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奴隷から始まる異世界マネーウォーズ   作者: 鷹司鷹我
紙幣製造編
89/110

失する

「ギャアアアアアア!」


 突然、それまで静かだった室内に、悲鳴がこだました。フォートが振り向いたそこには……


「なっ……!?」


 フォートは思わず、そんな驚きの声を漏らした。

 仲間同士であるはずの帝国騎士団の兵士達が、同士討ちを始めていたのだ。



「や、やめろ! 俺は仲間……ぎゃああ!」


 兵士の一人が、正気を失っている様に見える仲間の一人に切りつけられた。


(なんで同士討ちなんて……!? いや、これは仲間割れと言うよりも……!)



 フォートの考えたとおり、それは同士討ちというよりも、一方的な虐殺だった。事態がつかめず困惑する兵士達を、一部の者達が一方的に攻撃する、そんな光景だった。




「なっ……!? よせ、お前達!」


 ウィーゼルは慌てて、仲間を攻撃する兵士達に叫んだ。しかしそんな願いも虚しく、彼らは戦いをやめようとはしなかった。





 この瞬間、フォートの脳内で尋常ではない量の情報が処理され始めた。



(突然の裏切り? それとも前から潜入していたスパイか……!? いやそれはない……さっき言っていたこの男の能力……洗脳する事が可能……操られた? いや、それならなぜ始めから……さっきのカウントダウン……発動条件! 時間制限か!)


 フォートは瞬く間に答えを導き出した。そしてその瞬間、最悪の展開を予測した。

 すなわち、この混乱に乗じてオットーフォンを奪還されるということを予測したのだ。



「ウィーゼルさん! オットーフォンを!」


「……! わかった!」


 同じく全てを理解したウィーゼルは、すぐさまオットーフォンの元へと駆け寄った。が、


「ウェル君!」


「了解だ」



 ――――ガキィィィン!


「!」


 オットーフォンに駆け寄ったウィーゼルを、ウェルゴーナスが食い止めた。



「お前が俺の後継の戦士長か? どうやら、人手不足のようだな」


 ――――ガィィィィン!


「俺よりも遙かに弱い」


 ウェルゴーナスは剣捌き一つで、現帝国軍戦士長のウィーゼルを撥ね飛ばした。そしてオットーフォンの服を掴むと、そのまま窓に向かって走り出した。



「逃がすか……!」


 一瞬おくれて、レイが反応する。レイは床を強く蹴って、逃げるウェルゴーナスを追いかけた。フォートもまた、目の前の男に銃口を三度向け直す。





 状況は緊迫していた。逃げる側は、ミス一つで命を落とす状況。逆に追う側は、失敗すればこの先より多くの犠牲者が出てしまう。そんな状況。


 それ故だったのだろう。逃げるでも、ましてや追うでもなく、“他の目的”のために動くゲイナスの行動に、誰も気がつけなかったのは。





 ――――ヒュンッ!


 空中を、弧を描いてナイフが飛んだ。ゲイナスが投げたそのナイフは、美しい放物線を描きつつ、しっかりとフォートの心臓をめがけて飛んでいった。





「先輩、これであなたは幸せにはなれない。愛する人を自分のせいで失ってしまえば、もうあなたは二度と、不幸のどん底から立ち直ることは出来ないでしょうね」









 ――――バッ!


「……ッ!」


 フォートは勢いよく突き飛ばされ、地面に突っ伏した。

 頭を打ち、混乱する視界の中で彼が見た光景は、自分をかばったばかりに、胸に深々とナイフを突き刺してしまったミカエル・ビスマークの姿だった。









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「……っ! 会長!」


 最初に叫んだのは、ドラガだった。倒れるミカエルに駆け寄り、その体を抱きかかえた。



「会長! ああ! そんな……こんな……!」


 ドラガは深々と突き刺さったナイフを見て、それが間違いなく心臓に到達していることを理解した。





「……フォート……は……無事……か?」


「無事です! 無事ですから! もうしゃべらないでください! これ以上はもう……!」




 ――――バリィイン!


 一般人の負傷者が出てしまい、一瞬だけ停止したその間隙をついて、謎の男、ウェルゴーナスと彼に抱えられたオットーフォン、そしてゲイナスは窓から逃亡した。



「……! 外の部隊に連絡! すぐに追いかけろ! それと緊急で、医者を呼べ! 大至急だ!」


 ウィーゼルは部下にそう告げると、敵が逃げていった窓から自らも飛び出し、追いかけていった。



 しかしフォートは、そんな状況のただ中にあっていまだ、動けないで居た。




「会……長……」


 フォートの口から、そんな声が漏れ出た。しかしそれでもなお、彼は立ち上がることが出来ずに居た。


 頭を打った所為で立ち上がれないのではない。そんな頭痛など、とうに消えていた。

 ただ単に、目の前で起きている事全てが信じられず、現実感がなかっただけだった。





「フォー……ト……は……いるか?」


「!」


 会長がそう呼び、ようやくフォートは現実へと引き戻された。



「会長! います! ここにいます!」


 フォートはそう言うと、慌てて駆け寄る。


「なんで……なんでこんな! こんなのって……なんで……!」


「気に……するな……お前が無事なら……それで……」


「良いわけないでしょう! あなたが死んだら……そんなことになったら…僕は…僕は…!」


「いい……のさ……おいぼれ……は……こうやって死ぬのが……お似合いだ」


「ふざけないでください! あなたまだ、そんな年じゃないでしょう!? まだまだ生きて…もっとやらないといけないことがあるでしょう!?」


「ない……さ……全部……叶ったよ……お前のおかげでな……」


 ミカエルはそう言って笑った。そして、彼の手から徐々に力が失われ始めた。


「あとは……任せ……たぞ……お前……達……」


「……会長? ……そんな……嘘だ……嘘だ! あああああああああああああああああ!」




 フォートの悲壮な叫びが、辺りをこだまし続けた。


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