喪失
お久しぶりです。お待たせしてしまってすいません。ようやくテストが終わり、ストックが少しだけたまったので投稿を再開します。(とは言ってもストックは数話分しかないので、投稿頻度はかなり落ちますが……)
それと、先日ひさしぶりに小説情報を確認したらブックマークが100を超えていたので驚きました。
読んで頂きありがとうございます。ご期待に添えるよう頑張ります(できる限り)
「ふぅ、久しぶりに帰ってこれたな」
懐かしいギルドの前で、フォートはそう言った。フォートの胸元には、彼が世界でも数えるほどしか居ない白金等級冒険者である事を示すプレートが輝いていた。
「とりあえずレイ……じゃなかった、ソーマ君を探すことにするか……ていうか、混乱するから、名前を一つに絞って欲しいよ……」
フォートはそう言って、ギルドの入り口の扉を開けようと手を伸ばした。すると、
――――バンッ!
「うわっ!?」
フォートが扉を開ける直前、内側からいきなり扉が開け放たれた。フォートは為す術なく、地べたに尻餅をつく。
「いったぁ……」
「あ、す、すみません! 急いでいたもので……って、あ! フォートさんじゃないですか! ちょうど良かった!」
扉を勢いよく開けてフォートを吹っ飛ばしたのは受付嬢だった。
「何なんですかもう……久しぶりに帰ってこれたと思ったら。もしかして僕に“もう来るな”って言ってるんですか?」
「ち、違いますよ!」
「まあいいや。この話は後回しにしましょう」
「後で話すんですね……」
「それより『ちょうど良かった』ってどういうことですか? もしかして、僕に何か用でも?」
「……! そうなんです! 緊急事態なんです! すぐにフォートさんに解決してもらわなくちゃならなくて……」
受付嬢の答えに、フォートは首をかしげる。
「僕に解決? それってつまり“僕じゃないと解決できないこと”があるって事ですか?」
「そうなんです! 本当はソーマさんでも良かったんですけど、見つからなくて……」
「……え? 居ないんですかこのギルドに?」
受付嬢の言葉に、フォートは再び首をかしげた。てっきりケン、もといソーマはギルドにいるものだと思っていたからだ。
「はい、お二人が帝都に向かってから一度も戻っていませんよ」
「……」
「あの……どうかしましたか?」
「……いえ。それより、僕に頼みたいことってなんですか?」
フォートはレイの行方も気になっていたが、とりあえずは置いておくことにした。それよりまずは、受付嬢の態度から判断するに恐らく緊急性の高い“頼み事”の解決を優先すべきだろう。
フォートに聞かれると、受付嬢は再び思い出したように慌てだし、そして言った。
「そ、そうでした! 何度も言ってますけど大変なんです! リンナちゃんが居なくなっちゃったんですよ!」
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久しぶりに出てきた名前なので忘れている人も多いだろうから、一応確認しておこう。リンナというのは、以前フォート達がトロールと戦った時に助けたエルフの少女である。
彼女は故郷を失ったので、今はギルドに保護されて里親を探していたはずだ。その彼女がいなくなったと言うことはつまり、『ギルドから逃げ出した』ということだ。
「ちゃんと面倒見てたんですか? じゃなきゃ普通『逃げられました』なんてならないでしょう?」
「馬鹿にしないでください! ちゃんと見てましたよ! でもちょっと目を離した隙に居なくなっちゃってたんです!」
受付嬢は怒りながらフォートにそう言い返した。
「ちょっと目を離した隙にって……目を離しちゃダメでしょう」
「仕方ないじゃないですか! 私にだって仕事があるんですから! だいたいそんなこと言うんなら、フォートさん達が面倒を見ていれば良かったじゃないですか!?」
「いやそれは……僕たちにも仕事があるし……」
「それなら文句は言わないでください!」
「……まあいいや。それより、彼女の行き先に心当たりは?」
「知りませんよ! 私、あの子のことなーんにも知らないんですから! 話したこともなかったんですよ!? だから一番彼女のことを知っているフォートさんを探していたんです!」
「えぇ……そんなこと言ったって僕も何も知りませんよ?」
受付嬢と同じで、フォートもまたリンナとさほど話したことはない。初めて会ったときに少し話しただけだ。
だがそれは別に、フォートや受付嬢がリンナに無関心を決め込んでいたからとかではなく、単にリンナが、どれだけ話しかけても頷くばかりで一切話をしようとしなかったからだ。
「『故郷を無くしたんだから何も話したくないのは当然』って思いやりを効かせていたのが裏目に出ましたね……」
「全くですよ! こうなるとわかっていたら『リンナちゃんはもし逃げるならどこに行く?』って聞き出しておけば良かった!」
「……いや、絶対答えてくれないでしょ、それ」
「それより! 私はもう昨日からずっと町中を探し回ってるんです! わかったらフォートさんも、さっさと探しに行ってください!」
「探しにって……どこに?」
「決まっているでしょう!? 彼女の故郷ですよ! 他に心当たりの場所なんてないんですから!」
「……もしそこに居なかったら?」
「そのときは彼女を連れてくるまで、ぜったいにフォートさんに依頼を受注させません! わかったらさっさと行ってください!」
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――――ガタン
エルフの少女リンナは、燃え残った自分の家の倉庫に居た。
そしてそこで“あるモノ”を探していた。
「……! あった……」
リンナは倉庫にあった箱の中から探していたものを見つけ、安堵の表情を浮かべた。彼女が取り出したもの、それはエルフに伝わる伝統の製法で作られた笛だった。
「……」
彼女は取り出した笛を握りしめた。そして、思い出すように目をつむった。
彼女のまぶたの裏には、もう見ることが出来ないこの村の在りし日の姿がハッキリと映っていた。
そこに映るエルフ達の顔はみな、笑顔で溢れていた。
「よかった、やっぱりここに居たんだね」
「……!」
涙を流していたリンナの背後から、そんな声がかけられた。涙を拭い振り返ったリンナの瞳に映ったその人物の姿は、彼女の母でも、兄達でもなかった。
そこに居たのは、フォートだった。
「ふう、これでどうやら冒険者を廃業しなくて済みそうだ」
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