衝突
「がはっ! ぐううう・・・」
壁を数枚突き破り、リャンフィーネはようやく止まった。
「ダーラーン・・・様・・・」
リャンフィーネはフラフラしながらも立ち上がる。そして、自分が突き破った壁の穴を逆向きにたどって戻ろうとした。
「おーっと、行かせねえぞ?」
「・・・!」
リャンフィーネが壁の穴を通り抜けようとしたところで、本来の入り口である扉の所にケインズが現れた。
「わるいけど、アンタの相手は俺だ。もしあの偽神様のとこに行きたいんなら、俺を倒してからにしな」
「・・・ゲスが」
リャンフィーネはケインズの方に向き直る。ケインズの立ち振る舞いから、すぐに彼が相当の実力者であると悟ったからだ。
ダーラーンの下に行くためには、この男を先に倒さなければならない。それを感じ取ったのだ。
ケインズの方も、リャンフィーネが自分の実力を見極めることが出来るほどに強いこと、そして恐らく自分よりも強いことを感じ取った。
「・・・逃げるのなら今のうちだぞ下賤な男。今なら特別に、ダーラーン様を偽の神と呼んだことには目をつむってやる」
「それはそれは、慈悲深いことで。でも悪いが、俺も引き下がるわけにはいかないんでね。少なくとも、あっちでお前の神様が俺の仲間にやられるまでは」
「キサマ・・・ダーラーン様がただの人間ごときに負けるとでも?」
リャンフィーネはその瞳に、憎しみの炎を宿した。狂信者特有の、絶対的信心から来る敵愾心。それは、それを向けられたケインズの体を一瞬硬直させる。
しかし、ケインズはひるまず言い返した。
「人間ごときに負ける? そりゃそうだろ。お前の神様だって、ただの人間なんだからな。それも、『自分が神になれる』なんて勘違いしている間抜け野郎だ」
――――ブチッ
リャンフィーネの額から、血管がはち切れる音がした。リャンフィーネの顔が赤に染まる。
「殺してやる」
リャンフィーネは一言そう言うと、ケインズに向かって突進し始めた。しかし、
「ガウッ!」
「・・・っ!」
突進してきたリャンフィーネの右腕に、巨大な赤毛の狼が噛みついた。狼の牙がリャンフィーネの右腕に食い込み、赤黒い血が流れる。
「・・・っ、エン・ブラスト!」
――――ボンッ!
リャンフィーネの右腕が、突如爆発した。噛みついていた巨大な狼も、思わず噛みつくのをやめて距離を取る。しかし、爆発そのものの威力はさして高くはなかったため、狼は無傷だった。
噛みつかれた右腕を押さえて二歩下がったリャンフィーネに、ケインズは意地悪く笑いかける。
「わりいな、さっきの『アンタの相手は俺だ』ってのは嘘だ。アンタの相手は“俺たち”だ」
ケインズがそう言うと、彼の後ろからソーッと一人の女性が姿を現した。
彼女の名前はティエナ。スキル:万能使役を持った金等級冒険者で、ケインズの三人の仲間の内の一人だ。
「わ、わたしたちも、あ、あいてをし、します」
ティエナは緊張した様子で言った。そして、ケインズの後ろから現れたティエナと一緒に、もう一匹の赤い狼が姿を現した。その狼の片目には大きな傷がついていた。
この二匹の赤い狼は『レッドウルフ』と呼ばれるモンスターの一種で、高い戦闘力を持っている。ティエナはスキル:万能使役を使って、この二匹を使役して戦う戦闘スタイルだ。
「リー。ヴィー。あ、あの敵をた、倒すよ」
ティエナは緊張した様子で、二匹のレッドウルフに言った。その言葉に合わせて、二匹のレッドウルフも本格的に臨戦態勢に入る。ちなみに、顔に傷がある方がリーで、ない方がヴィーだ。
自分を狙う4体の敵を見て、リャンフィーネは歯ぎしりをする。その表情には、いち早くダーラーンのもとに行きたいのに、それが叶わない事への苛立ちが現れていた。
「・・・本当にイヤになる。何故あなたたちは、私がダーラーン様のところに行くのを妨げようとするの?」
リャンフィーネの質問に、ケインズは答える。
「そりゃ簡単だ。それが俺たち『冒険者』の仕事だからだ」
「そ、そのとおりです。わ、わたしたちの仕事は、あ、あなたを足止めす、することです」
そう言うと、ケインズとティエナの二人は身構える。
それに呼応するように、リャンフィーネも身構えた。さすが元白金等級冒険者であるだけあって、そこには一分の隙も無い。
「・・・もういいわ。あなたたちを殺す。そして私はいち早く、ダーラーン様の下に向かう」
言い終えると、リャンフィーネの体から激しく炎が吹きだした。そして彼女は炎をまとったまま、二人に向かって突進した。
「せいぜいあの世で、ダーラーン様に刃向かったことを後悔しなさい」




