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第十九話:課外学習当日

「二十六……二十七。よろしい、全員揃っているな」


 薄暗い森。普段はあまり人が近寄らぬ森。

 特に最近は黒い噂が広がっているせいで、訪れる者はほぼ居ないという。

 そんな森の入り口に、我々特待クラスの二十七名にヴァレンスを加えた総計二十八名は集まっていた。

 薄暗く、怪談じみた噂もある森は不気味な雰囲気に包まれている──が、そんな雰囲気も気楽な学生の賑やかさには勝てないようだ。


「静かに。このキャンプの過ごし方について説明する。これは校外学習とは銘を打っているものの、紛れもない実戦だ。説明を聞かん者には帰ってもらうぞ」


 とはいえ、そんな学生達も真面目であるがゆえ、ヴァレンスの言葉には逆らえない。

 すぐさま静けさを取り戻す森の空気だが、やはり漏れ出る喜びが、不気味さを返してはくれなかったようだ。

 どことなく浮かれた空気にヴァレンスはため息を一つ吐き出す。


「……では改めて説明しよう。何度か説明した事だが、このキャンプでは危険地域での調査を想定したものだ。調査地点を想定したチェックポイントを周り、魔物の棲む土地で寝泊まりするのが今回の課題となる」


 ヴァレンスの説明は、本人が言う通り予め何度か説明された事だった。

 その上で今説明する意味を理解しているのだろう、生徒達の口が挟まれる事はない。


「開始予定時刻は十時から。終了は二十六時間後の十二時だ、それまでにこの場所に集合しておく事だ。もしも体調不良等を感じた場合、異常を感じた時点でここまで戻ってくるように。それが出来ないような状況に陥った場合や、トラブルが有った場合は念話の魔道具で連絡しろ。私が迎えに行く事になっている」


 それは、この校外学習が実戦的で、ふざけていれば命に関わるという事を十分に理解しているからだ。

 腕に覚えがある特待クラスの面々だからこそ、力試しの機会を楽しみに思っているようだが、真剣であるからこそこの場にいるというのもある。

 ヴァレンスとて、教師としてのキャリアがある。生徒達の真剣さは分かっているだろうが──それでも重ねて説明するのは、生徒達を想っているからこそだろう。


「あー──それで、だな。知っている者もいるだろうが、最近この『降魔の森』で新種が見られているという噂を聞く。そこで、今回はガーディフ校長より特別な魔術符が配布されている」


 しかし今回は──実のところ『命の危険』というものはまったくなかったりする。

 魔術符の配布という、今までの説明になかった要素に、生徒達もざわつきを抑えられない。

 荷物より魔術符を取り出したヴァレンスはこれ以上無いくらいに苦い顔をしている。

 その上で、私に抗議の視線を送ってきた。


「これは『取命の護符』という護符で、あー……ガーディフ校長が手ずからお作りになったものだ。これを、一人一枚持ってもらう」


 私は知らん顔をしながら、ヴァレンスの説明を聞いていた。

 ガーディフが作ったという事になっている護符。

 ヴァレンスと私の関係を知るものが見れば気づくだろう。実際に護符を作ったのは私である。

 その効果は──


「これは破ったり、大きな怪我を負ったりとした条件を満たす事で発動する護符で、その瞬間、治癒の魔術と転移の魔術が同時に発動するものとなっている。転移先は学園だ。つまり、緊急脱出用の道具というわけだ。なので、間違えて破ったりしないように。その時点で、その者の課外学習は終わりという事になる」


 単純明快。要は死ぬような状況に陥った時、回復して学園まで送り戻すというものである。

 こういったものさえ用意しておけば、仮に生徒が危険な生物とあたっても死ぬ事はない。


「えっ……転移と回復って……嘘でしょ?」

「転移って普通大きな魔道具で行う『儀式』でやるもんじゃないの……?」

「それをあんな小さな護符にって……校長先生ってそんなに凄かったんスか?」


 その効果を聞かされた生徒達の反応は、懐疑的と言ったものだった。

 言う通り、転移の魔術は大きな据え置きの器具にじっくりと大量の魔力を注ぐ『儀式』という方式で発動するのが通常だ。

 紙切れ一枚に転移を込めるというのは、一般的にはありえない事とされている。


 が、私にかかればこの程度は容易い。

 ついでに付け足せば、『取命の護符』は死亡にも対応している。身体が消滅してしまっても魂が残っていれば、復活させる事はそう難しい事ではない。

 とはいえそれを告げても、信用はされないだろう。敢えて説明を省いたヴァレンスの判断は正しい。


「そういうわけで──命の危険というのはまあ、比較的少ないだろうが、うむ……決して油断はせぬように。痛いものは痛いぞ」


 ヴァレンスの説明も何処か投げやりだが──生徒達が油断する事はないだろう。殆どのものが護符を信用していないように見える。

 言い方は悪いが、全く魔術を知らない人々が居たとして、その者達に魔道具を説明するようなものだ。常識を外れた存在が受け入れられるのは難しいだろう。


「では、そろそろ時間だ。これより第一回校外学習を開始する。このキャンプが諸君らにとって実りあるものになる事を祈っている」


 いよいよお待ちかねの開催の宣言をしたヴァレンスだが、生徒達の反応は無理もない。

 護符を胡散臭く感じているのだろう。

 しかし行動を起こすものが増えると、正気を取り戻したかのように出発していく。


「先生、わたし達も出発しますか?」

「そうだな。……シャーロット、行けるか?」


 それでは我々も、と考えている所でアリエッタがやって来た。

 傍らにはシャーロットがいるが──


「ひっ……よ、よろしくてよ……」


 その姿は負けん気が強いいつもの彼女とは一致しない、あの山羊頭の襲撃の際に見た弱々しいものだった。

 『大丈夫』というのはもう出発できるかという返答に対するものだという事はわかっているが──別の意味で大丈夫ではなさそうだな。


「では行くか」

「はい! 楽しみですね、先生」


 それでも彼女の実力ならば『アタリ』でも問題はない……はずなのだが。

 護符を持っている以上もしもの事は発生し得ないが、一応気にかけるくらいはしておいてやるとしよう。

 平均で言えば他の班よりも遅めに、私達の班は森の中へと出発した。


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