二つの計画
「で? これからどうするんだ?」
浜辺に寝転がるフォートに、レイは尋ねた。
「お前が仕掛けておいた爆弾の爆発後からは、死体が2つしか見つからなかった。その特徴から見て、おそらくオットーフォンとゲイナスのものだ。たぶん残りの二人は……」
「そうだね……まあ、生きてるだろうね」
黒幕の男とウェルゴーナス。この二人の死体がなかった以上、恐らく彼らは生きているだろう。あの爆発を生き延びて、合衆国に帰還している可能性が極めて高い。
「……それで? どうするつもりだフォート?」
尋ねたレイに対して、フォートはしばし考え込む。
「……アイツらを放っておいたら……たぶん戦争になる。世界情勢から見て、それは間違いない。ついでに、敵さんが持っている“洗脳”の能力もあわせて確実だ」
「……じゃあどうするんだ?」
「……止めるよ。戦争を」
「!」
フォートの答えに、レイは驚く。
“戦争を止める”。いくらフォートとはいえ、そんな事が一個人に可能なのか? そんな疑問を、レイは抱いていた。
「……考えはあるのか?」
「まあね。考える時間だけは、嫌になるほどあったから」
「……なら」
「でも、とても危険だ。もしかしたら、取り返しのつかない事態になるかもしれない」
「……」
フォートの言葉に、レイは黙り込む。
「……ハッキリ言って僕は、戦争になろうが知ったことじゃないと思っているよ。正直に言うとね。世界のどこかで、知らない誰かが死のうとも知ったことじゃない」
「……」
「でも、それでも僕は戦争を止めたいんだよ。それが僕をかばって死んだ会長への……戦争を心から嫌っていたあの人への、せめてもの罪滅ぼしだと思うから」
フォートの言葉を聞くと、レイはため息を漏らした。
「……なら、私も手伝わないわけにはいかないな。その会長さんには、お前を助けてもらった借りがある」
「……それは心強いことで」
フォートはそう言うと、“よっこらせ”と口から漏らしながら立ち上がった。
「それじゃあ、戻ろうか。僕らの居場所に」
レイが頷くと、二人は暗くなり始めた町を歩いて行った。
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「あーあ、全くもって、どうしたものかねえウェル君? 俺が立てていた計画がぜーんぶ、台無しだ」
合衆国の首都、そこに存在する大統領府。
本来この場所は、国民から選ばれた指導者だけが住まうことを許された場所だ。
しかし今そこに居たのは、国民に選ばれたわけでもなく、かといって国民を恐怖で支配しているわけでもない。
大統領を洗脳し、国民を扇動することによって国を自分の意のままに操る男だった。
「俺はさあ、経済とかそっち方面の才能は無いわけだよ。そういうのはからっきしダメだ。かといって、洗脳して廃人化した人間じゃあ、期待は出来ない。だから腹黒い野望を持った、経済の専門家が必要だったわけ。オットーフォンみたいなね」
「……そうだな」
「なのにさあ、まさかの爆死! あーあ! わざわざ帝国まで出張したのが全部パーだよ! どうしてくれるんだって話だ!」
「……で? どうするんだ?」
大統領だけが座ることを許された椅子に座り、それを“クルクル”と回転させる黒幕の男に、ウェルゴーナスは尋ねた。
「どうするってそりゃあ……やるっきゃないでしょ?」
「……今の戦力でか?」
「そうだよ。こうなったら、合衆国民3億総玉砕の覚悟で戦うしかないじゃん。総力戦さ。そうすればまあ、あの帝国にもちょっとくらいは傷をつけられるでしょ」
「……」
「……わかってるよ、君の言いたいことは。無理だって言いたいんだろ?」
「……その通りだ。例え合衆国が“女子供に至るまで”総動員しようとも、今のこの戦力では、まともに戦えるとは思えない。特に問題なのは、物資だな」
「……食料…ね」
「その通りだ。他の国も似たような状況とは言え、合衆国の蝗害は特に酷かった。おまけに、帝国とは違って買い占めによる備蓄も残っていない。兵士と武器はあっても、このまま戦えば間違いなく兵站がすぐに崩壊する」
「……」
黒幕の男は“はぁ”とため息をこぼす。
「……まったく、ほんとに困っちゃうよねえ。経済の復興だけが、残された最後の道だったってのに。経済を復興させて、その資金で食料を備蓄する。それだけが希望の道だったんだよなあ」
「……他の奴らにとっては、“希望”じゃなくて“滅亡”だろうがな」
ウェルゴーナスの言葉に黒幕の男は「ははっ、その通り」と笑った。
「まあ、こうやって笑っているわけにもいかないね。何か他の方法を考えないと……」
――――コンコン
「はーい、どうぞー」
「シツレイシマス」
秘書風の女が、扉から入ってきた。女の目には精気が感じられず、明らかに洗脳されていた。
「どうしたのかな?」
「テイコクカラ……カラカラ……レンラクガ」
「連絡? おいおいまさか……宣戦布告じゃないだろうね?」
謎の男はそう言って、顔を険しくする。もし宣戦布告だとしたら、それは最悪の展開だった。
なぜなら、このまま戦争になれば間違いなく、男の計画は総崩れになるからだ。
これまでに男が立ててきた計画はどれも『いかにして有利な状況で戦争をするか』という一点において一貫していた。
初めに彼が立てた計画は、帝国で年に一度行われるパーティーを爆破することで、帝国の首脳部を全員暗殺し、混乱した帝国を一気に殲滅するというものだった。
しかしそれが失敗し、次に立てたのは『帝国を弱体化するのではなく合衆国を経済的に強化する』と言う作戦だった。
だがこれも失敗した。
もし今戦争になれば、合衆国は為す術無く帝国に蹂躙されるだろう。そうなれば、彼の計画は全て台無しだ。
なぜなら彼の目的とは、帝国による一方的な虐殺ではなく、帝国と合衆国の双方に甚大な被害が出ることなのだから。
(まさか……先手を打たれた? こっちの目的が相打ちだと知ったなら、敵の最善手は“相打ちになる前に敵を殲滅”することだ。だとしたら……まずいね)
男は冷や汗を流した。しかし洗脳された秘書の言葉を聞くと、彼は驚きを隠し得なかった。
「テイコクノミカエルショウカイカラ、ケイザイシエンノハナシガモチカケラレマシタ」




