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奴隷から始まる異世界マネーウォーズ   作者: 鷹司鷹我
帝都騒乱編
42/110

質問

「まったく、まさか冒険者にここまで常識がないとは思わなかったよ」


パーティー会場に戻ったフォートは、ため息交じりにつぶやいた。あの後もう少しあそこで待っていたが、結局誰も来なかった。




「ねえ、君もそう思わないレイさん? もっと常識を持って欲しいよねえ?」


フォートは傍らのレイに尋ねる。レイはそれに頷いた。


「・・・そうだな。暗殺する側としては、そういう常識外れの行動は予測しにくいからやめて欲しいな」


「・・・あっ、そうですか」


フォートは「暗殺の方が常識外れでは?」という言葉を飲み込んだ。



「じゃあ、僕たちはどうする? 二人だけでも捜す?」


フォートはレイに尋ねた。


ことこうなってしまった以上、他の先輩方と一緒に探すことが出来ないのなら、二人だけで探すほかない。


しかし、彼らは新米の冒険者だ。爆弾がどこに隠されているかなど少しもわからない。(まあ、戦いが本業の先輩方も、爆弾の隠し場所なんか詳しくはないだろうが)


そのため、「爆弾がありそうだな」と思われる場所を手当たり次第に探すしかない。




「はあ・・・ほんとに時間の無駄だなあ・・・」


フォートは再びため息をつく。


先輩方と連絡が取れない以上、先輩方がすでにどこを探したのかもわからない。つまり、“他の人にすでに探された場所”を何度も探す羽目になりかねないのだ。


そんなのは、爆弾の爆発が迫っている今の状況を考えれば、これ以上ないほどのタイムロスだ。




「報・連・相は組織行動の基本だろうに。まったく、とんだ機会損失だ」


「ほうれん草? なんで野菜が基本なんだ?」


「・・・・・・」


どうやら、目の前にも組織原則を知らない男、もとい女がいたようだ。しかしフォートは、ほうれん草についての説明をするのを諦めた。


諦めて、辺りを見回し始めた。





白いドレスを着た老齢の婦人。タキシードに身を包んだひげ面の男。そして、巨大な宝石を体中につけた、いかにもお金持ちそうな男。


そんな、帝国のみならず世界中の高貴な方々が、食事をしたり、話をしたりしている。





「・・・それでですな、是非とも我が国と・・・」


「・・・それはそうと、連合国の件は・・・」


「・・・じつは、かなり高質の鉱山が・・・」



そんな風にそこら中で、かなり重要な情報が飛び交っていた。





「・・・しかしどう? スパイが本業の君としては、ここは情報の宝庫なんじゃないかな?」


フォートはレイにそう尋ねた。レイはゆっくりと頷く。


「そうだな。でも、あんまりキョロキョロするな。怪しまれるぞ」


フォートは「おっと、確かにそうだ」と言って、辺りを見るのをやめた。


今回の任務は“帝国にバレないように”爆弾を処理することだ。もし、ここでキョロキョロなんてして怪しまれでもしたら、運が悪ければ全部がバレてしまうかも知れない。







「もし、そこのお二人さん」


「!」


棒立ちしていた二人に、突然その婦人は話しかけてきた。


「お二人さん、あなた方はどこのどなたなのかしらねえ。私、毎年このパーティーに来ているのだけれど、あなた方を見るのは初めてなのよ」


「・・・ええ。今日、初めて参加したので」


フォートの答えに、婦人は「あら、やっぱりそうだったのね!」と笑った。



「私、このパーティーに来ている皆さんとお知り合いになりたいと思っているのよ」


(なるほど、このパーティーの顔役といったかんじか)


「ところで、あなた方はどこの人なの? お仕事は何を?」


「! ・・・えーっと」


フォートは答えに詰まった。


ここにやって来るのに必死で、ここに来てからの事を考えていなかった。こんな質問への答えなんて考えていない。


答えに詰まったフォートを見て、婦人は訝しみ始めた。


「どうかしたの? ・・・もしかして、何か言えない理由でもおありなのかしら?」


「えーっと・・・」


「連合国で商人をやっています」


「!」


フォートに助け船を出したのはレイだった。


「彼は私の夫で、名前をジャンドールと言います。私は、ソフィアです」


「あら、そうだったの。ジャンドール・・・申し訳ないけど聞いたことがない名前ね」


「ええ。最近になって商会の規模が大きくなったばかりなので。連合国での一件はご存じですか?」


「ああそれなら、私の耳にも入っているわ」


連合国での一件とは、連合国で起きた蝗害と、それによる暴動のことだ。


「その影響で、連合国にあった多くの商会はなくなってしまいました。そして、敵が少なくなったおかげで、それまで弱小商会だった夫の商会は、一気にのし上がったんです」



「あら、そうだったの」と婦人は納得したようだった。



フォートは小声で「助かったよ」とレイに言った。


レイの行動はさすがと言うほかない。おそらく、このような質問をされることを予想して、事前に答えを用意していたのだろう。



連合国の一件を知っている者ならば、間違いなく納得してしまうだろう。これほどの準備が出来たのは、レイがこれまでにしてきたスパイとしての勘に寄るところが大きい。



納得した様子の婦人は、さらに言葉を続けた。


「でも、コレでようやく合点がいったわ」


「どういうことです?」


「いえね、おかしいと思っていたのよ。何故か今年は、新しく見る人ばかりだったから。でも、連合国から来ていた商人の方々が総入れ替えしたのなら、それも不思議じゃないわね」


おそらく婦人が言っている“新しく見る人”の中には他の冒険者、つまり先輩方も含まれていることだろう。


「・・・あ、そうだ」


フォートはある事を思いついて、思わずそう口走った。婦人は不思議そうにフォートを見る。


「どうかしたの?」


「いえ・・・一つお願いがあるのですが・・・」


フォートは婦人の耳に顔を近づけて、コソコソと耳打ちした。


「・・・と言うわけなんですけど」


フォートからのお願いに、婦人は快く「あら、そんなのお安いご用よ」と承諾した。


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