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奴隷から始まる異世界マネーウォーズ   作者: 鷹司鷹我
魔法道具製造編
8/110

誕生日

「お疲れ様です会長!」


「あ、お疲れです!」


「お、お疲れ、で、です!」


会長が見に来ていることに気がついた子供達の数人が、慌ててそう挨拶した。


「おっと、邪魔したみたいだ。俺のことは気にせず作業を続けてくれ」


彼らに続こうと、他の子供達が挨拶をするために作業を中断しようとするのに気がついて、会長はすぐにそう答えた。


会長にそう言われた子供達は、すぐさま、会長が来る前と同じように作業を行い始めた。その手つきは、年からは想像できないほどに熟練していた。


「しかし、いまだに信じられないな。こんな子供達が、大人でさえ数ヶ月かかってようやく、かろうじて形になった作業を、まさかここまでの短期間でマスターするとは」


会長の感嘆を横で聞いていた少年は、机に積まれた書類の処理を済ませながら答える。


「まあ、子供の方が覚えがいいって言いますからね」


「そうか、だからあのときも『買うなら10~15歳くらいの子供がいいよ』なんて言ったのか。大人の方が仕事が出来ると思っていたから、あのときはかなり驚いた」


「まあそれもあるんですけど、子供を選んだ本当の理由は他にあるんですよね」


「ほう、それは何だ?」


「秘密です。こればっかりは誰にも言えませんね」


(さすがに、子供の方が“逃げにくい”し、上手く教育できれば絶対に商会を裏切らないから、なんてのを言うわけにはいかないよな)


少年はそんなことを考えながら、自分の“悪い考え”に感づかれないように、ニコニコと笑った。


「ふむ、なら仕方ないな。そうそう、頼まれていた新しい宿舎も完成した。解放した子供から順番に入れるぞ」


「それは良かった。住まいまでちゃんと与えられた先輩がいるのといないのでは、彼らのやる気が大きく違いますからね。で、どれくらいかかりました?」


「問題ないさ。彼らが稼いでくれた金額に比べれば、雀の涙以下だ」


「それも良かった。それで?製造拡大の件の方はどうなりました?」


「それも問題ない。無事に商会として正式に決定された。今は人手を探している最中だ」

“人手”というのは無論、新しく買う奴隷達のことだ。


「言うまでも無いと思いますけど、拡大の規模を間違えないでくださいね?」


「わかってるさ。伊達に何年も商人をやっちゃいない」


「それまた良かった。それじゃあ、僕はまだ仕事が残ってるんで、そろそろ帰ってもらってもいいですか?」


「人が邪魔者みたいに言いやがって、腹が立つ奴だ。それに、悪いが俺もお前にまだ用事があるんでな」


「用事?」


少年は書類から目を離し、顔を上げた。


「ああ。と言うのも、お前も含めて、奴隷からウチの従業員になる奴らを全員、国に報告しなきゃならんのだが、そのときに名前が必要なんだ。他の奴らはもう確認していたんだが、ほら、お前は名前がないと言っていたじゃないか。だからどうしたものかと思ってな」


「名前・・・・・・ですか」


彼はこの世界に転生したとき、元いた世界での名前を忘れていた。いや、忘れていたのは自分の名前だけでなく、人の名前や地名と言った固有名詞は全て忘れていた。


今までは別に“オイ”とか“君”とか呼ばれていたせいで、特段不便は感じていなかったが、これから商会の一員として働くのなら、公文書などに名前の記載が必要なときなどは名前がないのは不便だろう。


「うーん、別に何でもいいんですけど・・・・そうですね、じゃあグラシェ・フォートなんてどうです?」


「グラシェ・フォート? 聞いたことがない名前だな。お前の故郷ではよくある名か?」


「いや、多分まずいないでしょうね」


「じゃあ何でそんな変な名前にしたんだ?」


「さあ?なんででしょうねえ?」


フォートはニヤニヤとしてそう答えた。その様子を怪訝そうに会長は見る。


「・・・・まあいい。それじゃあ、その名前で登録するとしよう」


「ええ、お願いします・・・・・あ、そうだ」


フォートは思い出したように、書類から会長に視線を移した。


「明日の定例会議で、提案したいことがあるんですけど」


「? かまわないぞ。そのための会議だからな。しかし、何を提案するつもりだ?」


「今はまだ言えませんね。かなり重要な情報が含まれているので。なので出来れば、明日会議に出席する人たちには事前に箝口令を敷いておいてください」


「戒厳令? そこまでする必要があるのか?」


「ええ。情報を独占できるかどうかで、得られる利益が何倍も違いますからね。スパイのこともありますし、気をつけるに越したことはないでしょう」


「・・・いいだろう。伝えておこう」


「よろしくお願いしますよ?」


そう念を押された会長は、静かに頷いて、工場を後にした。


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