爆弾倉庫にて④
「……この爆弾さ、誰が起動したか知ってる?」
フォートは頭を下げ続けていたリャンフィーネに、唐突に尋ねた。その問いに、リャンフィーネは顔を上げて答える。
「……恐らくだが、ゲイナスという男だろう。あの男なら、裏切ってこんな事をしかねない。いや、間違いなくする」
リャンフィーネはそう答えた。
リャンフィーネの考えは正しい。彼女の言うとおりゲイナスこそが、エヴォルダ教を壊滅させ証拠隠滅をするべく、この爆弾を起動させたのだ。
しかし、フォートは心の中で邪悪にほくそ笑んだ。
「違うんだよねえ。この爆弾を起動したのは、そのゲイナスとか言う奴じゃない」
フォートの答えに、リャンフィーネは驚く。
「ゲイナスじゃない? じゃあ……」
リャンフィーネは考え込む。
ゲイナスではないとしたら、それでは一体誰が裏切ったのか? そんな人間は限られているはずだ。
と言うのも、爆弾の起動方法を知っている人間は本当にごく僅かだからだ。
リャンフィーネ達信者は知るよしも無かったが、爆弾の起動方法を知る者が少ないのは、『もし教えたら裏切る者がでるかもしれない』と考えたダーラーンのせいだ。
『爆弾を使って自分を殺そうとする信者が出てくるかも知れない』という、彼の疑念のせいなのだ。
しかしそのおかげで、裏切って爆弾を起動できた者を絞り込むことが出来る。
起動方法を知っていたのは4人だけ。ダーラーンと、幹部のウェルゴーナスにリャンフィーネ、そして城に仕掛けた爆弾を起動するために起動方法を知る必要があったゲイナス。この4人だけなのだ。
ウェルゴーナスが裏切ることは無いと考えていたが、ゲイナスではないとすると、まさかウェルゴーナスが?
そんな思案をしていたリャンフィーネだったが、次にフォートの口から放たれた言葉に驚き、そしておののいた。
フォートはゆっくりと、そして悪役のような笑いを浮かばせ、
「エヴォルダ教を裏切ったのは、ダーラーンだよ」
そう言った。
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嘘だと思う? 僕が嘘を言っていると?
……ま、そうだよね。君からしたら、こんなのは嘘八百って話だ。
でもね、これは事実なんだよ。ダーラーンは君たちを裏切った。それは紛れもない事実なんだ。
これは僕の連れが調べてくれたんだけどね、この『帝国襲撃事件』の裏には、エヴォルダ教を広めること以外の目的があったんだよ。
いや、正確に言えばこの事件のそもそも目的は、エヴォルダ教を広めることじゃない。『裏の目的』の方が真の目的で、そして唯一の目的だったんだ。
真の目的。それは『帝国と連合国の間で戦争を起こす』事だったんだ。ダーラーンはそのためにエヴォルダ教を利用したに過ぎないんだ。
エヴォルダ教という隠れ蓑を作り、その中でこっそりと爆弾を作る。そして作った爆弾を使って、帝国の中枢を麻痺させる。
そうすれば、蝗害や経済破綻で苦しんでいる連合国が、弱り切った帝国に戦争を仕掛けることは目に見えているからね。
そしてそうやって起こした戦争で、ダリア商会と手を組んで大金を手に入れる。
これがダーラーンの筋書きだ。僕の相棒が調べてくれた。
もちろん、証拠もある。といっても、今言えるのは状況証拠だけだけどね。
たとえば、もしダーラーンが本当にエヴォルダ教の事を考えていたのなら、なんで君たちに爆弾の作り方も、仕組みも、起動方法さえも教えようとしなかった?
爆弾である以上、誤作動は十分にあり得る。ヒューマンエラーによる誤爆とかもね。それに、今回みたいなことも。
ダーラーンが本当に信者と教会の安全を考えていたなら、教えるはずじゃない?
教えなかったと言うことは……教えられない理由があったということ。教えたら困ることがあったということだ。
それはつまり『教会本部を爆破するときに爆弾を止められたら困る』ってこと以外に考えられる? 考えられないよね?
つまり……そういうことだよ。ダーラーンは、自分がこの事件に関わった証拠を全て隠滅するために信者達、つまり君たちに邪魔されるわけにはいかなかった。
だから教えなかったんだ。君たちが決して助からないように。証拠が漏れないようにするために。君たちを確実に殺すために。
いまここには無いけど僕の相棒が、ダーラーンがダリア商会と手を組んでいるという証拠を掴んでいる。もし信じられないというのなら、今度それを見せてあげるよ。
もう一回言うよ? この爆弾を起動したのはダーラーンだ。
君たちは……あいつに裏切られたんだ
次回は16日に投稿します




