爆弾倉庫にて②
「……キ…サマ…何者だ!?」
すぐに目前のフォートに気がつき、リャンフィーネは問う。
彼女は体中を酷い火傷におおわれ、脇腹からは大量の血が漏れ出していた。
リャンフィーネのあまりの剣幕にフォートはたじろぐ。そんなフォートに、リャンフィーネは叫びつけた。
「答えろ!」
「うわ! はい! フォートです!」
「フォート……! キサマ冒険者か!?」
フォートの名前は『変異トロールを倒した新米冒険者』として有名となっていた為、リャンフィーネはすぐに目の前にいるのが敵だと気がついた。
「クソッ…どこにでも…まるでネズミのように…!」
リャンフィーネはそんな悪態をつく。そして、
「…っ、がはっ!」
血を吐き出した。
「……! だ、大丈夫ですか!?」
フォートは慌てて、血を吐き出したリャンフィーネに駆け寄った。そして、倒れそうになった彼女の体を抱きかかえた。
「…っ、触るな!」
抱きかかえたフォートを、リャンフィーネは拒んだ。しかし、弱り切った彼女にはフォートを押しのけることは出来なかった。
フォートは嫌がるリャンフィーネを尻目に、リャンフィーネの服の脇の辺りを破り取った。
「……っ、キサマ!」
自らの服を破かれ、血が吹き出る脇腹が露わにされたリャンフィーネはフォートを睨み付ける。
しかし、フォートはそんなことに構わない。緊迫した表情で叫んだ。
「治療するんだから黙っていてください! あんまり暴れると死にますよ!?」
フォートはそう言って、矢筒の奥に隠し持っていた医療キットを取り出す。蓋を開けたその中には、メスのような刃物と縫合用の針と糸がいれられていた。
「いいですか? 麻酔なんて無いからメチャクチャ痛いですよ?」
「なっ…何をするつもりだ!?」
メスを片手に持ったフォートに、リャンフィーネは訳もわからず尋ねる。
「今から傷の部分を切り開いて、体内で出血している部分を縫合します。たぶん、ほっといたら死ぬでしょうから」
「……!」
先ほどケインズに突き刺されたナイフ。あれは深々と自分の脇腹に突き刺さっていた。間違いなく致命傷となるほどに。
にもかかわらず『治療をする』? リャンフィーネにはやはり、フォートが言っていることが理解できなかった。
「……無駄だ。この傷は深すぎる。お前がどんなことをしようとしているかは知らないが、私はもう…」
「そんなのやってみなきゃわからないでしょう? それに、僕の故郷ではこのくらいの傷、ちゃんと直っていましたよ」
フォートはそう言って、手術を始めようとする。しかしそれを、リャンフィーネはやはり拒んだ。
それに対して、フォートは訝しむようにリャンフィーネのことを見た。『なぜ治療を拒むのか?』と。
「……どういうつもりですか?」
「どうもこうも無い。私はお前に助けてもらおうなどとは思わない。お前達はダーラーン様を殺しに来たんだろう? それならば私の敵だ。そして私は、敵に助けられたくは無い。それくらいのプライドはある」
「……」
「しかし、お前の行いに感謝だけは伝えておく。ダーラーン様を殺そうとする下賤な者とは言え、敵を救おうとするその心がけは賞賛に値するからな。だが、本当に私のためを思うのなら、このまま死なせてくれ。ダーラーン様のために死ぬ、殉教者として死なせてくれ」
「……あっそ」
リャンフィーネの瞳に映る覚悟に、フォートは説得が不可能である事を悟った。
そして言うまでも無く、治療を拒む者に手術など出来るはずが無い。そんなことをしようものなら、治療中に暴れられて失敗してしまうことは目に見えているから。
だからフォートは、“説得”することを諦めた。
「すいませんね」
――――ガッ
フォートはそう言うと、リャンフィーネの頭を強く殴りつけた。弱り切った彼女にそれを避けられるはずも無く、リャンフィーネは為す術無く失神した。




