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第二十二話:黒い轟き

「ふむ……やはり、戦闘が絡まなければ大したものだな。一般の学生レベルならば技術、魔力量共に大きく水準を超えていると言えるだろう」

「本当に、シャーロットさんの魔術はクラスの皆さんと比べても丁寧でかつ高速、高威力ですね」

「お二人に言われてもという感じがしますが……それでも認めてくださっているのですね。私など未熟なものですが、素直に嬉しく思いますわ」


 翌日──チェックポイントを回った私達は、出口へと戻る合間に雑談がてら、シャーロットの修行を付けていた。

 アリエッタは、シャーロットの魔術を高く評している。シャーロットも小恥ずかしそうだが、悪い気はしていないだろう。


「謙遜はいらん。多くの魔術師が慢心から立ち上がれなかったのだ。今こうしているだけでも、称賛に値する」

「そうですよ。わたしが今この学園の特待クラスに居られるのは全て先生──お師匠様のおかげですけれど、シャーロットさんはほとんど独学でそこまで至ったのでしょう。わたしにはとても真似できません」

「あ、アリエッタさままで……もう」


 アリエッタには遠く及ばないとは言え、彼女の潜在能力は本物だ。素の性格は好ましいものだったし、やがてはお互いに刺激を与え合う関係になるやも──などと考えると、感覚的には娘の友人を見たような気持ちというか。私としてもシャーロットには好意的になってしまう。

 飽くまでもアリエッタが私の一番という事に変わりはないが、それでも出来る限りの手助けをしようと考える。


「ですが……私からすればアリエッタさまこそ、すごいと思いますが。仮に全力を出しても、私では熊の魔物に楽勝とはいきませんでしょうし、お師匠様が良いとはいえ、十二分に稀有な才能ではありませんか」

「いえ、本当にわたし自身は普通なんですよ。詳しく説明するわけにはいかないんですけど、わたしのお師匠様は世界一なんです!」


 ヒトに明確な順序を付けるのはどうかと考えないでもないが、こういう事を言う弟子だ。可愛いのは仕方があるまい。

 だが、一つ聞き捨てならんな。


「そうは言うが、高度な教育に付いていくのもまた素質と言えよう。それも立派な才能だ」

「そうですか? ……いえ、そのお言葉、ありがたくいただいておきますね」

「ああ」


 私は中途半端である事が好きではない。故にわからない事はわかるまで教えてから次に行く。

 アリエッタが今の位置にいるというのは、それだけ彼女が歩みを止めず進んできた証だ。

 傲らぬに越した事はないが、謙虚すぎるというのもいかんな。


「……と、そろそろ集合の時間ですね。移動を始めておきましょうか?」

「置いていかれては困りますものね」


 今回の校外学習は、思わぬ収穫になった。

 しかしそんな所で、このキャンプにも終りが近づいていたようだ。

 このキャンプでアリエッタはそれなりに高いレベルでの実戦を経験する事ができ、シャーロットと出会い、希少属性を知った。

 その全てが、これからのアリエッタを強くするだろう。


「本当に……楽しかったですわ。テオさまとアリエッタさまのおかげで、魔物の溢れる森も怖くありませんでしたし、何より友人との語らいなんて諦めていたものでした。重ねて、お礼を申し上げますわ」


 だがそれはシャーロットにとっても同じだったようだ。

 直接の戦闘こそ出来ないものの、目の前で繰り広げられる戦いから目を逸らさずにはいられる様になっている。これも彼女にとっては小さいが確実な一歩となっただろう。

 友人とのという話は、アリエッタや私にとっても同じだ。


「礼はいらん。新しい友人が出来た事が嬉しかったのは私達も同じだ」

「そうですよ。わたしにとっても、実りある体験でした」

「お二人とも……!」


 お互い様だという事を伝えると、シャーロットとは俯いて震え始める。

 ……いかん、あれが来る。

 新しい友人はどうにも涙もろく、感情表現が豊かという事が分かったのも収穫といえばその一つだろうか?

 抱きつかれると反応に困るし、かといって避けてしまうのも何だか申し訳ない気がするのだが──

 結局少女の涙には勝てずに、諦めて覚悟を決めようとする。その時だった。

 ──森の彼方此方で、邪悪な魔力が膨らんだのは。


「アリエッタ」

「はい……感じてます」

「えっ……? あ……! な、なんですの……この魔力……っ」


 私の僅かな後にアリエッタが。少ししてからシャーロットが、森の彼方此方に現れた魔力を感じ取った。

 充実しているあまり、忘れていた。元々の目的は、あれ(・・)とアリエッタをぶつける事だった。

 そう──アタリとした熊の魔物を遥かに超える存在『大当たり』である。


「こ、こんなの……! 熊の魔物とも比較になりませんわ……! み、みんな殺されてしまいます……!」


 その魔力に、シャーロットが絶望を口にする。

 なまじ力を測る能力が優れているばかりに、発露した魔力を感じ取ってしまったのだ。

 言う通り、突然現れたのは特待クラスの生徒でも相手にならない凄まじい魔力だった。

 だが一つ彼女は勘違いをしている。


「彼方此方で戦闘が起きているな。アリエッタ、お前はここから南へ向かえ。そこが一番近い。私は周囲の救援に向かう」

「はい、先生」

「そ、そんな……いくらお二人でも!」


 救援を命じる私に頷くアリエッタ──そんな私達を止めるシャーロット。

 恐らくは、『大当たり』の開放された力を感じ取ったからだろう。私達でさえ、この魔力の持ち主の相手は厳しいと感じているのか。

 珍しく、見誤っている。確かに『大当たり』の魔力は高い。それに比較すれば、熊の魔物との戦いでアリエッタが見せた力も及ばないと考えているのだろう。


「案ずるな。アリエッタも私も、まだ本気は出してない」

「で、ですが……っ!?」


 シャーロットの心配を打ち払うように、アリエッタが魔力を纏う。

 その力に、シャーロットは抗議を止めた。


「う、あ、なんて、力ですの……!?」


 気圧されているのだ。

 友人だから、温厚だから。アリエッタを知っていてなお、一歩足を退けるほどに押し寄せる魔力を、感じ取ったのだ。


「シャーロット、お前は護符を破るといい。今なら安全に学園に帰れる。他の者も命の危険はないが──まあ、痛い思いをするのもしのびないからな」


 既に学園の生徒が出てくる幕ではない。暗にそう告げると、シャーロットは歯噛みする。

 私はアリエッタに魔術師の目を付けて、その場を後にするのだった。


 ◆


「と、言った所で素直に帰るものでもないか……」


 『大当たり』の内一体の首なし死体を見下ろしながら、私は魔術師の目を通して見える光景に、ため息を吐いていた。

 シャーロットは臆病だが優しく──気高い。いくら逃げられると告げられても、それを実行するかどうかは微妙なところだと、予感はしていた。

 実は『取命の護符』には私が強制的に発動させる機能もあるのだが──

 案外、それが発動するような状況がショック療法的な役割になるかも知れない。

 あるいは、土壇場ならばシャーロットの心境に変化が訪れるか、など。

 様々な考えを巡らせつつ、今度はへたり込む生徒に自身の目を向ける。


「て、テオドール……さん」

「護符を破るといい。先程も見たが、少なくとも転移の機能はあるようだからな」

「わ、わかりました……! あ、ありがとう……」


 礼を残し、生徒達は護符を破り捨てる。すると、三人の生徒は光りに包まれ、その場から姿を消した。今頃は校庭に放り出されている頃だろう。


「これで一通り始末は付けたか」


 私達を含めた特待クラス九班のうち六班の救護は、これで終わりだ。

 間に合わなかった者達もいるが、その彼らも痛い目にあっただけ。今頃は校庭で呆然としているか命がある事を感謝しているかのどちらかだろう。

 だが森に放たれた十体の『大当たり』の内九体はこれで片付けた。後はアリエッタが相手をしているものだけだ。

 さて、今はどの様な場面か。私は徒歩でアリエッタの元へ向かいつつ、魔術師の目へと意識を向けた。


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