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奴隷から始まる異世界マネーウォーズ   作者: 鷹司鷹我
帝都騒乱編
65/110

終幕

《帝都での極秘作戦についての最終報告》


(作戦の目的)エヴォルダ教による帝都爆破阻止


(結果)作戦は成功した。また、帝国にもそのことは気づかれていない。


(詳細)

<敵被害>

ダーラーン(首領):死亡

ウェルゴーナス(幹部):死亡

リャンフィーネ(幹部):重傷


<味方被害>

シャルーナ(金等級):重傷

エヴィル(金等級):重傷

レイモンド(金等級):重傷


(事後処理について)

金等級冒険者のフォート氏の計らいにより、リャンフィーネ氏がこれからのエヴォルダ教を率いることとなった。今後はギルドの指示の下で運営をしていくこととなる。


(追記)

ウェルゴーナスの死体が発見できなかった。ドーン氏とデリア氏は当該人物を殺害したと主張しているが、虚偽の報告の可能性がある。以後も調査が期待される。


※この文書の閲覧は金等級以上、またはギルド高官のみに限る













「いやー! やっと帰れる! 本当に長かった!」


ロンダン、つまり自分の所属するギルドがある街への帰路。馬車に揺られていたフォートはそう言って毛伸びをした。

その反対側に座るシャルーナは、おかしそうに笑った。


「ふふ、ごめんなさいね。私があなたを誘ったばっかりに」


「いやいや、謝らないでくださいよ。それに、おかげで大金と白金等級をゲットできたんですから。むしろ感謝したいくらいですよ」


フォートはそう言って、胸元の金属光沢をはなつプレートを見せた。


「でも、なんか悪いなあ。僕なんかが他を差し置いて白金等級冒険者になっちゃうなんて。ぶっちゃけちゃうと僕あの作戦で一回も戦っていないんですよね」


フォートはそう言うと、少し申し訳なさそうにした。


「あら、そんなことはないわよ。間違いなくあの作戦で一番活躍したのはあなただもの。爆弾の設置場所どころか、何者かがエヴォルダ教を裏切って爆破しようとしていることまで突き止めたんだから。もしあなたのファインプレーがなかったら、作戦が失敗するどころか私たち突入班は死んでいた。そしてあげく、エヴォルダ教の企みの全てが帝国に知られてギルドが取り込まれていたでしょう」


シャルーナは「だからもっと胸を張って良いのよ」とフォートに言った。そして、「それにしても……」と腕を組んだ。


「……結局エヴォルダ教を裏切ったのが誰なのかはわからずじまい。その目的もね。ねえ、君は誰が黒幕だと思う?」


「……さあ」


しらばっくれたフォートに、しかしシャルーナは気がつかずに「そうよね。わかるわけないか」と納得した様子だった。



今回の事件について、フォートはギルドにいくつかのことを報告しなかった。


①今回の事件の黒幕がダリア商会であること

②リャンフィーネが実はギルドではなくフォートの指示で動いていること

③ダーラーンの持っていた古代魔法の書かれた書物、および爆弾を全て処分したと報告したが実は、それら全てをフォートが所持していること


この三つだ。それぞれを報告しなかったことにどんな意味があるのかと問われれば、それを答えるのは難しい。

というのも、これらを『報告しない』と決めるに至るまでの思考は、端的に語れないほど複雑であるからだ。

今後、それらが明らかになっていくだろうと言うことだけしか言えない。



無事にシャルーナに疑問を抱かせることなくやり過ごしたフォートだったが、しかしシャルーナは今度は他の質問をしてきた。


「そういえば、君と一緒にパーティーに来ていた彼女。あれって誰?」


「……え?」


「いや、作戦の説明があったとき『フォート君達はどうするのかなあ?』って心配していたのよ。『付き合っている彼女とか、こういうときに助けてくれる女友達とかっているのかなあ?』って。そしたら、あんなに綺麗な人と一緒に来たからびっくりしちゃった。誰?」


「……」


フォートは答えに詰まった。

シャルーナが聞いている女性、それはつまりレイのことだ。そして、それを教えることは出来ない。もしそんなことをしてしまったら、殺されてしまうから。


「えーっと……友達です。協力してもらいました」


フォートはその友達というのが“自分とコンビを組んでいるレイである”と言うことだけを隠して、他は本当のことを伝えることにした。

これなら、殺されないで済むだろう。


「へえ……本当に友達?」


シャルーナは楽しそうに聞いてくる。


「ええ、そうですよ。詮索しても何も面白い話なんてありませんからね?」


嘘である。とても面白い話が、ほんの数センチ先に埋まっている。

しかし、シャルーナはどうやら深掘りするつもりはないようだった。


「まあいいわ。君がそう言うんなら、そういうことにしておきましょう」


「……そうですか」


「でも君はそうとして、もう一人の彼はどうしたの? えっと……そうそう、ソーマ君。見つけられなかったんだけど」


「ああ……彼は今回来ていませんよ。相手を見つけられなかったようです」


「あらら。可哀想に」


知らぬところで同情されたレイに、フォートは少し申し訳ない気持ちを抱く。しかし、彼女が『必ず秘密を守れ』と言ったからこうなっている以上、文句を言われる筋合いはないだろう。


「じゃあ、その相棒君はお留守番しているわけ?」


「……ええ。そのはずです。きっと、ロンダンのギルド会館にいるでしょう」


フォートはそう言ったが、今レイがどこにいるのかは実のところフォートですらも知らない。

何故かレイが作戦が終わった頃にはすでに、挨拶も無しに居なくなってしまっていたのだ。


(まったく……僕に断りも無しに単独行動なんて……)


フォートはため息をこぼす。本来なら、作戦終了後にいくつか打ち合わせをしたかったのだ。

これからリャンフィーネとどう連絡を取り合うか? 黒幕だったダリア商会にどう対処するか?

そういったこれからの計画を伝えようと考えていたのだが、レイがいなかったのだ。


(ま、どうせギルドにでも居るでしょ。そのとき伝えれば良いか。ついでに『勝手に帰るな』って言っとこう。また単独行動されたらたまらないし)


フォートはそう楽観視していたが、実は事態はそれほど楽観できるものではなかった。実際の所は、彼が予想もしないほど悪い方向へと向かっているのだった。





「……そろそろね」


窓の外の景色を見て、シャルーナはそう言った。

彼女の所属するギルドがある街は、帝都からロンダンの町に向かう道中にある。それ故、二人は同じ馬車で帰途についていたのだ。



「……思えば、まだ会ってからそんなに時間がたっていないのに、君には助けてもらいっぱなしね」


「……まあ、そうかもしれませんね」


「トロールに、今回のこと。もう2回も命を助けられた。感謝しても足りないわ」


シャルーナそう言うと「あらためて、ありがとう」とフォートに言った。


「でもそうなると、私からも何かお礼をしないといけないのよね」


「お礼なんてそんな……そのために助けたんじゃないんですし」


「いや、これは私の中でのケジメなの。なにか欲しいものはない? できる限り用意するわ。今回の報酬でお金もあるしね」


シャルーナの提案に、フォートはしばし考える。しかし、答えは決まっていた。


「……じゃあ、もしいつか僕に助けが必要になったとき。そのときは、他の何を差し置いても助けに来てくれませんか?」


フォートの答えに、シャルーナは少し驚く。


「助け? 私に助けて欲しいの?」


「ダメですか?」


「……いえ、そんなことはないわ。むしろ君が必要としているのなら、どんなときだって助けに行くわ。それこそ、そんな約束なんてしてなくてもね。だって君は私の命の恩人で、もう仲間なんだから。当然じゃない」


「そうですか。それは良かった」


「むしろ、そんな約束をさせられる方が心外だわ。私が『約束しておかなきゃ命の恩人のピンチにも駆けつけない奴』って思われているって事なんだからね」


「いや……すいません。癖なんですよこういうの」


「癖?」


「他人をいまいち信じられないって言うか……ちゃんと約束しておかないと、誰も自分の思い通りに動いてくれないって言うか……」


「……」


「信じてないわけじゃないんです。むしろシャルーナさんのことは信頼しています。でも、それと“約束すること”は話が違うって言うか……すいません。ちょっとあんまり上手く説明できません」


「……そう」



――――ガタン!


馬車が止まった。シャルーナはゆっくりと立ち上がる。



「それじゃあ、また会う日まで」


「ええ、それまでお元気でシャルーナさん」


そんなやりとりをした後、フォートを乗せた馬車は去って行った。

その後ろ姿を見ながら、シャルーナはフォートに対する言い知れない不安感を感じていた。



フォートと話していると時折、得体の知れない恐怖を感じることがある。それは恐らく、彼の“底知れなさ”からくるものだろう。


屈託ない表情から放たれる、何のことはないただの言葉。しかしその中に時折、なんだかゾッとするようなものを感じるのだ。

『約束していないと誰も思い通りに動いてくれない』申し訳なさそうに言ったその言葉の本質。つまり、『約束さえしていれば思い通りに動いてくれる』と言う考え。


シャルーナは、フォートの笑顔の隅に危うさを感じずにはいられなかった。しかし彼女にはどうすることも出来ない。彼を変えることが出来るのはきっと、彼が約束などしなくとも信頼できる、そんな人物だけなのだから。


彼女にはそんな“何者か”が彼のすぐ側に居ることを願い、そして次会うときに彼が、危うさを微塵も感じさせないような笑顔で居てくれることを願う以外に、何もできないのだから。


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