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奴隷から始まる異世界マネーウォーズ   作者: 鷹司鷹我
帝都騒乱編
55/110

リャンフィーネ:過去

 私が所属していた冒険者パーティー、『白銀の大鷲』のメンバーは5年前、私以外の全員が死んだ。

殺されてしまったのだ。ある一体のドラゴンによって。


 そのドラゴンは俗に言う『変異種』のドラゴンで、雷魔法を自在に操っていた。ギルドがつけた危険度は文句なしの最大レベルで、その駆除は当時最強だった私たち『白銀の大鷲』に一任された。


 そして、私以外の全員が死ぬという多大な犠牲を出しながらも、私たち『銀翼の大鷲』はドラゴンを倒すことが出来た。



 こうして目的を達成したはずの『銀翼の大鷲』だったけれど、一人残された私の胸の中には言いようのない虚しさだけが残された。



『たとえ俺たちが死んでも、ドラゴンさえ倒せれば良い。人々に平穏を与えられればそれで良い』


 命がけの戦闘に赴く直前、私たちのリーダーだったクオリアはそう言った。私もそのときは、それで良いと思っていた。


 誰かを助け、賞賛を得る。感謝され、伝説となる。それだけで、自分たちの死は報われると思っていた。でも、現実は違った。



 ドラゴン退治から帰った私を待っていたのは、なんの喜びも感じられない賞賛だった。

 王様から、本来ならば貴族しか与えられないはずの『聖騎士パラディン』の称号を与えられた。でも、私の心は何も感じなかった。

 ギルドから『伝説のパーティー』として永遠に語り継ぐという“ありがたい”お達しが来た。でも、私の心は渇いたままだった。

 ドラゴンの侵攻から救った村に住む一人の少女が『ありがとう』と言って私に、よくわからない、しかし心のこもったプレゼントを渡してくれた。でも、私にはそれがゴミにしか見えなかった。



 何をもらっても、いくら感謝されようとも、私の心は満たされなかった。そして、ようやく気づいた。『私はもう幸せにはなれないのだ』と。


 どんなに素晴らしい物をもらおうとも、どれだけの名誉を授かろうとも、幾人の人々に感謝されようとも、結局重要なのはそれを分かち合える人がいるかどうかだったのだ。


 そして、それを失ってしまった私にはもう幸せはやってこない。

私は、幸せを失ってしまったのだ。



 私は、冒険者をやめた。そして聖騎士パラディンの称号も返納した。さらには、たくさんの人からもらった“感謝の粗品”も、全部捨てた。


 全てを捨て去りただの生きる屍として、呼吸をし、物を食べ、糞尿を垂れ流す。それだけを繰り返す。そんな無意味な生き方をしていくことに決めた。


 幸せを感じることの無い人生。それに一体何の意味がある? どうせ虚しさだけしか感じないのなら、何も感じなくて良い。ただの屍として生きているだけでいい。



 世界は見渡す限りの、灰色なのだから。







 しかし、そんな生きる屍となった私の前にダーラーン様が現れた。



 彼は私に希望を与えてくれた。友を与えてくれた。再び、幸せを与えてくれた。

生きる屍だった私を、人間に戻してくれた。


 だから私は、彼のためなら死ぬことだって怖くない。命なんて惜しくない。


 私が一番恐ろしいこと。それは幸せを与えてくれた彼が、私を救ってくれた、私にとっての神様である彼が死んでしまうこと。私がまた幸せを失い、生きる屍となってしまうこと。


 ただ、それだけだ。


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