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奴隷から始まる異世界マネーウォーズ   作者: 鷹司鷹我
帝都騒乱編
58/110

爆弾倉庫にて②

「……キ…サマ…何者だ!?」


すぐに目前のフォートに気がつき、リャンフィーネは問う。

彼女は体中を酷い火傷におおわれ、脇腹からは大量の血が漏れ出していた。



リャンフィーネのあまりの剣幕にフォートはたじろぐ。そんなフォートに、リャンフィーネは叫びつけた。


「答えろ!」


「うわ! はい! フォートです!」


「フォート……! キサマ冒険者か!?」


フォートの名前は『変異トロールを倒した新米冒険者』として有名となっていた為、リャンフィーネはすぐに目の前にいるのが敵だと気がついた。



「クソッ…どこにでも…まるでネズミのように…!」


リャンフィーネはそんな悪態をつく。そして、


「…っ、がはっ!」


血を吐き出した。


「……! だ、大丈夫ですか!?」


フォートは慌てて、血を吐き出したリャンフィーネに駆け寄った。そして、倒れそうになった彼女の体を抱きかかえた。


「…っ、触るな!」


抱きかかえたフォートを、リャンフィーネは拒んだ。しかし、弱り切った彼女にはフォートを押しのけることは出来なかった。

フォートは嫌がるリャンフィーネを尻目に、リャンフィーネの服の脇の辺りを破り取った。


「……っ、キサマ!」


自らの服を破かれ、血が吹き出る脇腹が露わにされたリャンフィーネはフォートを睨み付ける。

しかし、フォートはそんなことに構わない。緊迫した表情で叫んだ。


「治療するんだから黙っていてください! あんまり暴れると死にますよ!?」


フォートはそう言って、矢筒の奥に隠し持っていた医療キットを取り出す。蓋を開けたその中には、メスのような刃物と縫合用の針と糸がいれられていた。



「いいですか? 麻酔なんて無いからメチャクチャ痛いですよ?」


「なっ…何をするつもりだ!?」


メスを片手に持ったフォートに、リャンフィーネは訳もわからず尋ねる。


「今から傷の部分を切り開いて、体内で出血している部分を縫合します。たぶん、ほっといたら死ぬでしょうから」


「……!」


先ほどケインズに突き刺されたナイフ。あれは深々と自分の脇腹に突き刺さっていた。間違いなく致命傷となるほどに。



 にもかかわらず『治療をする』? リャンフィーネにはやはり、フォートが言っていることが理解できなかった。


「……無駄だ。この傷は深すぎる。お前がどんなことをしようとしているかは知らないが、私はもう…」


「そんなのやってみなきゃわからないでしょう? それに、僕の故郷ではこのくらいの傷、ちゃんと直っていましたよ」



フォートはそう言って、手術を始めようとする。しかしそれを、リャンフィーネはやはり拒んだ。

 それに対して、フォートは訝しむようにリャンフィーネのことを見た。『なぜ治療を拒むのか?』と。



「……どういうつもりですか?」


「どうもこうも無い。私はお前に助けてもらおうなどとは思わない。お前達はダーラーン様を殺しに来たんだろう? それならば私の敵だ。そして私は、敵に助けられたくは無い。それくらいのプライドはある」


「……」


「しかし、お前の行いに感謝だけは伝えておく。ダーラーン様を殺そうとする下賤な者とは言え、敵を救おうとするその心がけは賞賛に値するからな。だが、本当に私のためを思うのなら、このまま死なせてくれ。ダーラーン様のために死ぬ、殉教者として死なせてくれ」


「……あっそ」


リャンフィーネの瞳に映る覚悟に、フォートは説得が不可能である事を悟った。

 そして言うまでも無く、治療を拒む者に手術など出来るはずが無い。そんなことをしようものなら、治療中に暴れられて失敗してしまうことは目に見えているから。


だからフォートは、“説得”することを諦めた。



「すいませんね」


――――ガッ


フォートはそう言うと、リャンフィーネの頭を強く殴りつけた。弱り切った彼女にそれを避けられるはずも無く、リャンフィーネは為す術無く失神した。


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