爆弾倉庫にて①
――――バキャッ!
木製の扉が蹴破られ、辺りにほこりが舞った。そのほこりの中から、一人の少年が姿を現す。
「ここみたいだな……」
フォートは蹴破った入り口から、得体の知れない時計型の機械といくつかの書物が置かれたその部屋の中に入る。
そしておもむろに、いくつもある機械の内の一つを手に取った。
――――…チッ…チッ…チッ…
手に取ったその機械は、そんな音を響かせながら短針を回転させていた。
この世界には懐中時計などと言う、高度な技術を要する物は存在していない。今フォートが手に持っている機械、それは間違いなく時代錯誤遺物と呼ばれる、古代文明の産物だ。
ダーラーンは以前見つけた古代文書を読んで、これを作った。そのため、これが存在することは――おかしな話ではあるが――全く不思議なことでは無い。
しかし、そのことを知らないフォートにとっては驚きだった。
「すごいな……ダーラーンって奴が神になれると思うのも当然か……」
もしダーラーンが独力でこの機械を作ったのなら、彼の頭脳は間違いなくこの世界より100年は進んでいると言える。
そんな彼が世界に戦いを挑めば、間違いなく勝てるだろう。元いた世界で言えば、第一次世界大戦の時代に核兵器を持って戦いを挑むのと同じような物なのだから。きっと、戦いにすらならない。
しばしそんな思案にふけっていたフォートだったが、すぐに自分がすべきことを思い出す。
彼がすべきこと、それは『起動してしまっている爆弾を止める』ことだ。
レイの話では、エヴォルダ教の裏切り者が教会本部を破壊するために、ここにある爆弾を暴発に見せかけて爆破するつもりだと言っていた。
そしてどうやら、その情報は正しかったようだ。探してみたところ、保管された爆弾のうちで起動しているのは5個。
もし爆弾一つで城を吹き飛ばせる威力があるのなら、5個もあればこんなちっぽけな教会本部など十分に吹き飛ばせるだろう。それも、周りの民家もろともに。
いや、一歩間違えればそれだけでは済まない。爆発で他の爆弾が起爆してしまえば、きっと爆発が収まったあとには帝都そのものが無くなってしまっているだろう。
フォートは部屋を見渡す。
バラバラにされたよくわからない部品群。それを組み合わせるための工具。さらには、恐らく爆弾の作り方が書かれた書物。そしてなにより、所狭しと置かれた小型爆弾。
どうやらここは爆弾の保管庫兼、爆弾の製作所らしい。
フォートは机の上に置かれた書物を手に取る。そして、書かれた文章に目を通し始めた。
「……」
そこにはいくつもの幾何学図形と、さらには計算式が書かれていた。それは、この世界に住む多くの人々には理解できないほどに難解で、仮に理解できたとしても、それには恐らく何年もの月日が必要となるだろう。
しかし、元いた世界で高等教育を受けたフォートにとっては違った。
「……10…いや15分くらいかな」
フォートはそう言うと椅子に座った。そして、文章に目を通し始めた。
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――――ガチャガチャ……
フォートは近くにあった工具で、起動していない爆弾の一つを分解する。そして、それぞれの部品がどのような役割を果たしているかを書物で逐一確認していた。
「……なるほど…ここが魔力をためる部分か…扱いに注意しないとな」
フォートはそう言うと、取り外したその部品を慎重に脇に置いた。
もし爆弾の威力が城一つ吹き飛ばせるほどの物なら、この部品に蓄えられた魔力、すなわちエネルギーもそれに応じたものとなっているはずだ。
扱いを失敗して暴発でもしようものなら、自分はもちろんのこと、いまここに突入している他の仲間達の命も無いだろう。『暴発しちゃいました』では済まされない。
「……時限装置は懐中時計と同じか。それなら止めるのは簡単かな?」
――――……ドンッ!
一人で爆弾とにらめっこをしていたフォートの、恐らく3階ほど上の方で何かが爆発するような音が聞こえた。
しかしフォートは、爆弾の仕組みを解明することに夢中でそれに気がつかない。
「……そうか、このギアを外せば…うん。いけるな」
調べ初めて13分ほどで、フォートは『どこの歯車を外せば安全に爆弾を停止させることが出来るか?』と言うことを突き止めた。
さすがに爆弾と言うだけはあって、いくつもダミーの歯車があったが、フォートはそれに騙されること無く、正解にたどり着いた。
こうなってしまえば、あとは簡単だ。起動してしまっている爆弾から、その歯車を取り外せば良いだけなのだから。
――――ドオオオオオオオン!
「!」
ようやく爆弾を停止する方法が見つかり、ホッと一安心していたフォートの頭上から大きな爆発音が聞こえた。そして、
――――ガラガラガラガラ!
天井が崩れ落ちた。
( ……っ! なっ!?)
フォートは慌てて、椅子に座るために脇に置いていた弓と矢に手を伸ばす。そして、構えた。
(なんだ? まさかここにいることがバレた…? いや、だとしてもなんでわざわざ上から……?)
フォートは『自分が侵入していることがばれて煉拳か銀牙のいずれかが自分を倒すべくやってきたのではないか?』と考え、体をこわばらせる。もし今、そのどちらかに襲われれば勝ち目は無い。
フォートは息をのむ。
――――ガラ……
「……!」
崩れ落ちた瓦礫の中から、一人の人間が現れた。それは
「……がっ…はあ…はあ」
ボロボロになり、それでもなお生きていたリャンフィーネだった。




