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奴隷から始まる異世界マネーウォーズ   作者: 鷹司鷹我
帝都騒乱編
56/110

それぞれの戦い③

「あはははははははははは! 見なさい! これがダーラーン様に逆らった者の末路だ!」


 地面を転がるティエナの顔面を見て、リャンフィーネは叫ぶ。

頭部が切断されたティエナの首から、鮮血が吹きだした。



「これで私の勝ちよ! もうお前逹に勝ち目は残っていない!」


 リャンフィーネは叫んだ。確かに彼女の言うとおり、すでに勝負はついていた。


 ティエナが死んでしまっては万能使役マスター・オブ・テイマーの効果が切れ、二匹のレッドウルフは戦えなくなる。


 そうなれば戦況は、ケインズとリャンフィーネの一騎打ちになる。そして、その二人の間には決して覆ることのない実力差があった。


 ティエナという、折れてはならない一本柱が折れてしまった時点で、この戦いの決着はついてしまっているのだ。



 リャンフィーネは恍惚の表情を浮かべる。


「ああ!ダーラーン様しばしお待ちを! すぐに私があなたの元へと向かいます! そしてこの者と同じようにあの下賤な者逹に死を・・・」


――――ザシュッ


「あた・・・え?」


 自らの横腹に強烈な痛みを感じ、リャンフィーネは地面に崩れ落ちた。



「え? え? え?」


 わけもわからず痛みの発生源、すなわち自分の横腹を見る。

そこには、一本のコンバットナイフが深々と突き刺さっていた。





「油断したな、煉拳さんよ」


 リャンフィーネの背後から、ケインズはそう言った。リャンフィーネにナイフを突き刺したのは、ケインズだった。




 リャンフィーネの口から、”がはっ”と多量の血が噴き出した。そしてリャンフィーネは、視線の定まらない目でケインズを見る。


「な・・・なぜ・・・」


血が吹き出るのを押さえながら、リャンフィーネは尋ねた。





 リャンフィーネは確かに油断をしていたかも知れない。しかしそれでも、こんな事はあり得なかった。ナイフを突き刺されるまで、ケインズの接近に気がつかないなど。



 先ほどケインズがリャンフィーネの頬に傷をつけたとき。あの、リャンフィーネがまったくケインズを注意していなかったときでさえ、ナイフを深く突き刺される前にケインズの気配に気がついた。

 そして今は、『ケインズが隙を突いてくるかも知れない』と注意をしていた。



 それなのに、注意をしていたにもかかわらずケインズに気がつかず、それどころかナイフが深々と刺さってようやく気がつくなど、そんなのはあり得なかった。





「・・・っ、まさか・・・!」


しかしすぐに、リャンフィーネは答えにたどり着いた。


「キサマ・・・『戦士』ではなく『暗殺者アサシン』か!?」


「ああ、その通りだ。こんな前線で戦っているから気がつかなかっただろ?」


 リャンフィーネの問いに、余裕の表情でケインズは答えた。



 暗殺者アサシンとはその名の通り、『暗殺』を得意とする戦闘職だ。同じく戦闘職の『戦士』との違いは、その役割にある。



 戦士は基本、前線で戦う。前線で敵の攻撃を一身に受け、パーティーの攻守の主力となるのだ。


 それに対して暗殺者アサシンは、基本は前線で戦わない。仲間達が敵の注意を引きつけている最中、それを影から観察し、敵に生まれた一瞬の隙を突く戦闘スタイルである。(トロール戦で、レイがとどめを刺した様な戦い方)


 隙を突く際、暗殺者アサシンは『隠密』などのスキルを使って、敵に自身の存在を気づかれないようにする。そして無防備な敵に不可避の攻撃を放ち、致命傷を与えるのだ。



 戦士が攻守一体なのに対して、暗殺者アサシンは攻撃のみ。それが、一番の違いと言えるだろう。





 そして、先ほども述べたように暗殺者アサシンは基本、前線で戦わない。『暗殺』を目的とするのだから当然だ。


 だから、リャンフィーネは思い込んだ。ケインズが『戦士』であると。しかし、それこそがケインズの罠だったのだ。



 強者になればなるほど、戦いにおいて『経験』が占める割合は大きくなる。元白金等級冒険者であるリャンフィーネについては言うまでもない。


 彼女はこれまで幾多の敵逹と戦い、その中で『前線にいるのは戦士』という固定観念を育んできた。


 そして、『戦士は暗殺者アサシンほどに注意しなくても良い』という常識を持っていた。


 なにせ、戦士は気配を完全に断ちきることなど出来ないのだから。注意をせずとも、近くに接近してくればたやすく気がつける。最悪でも、攻撃の瞬間に現れる殺気に気がつかないわけが無い。

 だから、気配を完全に消せる暗殺者アサシンと違って、戦士はそれほど注意を払わなくても良い。


 そしてそれ自体は間違いではない。むしろ一瞬の判断ミスが命取りになる戦いの場において『注意を払わねばならない対象』を減らすことは、重要なことだ。


 しかしケインズは、その常識を逆手に取った。


 『暗殺者アサシンが前線にいるはずがない』という固定観念を利用して、自分を『戦士』だと思い込ませ、自分に払われる注意を削いだ。



 あとは簡単だった。リャンフィーネが十分気を抜いたとき、つまり『戦いに勝った』と確信した瞬間、彼本来の職業『暗殺者アサシン』の固有スキル“隠密”で気配を完全に断ち、そして、致命的な一撃をリャンフィーネにお見舞いしたのだ。







「・・・っ、まさ・・・か」


 リャンフィーネは血を吐き出す。



 そう、彼女は最初からケインズの手のひらの上で転がされていたのだ。そして今、その手のひらの上から叩き落とされた。



 しかしリャンフィーネは負けを悟りながらも、それでも笑った。


「はは・・・残念だったな・・・お前の作戦勝ちでも・・・私は・・・この女を・・・殺した・・・」


 そう言って、転がったティエナの顔面を指さした。



「ああ・・・申し訳ありませんダーラーン様・・・この程度のお役にしか立てなくて・・・たった一人・・・下賤な女を殺すことしか出来ず・・・」


「だ、だれが死、死んだんですか?」


「・・・!」


 リャンフィーネは驚いて、声が聞こえた方を見る。そこには、


「わ、わたしはまだい、いきています」


 ティエナが無傷で立っていた。ティエナは肩に小さな植物のような生物を乗せ、そして血みどろのリャンフィーネを見下ろしていた。



「なっ・・・」


「お、おどろきましたか? こ、この子のおかげです」


 ティエナはそう言って、肩に乗った小さな植物を撫でた。



 ティエナを救った生物。それは『レンドゴラ』と呼ばれる植物モンスターだった。レンドゴラはその体から強力な幻覚作用を持った物質を放出し、吸った者にまぼろしを見せることが出来る。


 ティエナは万能使役マスター・オブ・テイマーの能力でレンドゴラを使役し、ティエナを殺したとリャンフィーネに錯覚させたのだ。



「あ、ありがとうレンちゃん。も、もどっていいよ」


 ティエナがそう言うと、彼女の胸ポケットの中にレンドゴラは入っていった。





 ティエナすらも殺せていなかったとわかり、リャンフィーネは悔しさを顔ににじませる。


「くっ・・・申し訳ありませんダーラーン様・・・なんのお役にも立てず・・・」


 リャンフィーネは横腹を押さえていた右手を振り上げ、何度も床を殴った。横腹から大量に出血する。

しかしそれでも、リャンフィーネは殴るのをやめようとはしなかった。


「クソッ! ・・・クソッ! ・・・」



 何度もそう言って悔しがるリャンフィーネに、ケインズは語りかける。


「もうよせ。お前の負けは決まりだ。でも、死ぬことはないだろ? ダーラーンって奴もきっと、お前が死ぬことを望んじゃいない」


「だまれ! キサマに何がわかる! ダーラーン様が望んでいるかではない! 重要なのは『ダーラーン様のために何が出来るのか』だ!」


 リャンフィーネは顔を上げた。そして、ケインズと目が合う。その目に宿る闘志を認めて、ケインズの背中に悪寒が走った。


「・・・っ!」


 ケインズは脇にいたティエナを抱え、すぐさまリャンフィーネから距離を取る。そしてその直後、


「ああ・・・ダーラーン様・・・こんな事しか出来ない私をお許しになってください・・・」


 恍惚の表情を浮かべたリャンフィーネの体がまばゆい光を放ち、そして爆発が辺りを吹き飛ばした。


バテました。と言うわけで、次回投稿は12月9日(日)0:00頃にします。楽しみにしてくれていた方も、そうでない方も、どうもすみません。(そのときの書きため具合で毎日投稿するかどうか決めます)


もしかしたら、進捗具合によっては予定より早く投稿する可能性もあります。

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