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奴隷から始まる異世界マネーウォーズ   作者: 鷹司鷹我
紙幣製造編
87/110

回想と顛末

モンハンダブルクロスをやっていたら、徹夜していました。

そのせいで投稿が遅れてしまいました。すみません……

「僕はこれから、ダリア商会に行く」


 向かいに座るターラとリンナに、フォートはそう告げた。それを聞いて二人は驚愕する。


「えぇ!? ど、どういうことですかフォート様!?」


 ターラはすぐに聞き返した。フォートは「まあ落ち着きなよ」とターラをなだめる。そして、部屋の外に合図した。


 ――――ギィィ……


 扉が開き、そこから現れたのはレイだった。





「彼女の名前はレイ。僕の友達だ」


「……どうも」


 入ってきたレイの姿を見るなり、ターラの表情が険しくなる。


「友達……ですか」


「そう、友達。何か聞きたいことでもある?」


「……本当に友達ですか?」


「……? 一応僕はそう思っているけど……君はどう思ってるレイ?」


「……友達」


「だってさ。これでいい?」


 フォートの答えにすこしモヤモヤしつつも、ターラはすぐに次の質問に入る。


「ダリア商会に行くって言うのは……その女の所為ですか?」


「そうだね」


「……なんで?」


「彼女の命を救うため」


「……」


 フォートの答えに、ターラは黙り込む。しかし今度は、リンナが口を開いた。


「……フォートさんは……その……レイさんを助けるために……ミカエル商会を捨てるんですか?」


 リンナの言葉に、レイは一瞬反応する。

 一方のフォートも、すこし悲しそうな顔をした。


「……確かにそうなるね。でも勘違いしないで欲しいのは、結果として彼女を救うために僕はダリア商会に行くけれど、でも僕にはミカエル商会を裏切るつもりは毛頭ないって事だ」


「どういうことですか?」


「僕はダリア商会に潜入して、ダリア商会を内部から壊滅させるつもりだ」


「!」


 フォートの言葉に、ターラとリンナは再び驚愕した。


 ダリア商会は、最近になって勢力が衰えつつあるとは言っても、それでも帝国一の商会である事に変わりない。それを“壊滅させる”などと言うことは、到底信じられないことだった。




「……どうやって……その……するんですか?」


「今はまだ言えない。でも、いずれわかると思う。僕が何をしようとしているのか、そして君がどうするべきかはね、ターラちゃん」


「……」


「僕はこれからダリア商会に行く。その間、ミカエル商会は無防備なんだ。だからターラちゃんには、ここに残って、ミカエル商会を守って欲しい」


「……私は! ……私はフォート様と……」


 言葉を詰まらせたターラを見て、フォートは少し笑う。


「そういうと思ってたよ。だから君たち二人を呼んで、わざわざこのことを伝えたんだ。君らに何も言わなかったら、二人とも僕と一緒にダリア商会に行こうとするからね」


 フォートの言葉に、二人は黙り込む。なぜなら、二人ともフォートの言うとおり、彼についていきたくてたまらなかったから。


「でも、そうするわけには行かないんだ。ダリア商会は、とても危険だからね。君ら二人を、そんな危険な目に遭わせるわけには行かない。とくにターラちゃんには、ここにいてやってもらわなくちゃならないことがある。とても重要な役目だ」


「とても重要な役目……私に出来るでしょうか?」


「大丈夫さ。これまで僕が教えてきたことを覚えていれば、きっと気がつける。いつ、何をすべきかはね」


「……」


「さあ、話は終わりだ。こんな密会を知られたらまずい。さっさと解散して、何事もなかったかのように振る舞おう」


「フォートさん……1つだけ……約束してください」


「……? なに? リンナちゃん」


「……きっとターラさんもおなじ気持ちでしょうけど……私達、待ってます。フォートさんが戻ってくるのを。だから……絶対に……」


「……わかってるさ。僕は必ず戻ってくるよ。だってここには」


 フォートはそう言うと、二人の涙を流す少女の頭をなでて


「こんなに僕のことを心配してくれる二人がいるんだからね」


 そう言った。







<<<<   >>>>


「ターラちゃんは本当に上手くやってくれましたよ。僕の予定通り、一般の客に紛れてダリア商会の紙幣を金と交換してくれた。おかげでこうして、ダリア商会の返済能力を壊滅させることが出来ました」


 フォートはうれしそうにオットーフォンに告げた。それを聞き、オットーフォンは歯ぎしりをする。


「……お前を引き入れたのは……失敗だったようだな」


「そうですね。仰るとおり、大失敗でしたね」


「……で? これで終わりか?」


 オットーフォンは苦し紛れに尋ねた。


「終わりとは?」


「これでお前の計画は全て終わったのかと聞いているんだ。もし終わりなら、今起きている問題を処理さえしてしまえば、俺の勝ちだからな」


「処理って……それは出来ないでしょうに。今の状況わかっていないんですか?」


「どうかな? 俺にはまだ、秘策がある」


「……」


 フォートはオットーフォンの事を見て、『ブラフか?』と考える。しかしオットーフォンの顔からは、一切の手がかりは得られない。


「……面白いですね。どんな秘策ですか?」


「それは言えないな。もしお前に邪魔されたら困るからな」


オットーフォンの苦し紛れにも見える発言を聞き、しかしフォートは笑った。



「なるほど、つまり邪魔は出来るって訳ですね。それじゃあ、邪魔させてもらいましょうか」


「……何だと?」


「そろそろ頃合いですし、じゃあ僕の計画も最終段階に入るとしましょうか」









「商会長!」


 騒がしい室内で、一際大きな叫び声が響いた。その声の主は、ゲイナスだった。


「どうしたゲイナス? 今度は何が……」


「逃げてくだ……」




 ――――ザッザッザッザッザ……


「!」


 規則正しい隊列。完璧にそろった足音。入ってきたのは、帝国の治安を維持することを仕事とする、帝国の精鋭兵士達だった。


 そしてその先頭で指揮をする男こそまさに、帝国において最強の戦士、現帝国戦士長のウィーゼル・フィアスコだった。





<<<<   >>>>


「帝国騎士団が……なぜ」


 オットーフォンはぞろぞろと姿を現した多数の兵士達の姿を見て、思わずそう漏らした。


「予定通りですね。ドンピシャリで、来て欲しいタイミングで来てくれた」


「……! フォート……キサマが呼んだのか!?」


オットーフォンの問いに、フォートはニッコリと笑って答える。


「ええ、そうですね。僕が呼びました。で、ここからが問題なんですけど、なんで呼んだかわかりますか?」


「……」


 楽しそうに尋ねるフォートの顔を見て、オットーフォンは歯ぎしりをする。

 帝国騎士団。それは、帝国の治安を一手に引き受ける最強の部隊だ。


 そんな彼らが出てくる理由など、オットーフォンには一つしか心当たりがなかった。







「ダリア・オットーフォン。キサマを帝国への反逆罪で逮捕する。一応先に言っておくが、キサマがやった証拠はすでに、彼らによって確保されている。諦めて、おとなしく捕まることだ。そこに居るゲイナスという男と共にな」


「……」


 案の定の答えに、オットーフォンはさして驚かなかった。そしてため息をこぼし、辺りを見回す。


「……居るんだろう? 出て来い」


 オットーフォンがそう言ったのと同時、騎士団の後ろからレイが姿を現した。


「……やはり……いや、お前以外に居るはずがないな。……まったく私としたことが、とんだ失態だ」


自嘲するかのようにそう言ったオットーフォンに対して、しかしレイはクスリともしていなかった。


「……ええ、そうですね商会長。私を生かしておくなんて、あなたらしくなかった」


「ふははは……そういう意味でも俺は、そこの小僧に完敗だったようだな」


 オットーフォンはフォートを睨み付ける。フォートはそれに対して、まるで馬鹿にするかのような笑顔だった。






「……レイ」


「ほらよ」


 フォートの合図を受けて、レイはフォートに“ソレ”を投げた。フォートは投げられた物体を受け取ると“ガチャリ”と“弾丸”を装填した。



「……何だそれは?」


 オットーフォンは、得体の知れない筒状の何かを受け取ったフォートに尋ねる。


「新兵器ですよ。実は以前に、面白い魔法道具を手に入れたんで、個人的に開発してたんです。まあおかげで、とんでもない額のお金がかかりましたけどね」


「新兵器……だと?」


「“銃”と呼んでいました。僕の故郷ではね」


フォートはそう言って、銃に取り付けられた最終安全装置を解除した。その様子を見ていたオットーフォンは尋ねる。


「……で? その細長い新兵器とやらを受け取って、何をするつもりだ? それで俺を殺すか?」


 オットーフォンの言葉に、場に緊張が走る。





「フォート君、その武器を床に置くんだ」


 すぐさまウィーゼルが、フォートにそう命令した。


「君たちの情報提供には感謝している。だが、かといってこの二人を殺させるわけにはいかないんだ。彼らには法の裁きを受けてもらわねばならない」


 ウィーゼルは優しげな口調でそう言ったが、しかしその表情は険しいものだった。そしてウィーゼルの言葉を聞いたゲイナスは「どうせ死刑ですけどね、ははっ」と笑った。


しかしフォートは、それでも銃を手放そうとはしなかった。

そして銃口をゆっくりと持ち上げると、慎重に引き金に指をおいた。


「大丈夫ですよ。僕は別に、彼らを殺そうとは思っていません。僕はただ……」



 ――――バンッ!


「黒幕をあぶり出そうとしているだけですよ」


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