力が押し返される。

 それは花冠が隙間なく魔力で満たされている証拠だ。

 これは魔力を常人より多く持ち、尚且つ魔力の操作に長けている者でないと不可能な事だ。

 ただ魔力が多いだけでは魔力の操作が上手くいかず物体に隙間なく入れられないのだ。


「流石だなアリス! 魔力が花の隅々まで入っていて簡単には壊れなくなってるよ」

「そう? 良かったぁ……。でも、まだまだよね……」


 レンに褒められて1度は安堵の表情を見せたアリス。

 だがすぐにまだ納得していないような顔を見せてそう言った。


「何言ってるんだよ、これは十分凄いことなんだよ?」

「レンの方こそ何言ってるのよ? 」


 アリスがレンを変人を見るかのような目レンを睨む。

 彼女がそんな目で見る理由はレンが数日前行った魔力補強の練習でのことだった。

 彼はその時近くに咲いていた白い花を魔力で補強し見本として見せていた。だがその見せた花の魔力補強度は彼女が今回やったものよりも硬く、丈夫だったのだ。


「そもそもなんであんなに硬くできるのよ? 魔力はちゃんと入れたはずなのに何で貴方のよりも脆いのよ?」

「それは......。魔力構造を考えながらやればいいんだよ」


 レンの言う《魔力構造》とは名前の通り分子構造の魔力版みたいなものだ。

 アリスとの魔力補強練習の際、レンが実験した魔力構造は魔力の原子同士の距離や配置の仕方などを最も硬いとされているダイヤモンドと同様の構造にしたものだ。

 それに対しアリスの魔力補強はただ魔力を詰め込んだもの。

 それではレンの魔力構造を考えた魔力補強に劣るのも当然だった。


「う〜ん……。よく分からないわ。」

「ま、まぁいつか分かるよ」


 アリスはレンの長々とした解説を真摯に聴いていたが内容が難しかったのか、それとも彼の説明が理解しづらかったのかは分からないが彼女にはその話を頭に入れられなかったらしい。


「まぁいいわ。私そろそろ帰るね! また明日!」

「うん! また明日!」


(明日? まぁ、家も近いし会うのは当たり前か)


 この「また明日!」と言う言葉にレンは不信感を抱いたが家が近いということもあり顔を合わせるのは当然だ、とそう考え納得した。


「それと、その花冠あげるわ。元々あなたへの誕生日プレゼントのつもりで作った物だものね!」


 とニッコリ笑って言うアリス。


(他人にあげる誕生日プレゼントで魔力補強の実験をするなよ……)


「あ、ありがとうな」


 レンはそれを聞いて嬉しい気持ちとツッコミたい気持ちのどちらを出せばいいのか分からなったが結局苦笑いで感謝を述べたのだった。


 その後家に帰っていくアリスの可憐な後ろ姿を見届けてからレンも家に帰ろうと後ろを振り返る。

 すると、ユリが彼を微妙な冷たい目――温度で表すと二十六度程度――で見ていた。


「な、なんだよ……」

「別に、なんでもないよ。早く帰ろう。」


 と言って先に家に帰るユリ。

 レンもそのあとをゆっくり歩いてついて行く。

 表情は分かりづらかったが何となくレンはユリが怒っていいることが分かったようだった。



 ○ ○ ○



 ユリに続いてレンが家のドアを開けると家族全員がテーブルを囲んで待っていてくれた。


「「「レン、14歳の誕生日おめでとう!」」」


 家族((ただ)し一緒に家に戻ったユリを除く)が揃ってレンの誕生日を祝う。


「ありがとう!」


 レンがそう言いながらアリスから貰った花冠をテーブルに置く。

 それから手洗いを済ませ食卓に並んで座った。


「わぁ、美味しそうだね!」

「今日はご馳走様よ!」


 母が嬉々としながらそう言う。

 食卓にはチキン、パンそれに鶏肉、ニンジンやキャベツなどが入ったシチュー。

 いつもならパンや野菜が多いスープなどが出るが今日はレンの誕生日。彼らジェラルド家族にとってはものすごい御馳走だった。


「それじゃあ食べるか!」


 レンの父マックスがあまりの御馳走を前に待ちきれなかったのか食べようと皆に促す。


「はいはい、それじゃあ食べましょうか!」


 母が呆れながらもだけど、少し面白そうに言いレンはその日の夜を家族との団欒で楽しんだのだった

小説を書くのは初めてです。

ですので率直な感想を教えて頂けるとこれからの課題に繋がると思うのでおかしいと思ったりつまらなかったりしたらそのまま言ってください!


追記4月1日10時半頃に書き換えております。

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