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奴隷から始まる異世界マネーウォーズ   作者: 鷹司鷹我
帝都騒乱編
54/110

それぞれの戦い②

「ヴィー! お願い!」


 ティエナは顔に傷のない方のレッドウルフに叫んだ。それと同時、ヴィーと呼ばれたレッドウルフはリャンフィーネの周囲を俊敏な動きで駆け回る。


「リーも行って!」


 もう一匹のレッドウルフも、命令を受け走り出す。リャンフィーネは瞬く間に、周りを“グルグル”と二匹のレッドウルフに囲まれた。



 しかし、リャンフィーネは少しも焦らない。少しも焦らず、走り回る二匹のレッドウルフの姿を目で追い続けていた。そして・・・



「ガウッ!」



 まず始めにヴィーがリャンフィーネに飛びかかった。それにあわせて、リーも飛びかかる。しかし、それは完璧に見切られていた。



「畜生の分際で私の邪魔をするなど・・・身の程を知りなさい」


 リャンフィーネはそうぼやくと、最初に飛びかかってきたヴィーの方を向いた。そして、拳を振りかざして、


――――ボオンッ!


 リャンフィーネがヴィーを殴りつけた瞬間、彼女の拳が爆ぜた。その爆発は“ほどほど”の威力だったため、殴ったリャンフィーネ自身の肉体はほとんど傷ついていない。



 しかし殴りつけられたヴィーの方は、爆発によって数倍に跳ね上がったパンチの威力に、為す術無く吹き飛ばされ、壁にたたきつけられた。


しかしリャンフィーネの攻撃は終わらない。


――――ガッ


 反対方向から飛びかかったため、リャンフィーネからは間違いなく死角となっていたはずのリーを、彼女は少しも見ずに掴み上げたのだ。



 リャンフィーネはリーの首を掴み、持ち上げる。リーは4本の足を無力にばたつかせていた。


しつけがなっていないわ。所詮、ものを知らない犬畜生ね」


 リャンフィーネはそう言って、リーを掴んだ手に力を込める。彼女の手が、徐々に光りを帯び始めた。その光は、先ほどヴィーを吹き飛ばしたときにも現れていた爆発の兆候だった。



 そして光の強さから推測されることには、恐らく次の爆発は先ほどのような甘っちょろいものではないだろう。間違いなく、爆発の後にリーの顔は残っていない。





――――ヒュヒュヒュ!


「・・・!」


爆発を目前としていたところで、リャンフィーネはリーを放した。そして、すぐに距離をとった。


「・・・いい太刀筋ね。気配の断ち方も上手い」


リャンフィーネは、自分の頬に傷をつけたケインズに賞賛を送った。


 リャンフィーネが爆発させようとする直前、コンバットナイフを片手に握ったケインズがリャンフィーネの背後から、彼女に奇襲を仕掛けたのだ。



 ケインズの気配の断ち方が並大抵のものではなかったため、リャンフィーネは切られる直前までその接近に気がつけなかった。



しかし、予想外なのはケインズも同じだった。


「賞賛は素直に受け取っておこう。そして、俺からも賞賛を送らせてもらう。いまのをよく避けたな」



 ケインズは始めから、一撃で勝負を決めるつもりだった。そうしなければ確実な実力差がある以上、こちらがじり貧となってしまうことは目に見えているから。


 そのため、わざわざリーとヴィーが生み出してくれた絶好の隙を突いたのだ。にもかかわらず、それを躱されてしまった。





「『煉拳』の異名はだ、だてじゃないようで、ですね」


少し離れた場所から戦いを見ていたティエナは言った。



 『煉拳』とは、リャンフィーネが冒険者だったときの二つ名だ。その由来は言うまでも無く彼女の、爆発の魔法と驚異的な身体能力を掛け合わせた戦闘スタイルだ。



 彼女は『魔法戦士』と呼ばれる戦闘職である。


 大抵の魔法使いは後方からの遠距離攻撃で戦う。しかしそれに対して魔法戦士は、その身に魔法を宿し、敵と近い距離で戦う。


彼女のように魔法をのせたパンチを繰り出したり、剣に電撃をまとわせたりといった具合だ。




 そして、リャンフィーネが最も得意とするのは『爆発系魔法』。彼女はただのパンチやキックに爆発の魔法を乗せることで、本来なら人間が繰り出すことが出来ないような高威力の攻撃を繰り出すのだ。



 しかし、それにも限度がある。例えば、爆発の威力を大きくしすぎれば自分にも被害が出るし、爆発系魔法は炎属性であるため、使いすぎれば反動で極度の体温低下を引き起こす。





(久しぶりだから上手くダメージコントロールができていない・・・爆発はあと10回って所ね)


寒さで僅かに体を震わせながら、リャンフィーネは考える。しかしその視線は、決して目前の敵から離さない。



(肉体の限界を考えれば、長期戦は不可能。それに、ダーラーン様のところに早く行かなければならない・・・)


リャンフィーネはそう考えると、自分から最も離れた場所にいるティエナを見る。


(多分アイツが、この畜生共を使役している。なら、アイツさえ殺せれば主人を失った畜生共は戦力にならない・・・まずは・・・)


リャンフィーネはティエナに向かって走り出した。


「お前から殺す!」



「ガウッ!」


 ティエナに向かって突き進むリャンフィーネの前にヴィーが飛び出し、行く手を阻んだ。本能から、ティエナが狙われていることを感じ取ったのだ。しかし、



「どけ! ザコが!」


――――ドンッ!


リャンフィーネの右手から放たれた爆発によって、ヴィーは吹き飛ばされた。



リャンフィーネとティエナの間には、もう誰もいない。




――――ガシッ


リャンフィーネはついに、ティエナの顔面を左手で掴むことに成功した。そして


――――キィィィィィィン


彼女の左手がまばゆい光を放ち始めた。


(取った・・・!)


――――ドンッ!


ティエナの顔面が吹き飛んだ。


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