P15~P18 約5800文字 月明かりは有為子の顔に届かない。の巻
最初のほうに十月末とかかれているのに、明るい一日のできごとと書かれている。事件は深夜に起こるんだけど、三島はなぜこの日を小春日和に設定したのか?っていう疑問が湧いた。
なんでかというと、10月の明るい一日って、確か小春日和って言うよね。まあ、秋晴れ、っていう言葉もあるくらいだから晴れていたほうが自然ってだけかもしれないけれどね。
でもさ、小春日和って、俺のイメージだと、これから冬の寒さに覚悟し始める季節に半袖でもいられるような暖かい日が思いがけずやってきたって感じでさ。
しかも、春とか夏よりも空気が澄んでいて空が高いじゃん? 紅葉とかが目に入る中、感じるはずの肌寒さが無くってあったかいっていうのは、変にテンションにあがっちゃう気がするんだよね。
で、なんで、テンションおかしくなる話しをここまでしてきたかっていうと、有為子が死んでしまう事件っていうのは村をあげて野次馬がいるからさ。しかも、犬の群みたいに現場に駆けて行ってると書かれている。みんな、テンションたっけぇな、おい。って思った。
あと、舞台となる場所の描写として、その夜は月が明るくて、刈り取られた稲が影をつくっていたり、黒い人影でできていたり、有為子が黒っぽい服を着ていたり、その有為子が顔をたいそう白かったり、ということが書かれている。
やっぱり、白と黒の対比で映像が頭に浮かびやすいな。
さて、それじゃ前置きが長くなっちゃったけど事件の内容はこんな感じ。
有為子が、脱走兵を匿っていて、弁当を届けようとしたところを、憲兵に待ち伏せされて、詰問された、と。それで彼女は、溝口含めた野次馬たちの中で脱走兵の居場所を教えてしまう。で、その脱走兵というのは病院で知り合った兵士で、自分を妊娠させた男、ということ。
ちなみに、これは溝口と一緒に見物している学友が教えてくれたとのこと。
ははぁん、さてはこいつ、恋愛シミュレーションゲームに出てくる、サポート役の男友達的ポジションだな。
なんつって。
でも、不自然な気がしたんだよね。溝口、誘いに来てくれる友達がいるんじゃん。
それとも、普段は誘わないけど、その学友もテンションあがって平等にみんなに知らせて回ったってことなのかな?
まあ、その前に溝口が窓から見下ろした村の道を村人たちが犬の群のように駆けているという描写があるんだけどね。で、何事かと二階から降りていったら玄関に学友の一人がいて叔父や叔母、溝口に対して、目を丸くして、有為子が憲兵に捕まっているから一緒に行こうって叫んだんだって。
まあ、こんな状況が描かれていたから、それだけ有為子が村人から注目を集めていたっていう表現なのかもしれないけどね。
そんで、溝口は男をかばっているときの有為子の顔を、こう評している。
有為子の顔がこんな美しかった瞬間は、彼女の生涯にも、二度とあるまい←引用
そして、この美しかった顔の説明として、こうある。
「ただ拒むために、こちらの世界へ差し出されている顔。」←引用
そして、この拒みっぷりを、いろいろな言葉を使って表現している。自分の顔は世界から拒まれてるけど有為子は世界を拒んでるとか、不動の顔とか。
あとは、これね。
「歴史はそこで中断され、未来へ向かっても過去へ向かっても、何一つ語りかけない顔。」←引用
そのときの有為子の顔の美しさは永遠ってことなんだろうか?
でも、何一つ語りかけないとも書かれてるしなあぁ。
永遠の孤独?
わからん。
ま、続けよう
この顔の美しさの例えとして、切り株の上、としている。
「新鮮で、みずみずしい色をおびていても、成長はそこで途絶え、浴びる筈のなかった風と日光を浴びて、本来は自分の者ではない世界に突如として曝された」←引用
で、ここまで、男を守るために憲兵たちや世界そのものを拒んでいるときの顔は美しいということを説明している。
最後には有為子は憲兵に脱走兵の居場所を教えてしまうんだけど、そのまえに、立ち上がった。そして、そのとき笑ったように見えたと。
だけど、月明かりが届かなくなってから有為子の顔がどう変わったかは見えなかったと、溝口は言っている。
そして、有為子が男を裏切る瞬間を見ることができていれば、人やあらゆる醜さを恕す心が自分の中に芽生えたかも、とも言っている。
なるほどね。前回の部分では、溝口は自分の恥を知っている有為子も含めて、他人なんかいなくなっちゃえ、って思ったんだけど、その有為子が生涯で一番美しい顔をしているところを見てしまった、と。
そんな有為子が恥をかく瞬間を見ることができていれば、みんな恥かきっこでみんないい、て思えてたかもしれないってことか。
三島的には、溝口のあり得たかも知れない現在を読者にイメージさせるってことだよね? そして、溝口の現在についてはP18まで進んでも全然書かれてねぇ! ってことに気がついた!
まあ、こういうことかな?
「な、な、なあ、有為子。お前の、は、は、は、恥ずかしいところも見せろよぉ。そんな綺麗なところばっかり見せつけやがって。勝ち逃げかよ?」
そして、最後の一文は憲兵が大声で脱走兵の居場所を叫んで終わる。
なんか、サスペンス系の海外シリーズドラマの終わり方みたい。三島もクリフハンガーっぽいことやってるってことに驚き。
今日はこの辺までかな。
あ、あと月明かりは有為子の顔に届かなかったけど、これ、太陽の日差しの下で行われてたらどうなんだろう? 見えたのかな?
前回さ、溝口は太陽に顔を向けられないみたいなことを言ってたけど、太陽と月の関係が世界と溝口の関係に似てるみたいなことも含まれてるのかもね。
月である溝口は有為子のすべてを知るには、自ら発する光が足りない、みたいな。
月と太陽の関係を人間関係に例える話しは昔のラブレターの例でよくあったような気がする。たしか、あなたは僕の太陽です、なんて感じのさ。
そこらへんの、人には人を照らすような力を持つ人と照らされる側の人がいるというような要素を、綺麗に修飾した表現なのかもしれないなんて思ったよ。
それじゃ、今日はこの辺でね。
そんじゃ、まったねー。