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奴隷から始まる異世界マネーウォーズ   作者: 鷹司鷹我
帝都騒乱編
45/110

転回

「しかし、わしはうれしいぞ。一番の弟子であるお前が、わしに協力してくれることがな」


「フォッフォッフォ・・・」と笑いながら、車椅子に座った男、ダーラーンはシャルーナに言った。シャルーナは「それは光栄ですね」と引きつった笑顔で答える。




「でも、私がいなくても良かったんじゃないですか? 私無しでも、こんなに作戦は上手く進んでいるじゃないですか」


シャルーナはダーラーンに尋ねた。実際、ここに来てから彼女は特に何もしていなかったが、それでも作戦は順調に進み、爆破は目前に迫っている。


何故わざわざ自分を仲間に引き入れたのか? それも、情報が流出してしまう危険を冒してまで。事実、その所為でギルドは爆破の情報を得て、それを阻止すべく動いている。


シャルーナにはダーラーンが何故、彼女に協力を要請したのかが理解できずにいた。





「ふぉっふぉ、確かにこの作戦は上手く進んでおる。しかし、いつも言っておるだろう? 大局を見ろとな」


「大局?」


「もし、我々が帝国の催しを襲ったとわかったらどうなると思う?」


「そりゃあ、帝国が師匠を捕まえるために押し寄せてくるでしょうね」


「その通り。そのとき、戦える者が一人でも多く必要じゃ」


「・・・つまり、私に師匠を守れと?」


「そういうことじゃ。信頼できる者は少ないからの。お主のように、手塩に掛けた弟子くらいしか、わしが信頼できる者はおらぬのじゃ」


「・・・・・・」


シャルーナは内心、「数少ない信頼できる者」と師匠に言われて複雑だった。何せ彼女は本当のところは、師匠にとっては信頼できない相手なのだから。


シャルーナは「それはまた光栄ですね」と本心を隠して答えた。




「・・・ところで、そろそろ教えてくれても良いんじゃないですか?」


「何をじゃ?」


「爆弾ですよ。一体どうやって作ったんですか?」



この世界にはまだ、高性能の爆弾は存在していない。火薬が発明されたばかりで、低威力の爆弾しか作れないのだ。そのため、こけおどしの音爆弾が関の山だ。



にもかかわらず、パーティー会場を吹き飛ばせるほどの威力の爆弾を一体どうやって作ったのか? それもまた、謎だった。



「ふぉっふぉっふぉ、言っておらなかったの。それでは、教えてやろう」


ダーラーンはそう言うと、車椅子を“ゴロゴロ”と移動させた。そして、本棚の前で止まる。


「えーと・・・コレではなく・・・そう、これじゃ」


ダーラーンは、一冊の古びた本を取り出した。表紙に書かれた文字は見たことがない古代文字で書かれていたが、描かれた魔方陣から、どうやら魔術書らしいことがわかった。



「・・・それ、なんですか?」


「古文書・・・とだけ言っておこう」


ダーラーンはぼかすように言った。そして、ペラペラとページをめくる。


「これはわしが冒険者であったときに、あるダンジョンで見つけた物での。(いにしえ)の強力な魔法が書かれておる」


「・・・(いにしえ)の・・・魔法?」


「そうじゃ。かつて世界を支配していたと言われる伝説の文明。そこに伝わりし、魔法の数々が網羅されている」


ダーラーンは本をめくる手を止めた。


「191ページ。そこから30ページにわたり、『世界を焼き尽くす』魔法が説明されている。わしはそれを読み、魔法道具に転用したのじゃ」


シャルーナはダーラーンから本を受け取った。そのページには、全く読むことが出来ない大量の古代文字と、いくつかの図が描かれていた。


「・・・これを・・・読んだんですか?」


「ふぉっふぉ、大変じゃったぞ? 解読に20年。そこから、魔法道具に転用するのに10年じゃ」


「・・・・・・」


シャルーナは師匠に教わっていたときのことを思い出す。そういえば、時々師匠が狂ったような目つきで本を読んでいたことがあった。


おそらく、この本を解読していたのだろう。



「・・・師匠が作ったその爆弾・・・それはどの程度の威力が?」


「そうじゃな・・・込める魔力の量にも寄るがおおよそ、あの城を木っ端微塵に出来る威力じゃ」


ダーラーンは窓の外に見える、帝国の権威の象徴である城を指さした。それを聞いてシャルーナは息をのむ。


(ありえない・・・)


彼女が知る限り、世界で最も高威力の魔法を使える伝説の賢者でも、周囲10メートルを更地にするのが関の山だったはずだ。


しかしダーラーンが作った爆弾は、その比ではない。城を破壊することが出来るというのなら、おそらくその威力は伝説の賢者の魔法の1000倍以上。



そして何よりの問題は、それが小さな爆弾一つで起こせると言うことだった。


魔方陣を戦っている最中に書く必要も無ければ、魔法使いが起動する必要も無い。


十分な量の魔力をため、爆破したいところに持って行き、あとは時限式で爆破するのを待つだけ。


間違いなくそれは、世界の歴史を一変しかねないとてつもない兵器だ。



(師匠が世界を支配するってのも、あながちホラではなさそうね・・・)


もし師匠がこの爆弾を独占していれば、例え全世界の国々を敵に回したとしても勝つことが出来るだろう。それほどに、この兵器は圧倒的だ。




「・・・つまり、この爆弾を開発できた時点で師匠が最も恐れるのは暗殺だけになったと。だから、私に身辺を守って欲しいというわけですね?」


シャルーナの質問に、ダーラーンは頷いた。


「どれだけ強力な兵器を持とうとも、わし本人が暗殺されては元も子もないからの。絶対的に信頼できる者が必要なのじゃ」


「・・・・・・ところで、この本の他のページは解読できましたか?」

シャルーナは怪しまれないように尋ねる。


もし師匠が他の部分も解読していて、その魔法を使ってさらなる強力な兵器を開発しているなら、それも把握しておく必要がある。


しかし、シャルーナからの問いに「いいや」とダーラーンは答えた。



「解読のための『辞書』は作ってはおるが、それでも解読には時間がかかりすぎる。それに、コレばかりはわし以外の者にさせるわけにはいかないからの。わしに残された時間を考えれば、他のページを読むことに意味は無い」


「読み終える前に寿命が来てしまうからの」とダーラーンは笑った。



『コレばかりはわし以外の者にさせるわけにはいかない』と言う言葉に、師匠が本当のところは誰も信頼していないのだと言うことをシャルーナは感じ取った。


『もし他の者に解読させ、そいつが自分よりも強力な魔法を習得してしまったら、自分を殺して世界をそいつが征服してしまうかも知れない』


師匠がそんな不安を感じているのは明白だった。






<<<<   >>>>


「あ、どうもでーす」


「!」


突然の訪問者にシャルーナは驚いて振り向く。そこには、不気味に“ニコニコ”と笑う一人の少年がいた。


「おお、ゲイナス殿か」


少年の姿を見るなり、ダーラーンはそう言った。


(ゲイナス・・・聞いたことがないわね・・・もしかして、コイツが例の協力者?)


シャルーナは少年の姿を改めて確認する。


整った顔立ち。清潔感あふれるたたずまい。そして、何か裏を感じさせる不気味な笑顔。彼女はこの少年ほど、信頼できそうにもない人間が思いあたらなかった。


(タキシードを着ている・・・ってことは、パーティーに行っていたって事かしら?)


シャルーナの推測は正しかった。少年はちょうど今、パーティーから戻ってきたところだった。





「それで? どうだったのかね?」


ダーラーンはゲイナスに尋ねた。その質問に、ゲイナスはやはり不気味に笑ったまま答える。


「問題ないですよ。まだだーれも、爆弾のありかはわかっていません。そして、爆弾も問題なくカウントを続けています」


「・・・!」


少年の言葉に、ミシャーナは思わず反応する。しかし、その動揺を感じ取られないようにすぐに冷静を装った。


(やはりこの少年が・・・そして爆弾はまだ・・・)


シャルーナはすぐに、自分たちがかなり危機的な状況にあることを理解した。この少年の言葉が本当ならば、このまま爆弾を見つけられない可能性もある。


(どうする・・・コイツを捕まえて聞き出す・・・?)


ここでこの少年を捕まえて爆弾のありかを聞き出せれば、爆破を防ぐことが出来る。しかしそうなると問題は、師匠がいることだ。


もしこの少年から爆弾のありかを聞き出そうとすれば、師匠が黙っていないだろう。戦うことになる。しかし、元白金等級冒険者である師匠を彼女一人で倒せるとは思えない。


(・・・ここは・・・我慢の時ね)


シャルーナは、静観することに決めた。元の作戦では今から5分後、2組の冒険者達がここに突入してくる。彼らと一緒に師匠を捕獲するのが確実だろう。


この少年には逃げられてしまうかもしれないが、少年の顔を覚えておけばまあ、なんとかなるだろう。








「じゃ、そういうわけで。俺の仕事も終わったんで商会に帰ることにしますよ」


報告を一通り終えると、少年はそう言って部屋を出て行こうとした。シャルーナは少年の顔を忘れないために、最後にしっかりと少年の顔を見た。



しかし、部屋を出て行く直前、少年は思い出したように振り返り、そして


「あ、これはパーソナルサービスで教えるんですけど、その人裏切ってますよ」


不気味な笑顔でそう言い残していった。


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