虹色シリアルハッピーガール
初めて髪を染めた。しかも、気の狂ったような虹色に。起き抜けにはちょっとぎょっとしたけれど、ポニーテールにしたらものすごく綺麗だったから、シンクと洗面台が一緒になった小さな台所で、わたしはひとりくるくる回った。これは可愛い、やったね、わたし。エナメルだけど通気性のいいスニーカーで、意気揚々と学校に向かった。外は晴れてて、視界の端でときどき髪がきらっと光る。
学校について、まだ授業まで時間があったから、適当に日向ぼっこでもしておくことにした。しかし、今日は本当にいい天気だ……。風はカラッと吹いていて、太陽は明るい。目を閉じて、風を堪能する。と、突然。
「なんで虹色になっちゃったの?」
そんな声が隣からかかった。そっちを見てみると、まだ小学生になったばっかりくらいの子が、横に座ってわたしの髪を見ていた。しかし、なんで、かあ。
「んー……、ハワイって、知ってる?」
少し悩んでそう尋ねると、その子はこくこく頷いた。
「外国!」
「そうそう! 風はカラッと吹いていて、太陽は明るい。それに、色んなものが虹色なんだよね。魚もそう。看板もそう。ナンバープレートもそうだし、空も虹色」
わたしが指折り数えていくと、その子はけらけら笑った。
「うそだぁ」
「うそじゃない、空にはいつも虹があって、ときどき二つ一緒にかかるんだ。すごいでしょ」
「ほんと?」
「ほんとだよぉ」
その子はやっと信じてくれたようで、興味津々っぽく目を見開いた。
「それで、なんでおねえさんは虹色なの」
「うん、わたし、ちっちゃいときにハワイに行ったんだ。泊まったホテルにも虹色のものがあって……なんだと思う?」
「んーー……石けん?」
「ナイスアイデア! いいなぁ、それ、欲しいなぁ」
「じゃあ違うの?」
なかなか察しがいい子だ。わたしは「残念ながらね」と指を立てた。
「あったのはねぇ、虹色のシリアル! ドーナツみたいな丸い……朝ごはんはバイキングで、わたしは毎日それを食べてた。残った牛乳までミルキーな虹色でさ、大好きだったんだ、それが」
「すごーい」
「でしょう!」
わたしは――そんないわれはないんだけど――すごく誇らしくなって、めいっぱい胸を張った。
「それでね、こうやって髪が虹色になったの。毎日食べてたシリアルが、ずっとわたしの中にいるんだよ」
「じゃあさあ、赤いの食べてたら、そのうち髪、赤くなる?」
その子はわたしをじっと見て、そんな風に聞いてきた。わたしは、まだ細いその子の髪をちょっと撫でる。
「きっとそのうち、ね」
「……おねえさんの髪も、さわっていい?」
「いいよぉ」
小さな手が嬉しそうに、昨日染めたばっかりの虹色の髪をさわる。この子の髪が赤くなった日にまた会えたらいいなぁと、そう思った。