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逃れられない現実2
「なんて本読んでるの?」
そう声をかけてくれたのが圭一君だった。
私はいつも男子に嗤い者にされていたので、話したくなくて、本の表紙を黙って見せた。
「へーありがと」
そう言って去っていく後姿。
友達の元へ去って行って一言。
「なんかよく知らない小説読んでた」
あの時。
私が声を出せていたら。
私もこの小説初めて読んだんだけどあんまりおもしろくないかなあ。
この作家さんのこの本が面白いんだよ。良かったら読んでみて。
普段はこの作家さんとこの作家さんを読んでるんだ。あなたはどんな本を読むの?
そう声をかけられていたら。
何か変わっただろうか。
私でも、変えられただろうか。
いまとなってはもう話すこともできない。
連絡先も知らない。
顔さえ、良く覚えていない。
名前もあってるかわからない。
ただ、話しかけられたのにそれを拒絶したことだけは確かだ。