革命と驚愕
フォートの言った“金融システムの技術革新”とはつまり、これまでごく限られた者達しか受けられなかった融資を、一般に開放するというモノだった。
前述したように、これまでのシステムでは“融資できる金貨の絶対量”に限りがあり、そのために『返済能力はあるのに利子が少ない所為で融資を受けられない』者達が大勢いた。エドワースなどがその例である。
返済される見込みが極めて高いと言うことはすなわち、ほぼ確実に利益を出せる優良案件であるということだ。にもかかわらず、金貨の備蓄の問題で融資することが出来ない。
これは経済学で言うところの“機会費用”を失っていることに等しかった。
しかしフォートは、その問題を紙幣を生み出すことによって解決したのだ。
紙幣は、例え金貨がなくてもいくらでも発行することが出来る(もちろん、発行しすぎれば問題が発生するので、無尽蔵にとはいかないが)。言い換えれば、これまで金貨備蓄の問題で融資できていなかった“優良案件”に手を出せるようになると言うことだ。
これまでは手を出せなかった優良案件という名の金鉱山。それに手を出せるようになったと言うことは、もはや“金融界におけるゴールドラッシュ”と言っても良いほどの衝撃だ。
そしてこれは、金融システムの大規模化に違いなかった。
これまで僅かな利益を出すことしか出来なかった金融業務。しかし、紙幣による融資の大規模化、広範囲化によって、生み出される利益は遙かに大きくなったのだ。
このような革新は、金融という、近代社会において経済の最も重要な地位を占めるものの革命と言っても間違いではないだろう。
さらにこの技術革新は、金融以外での経済の発展も促すこととなる。
これまで融資を受けられなかった者達。彼らが融資を受けられるようになれば、自然と経済は活発化する。
新たな設備や人材を確保し、それによって経営を拡大する。融資が欲しい者達にお金を行き渡らせることによって、それまでは不可能だった、世界レベルでの経済の拡大が可能となるのだ。
経済は簡単に予測できないものであるから絶対とは言えないが、しかしこれから世界経済がミカエル商会を中心として急速に発展していくだろう事は、ほぼ間違いの無いことだろう。
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「今月の回収率は……うん、問題なさそうだな。これなら、このペースを維持しても良さそうだ」
フォートは与えられた自分専用の仕事部屋で、融資の回収率に関する報告書に目を通していた。そして、その内容が満足いくものである事に安堵していた。
「やっぱり予想通りだったな。案の定、埋もれていた優良案件がたくさんあった。問題は優良案件と不良案件の見極めだけど……まあこの調子なら大丈夫だろうね」
フォートは書類に“確認済み”を示す印をつけると“ふぅ”と一息ついた。
「……なーんか、ようやく真っ当な商人っぽい事が出来たって感じだなあ」
フォートがこれまでに行った仕事。そのどれもが、現代社会においてはおよそ“商業”と呼ぶには憚られるものばかりだった。
奴隷を利用した魔法道具の技術革新。言うまでも無く、奴隷なんて現代社会では犯罪だ。
蝗害を予見した食料の買い占め。間違いなく、社会通念上モラルに反する商売だ。
そんな、現代においては間違いなく批判されるであろう事ばかりしてきたフォートにとっては、今回の“金融システムの技術革新”という仕事は、極めて素晴らしく、まさに商人というような仕事のように思えていたのだ。
もちろん、それはあくまで現代世界から転生した彼だったからそう思っただけの話で、この世界で生きる者達にとっては、彼が行ってきたことはどれも真っ当な商業であったのだが。
「……はあ、疲れたし今日はこれで終わろうかなぁ」
フォートは背伸びをしながらそんなことをぼやく。
ここ最近、激務続きだ。新しい金融システムを誕生させたのだから当然だが、しかしそれでも肉体疲労には勝てない。ここらで一度、体をゆっくりと休める必要があるだろう。
「……帰ろっと」
フォートはそう言うと、疲れ切った体にむち打って立ち上がる。そしてフラフラと歩き、仕事部屋のドアに手をかけた。
そのときだった。
「……久しぶり」
「!」
フォートは驚いて後ろを振り返った。
「レ、レイ!」
フォートはその人物を見るなり、思わず叫んだ。彼が見たそこにいた人物、それはずいぶん前に姿を消してそれっきりだった彼の仲間、レイだった。
「ちょ、今までどこに行ってたんだい!? 連絡も取れないから心配したんだよ!?」
「悪いな。実は今まで、逃げてたんだ」
「逃げてた?」
レイの言葉に、フォートは首をかしげる。
「逃げてたって……それってどういう……」
「言葉の通りだよ。私は命を狙われ、そして生きるために逃げていた。それだけだ」
「!」
レイの驚くべき告白に、フォートは驚く。しかしこの後に続いたレイの言葉で、彼は一層驚くこことなった。
「今の今まで、ずっと逃げ続けていた。でも、もう逃げる必要は無くなった」
「……は?」
レイはフォートのことを見ると、とても悲しげに笑って、そして言った。
「私は今日、お前にお別れを言うために来たんだよ」




