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奴隷から始まる異世界マネーウォーズ   作者: 鷹司鷹我
帝都騒乱編
41/110

勝手

「やれやれ、なんとか潜入できたね」


フォートは周りに人がいないのを確認すると、隣のソーマに話しかけた。彼らは今、パーティー会場の裏にいる。そこで他に潜入している冒険者達と合流する事になっていた。


「いつもに比べれば、女装するだけで良かったから楽だったな」


「女装って・・・君は元から女の子でしょ?」


「なんか言ったか?」


「・・・いいえ」


ソーマはフォートが彼のことを女だと言うのを、公の場では決して許さなかった。それは彼女自身の身を守るためには仕方ないことではあるが、しかしそれは度を過ぎているところがあった。


と言うのも、


「手ぇだせ」


「・・・・・・」


ソーマに命令されて、フォートは黙って手を出す。そして、


――――バシィ!!


「・・・・・っ! 痛ったアア!」


強烈な“しっぺ”をお見舞いした。普通の人がやればたいしたことは無い“しっぺ”ではあるが、レベル40のソーマがやればその威力は絶大だ。フォートは地べたを転げ回る。


「イタタタタタタタタタ! ちょ、威力ありすぎだって!」


「うるさい。こんど約束を忘れたら、額にやるからな?」


ソーマは冷徹にそう言い放つ。ソーマはフォートに「もし私が女だとバレるようなことを言ったら、そのたびにお仕置きだからな?」と釘を刺していた。


さらに、「回数が多くなるごとに、お仕置きの威力も上げていくからな?」とも言っていた。


最初の今回ですら転げ回る威力だ。このままお仕置きがエスカレートしていったら、間違いなく命を奪われる日が来ることだろう。


「いったあ・・・そんなにばれたくないなら、こんなの断れば良かったのに」


『こんなの』というのは、ソーマが、彼曰く“女装”をしてパーティーに潜入していることだ。結局ソーマは『ばれないだろうから大丈夫だ』と言いきって、女性として参加している。


最後の方は、半ばヤケクソに『いいから! 私はパーティーに死んでも参加するんだよ!』とキレながら言っていた。何がそこまで彼女をかき立てるのだろう?


だがもちろん、いくら大丈夫だと彼女が思っていようとも、ばれない可能性が100%なわけはない。


「それなのに、ほんとになんで参加したのかな“レイさん”?」


「・・・さあな」


“レイさん”というのは、今の彼女の呼び名だ。当然ながら、いつも通り“ケンくん”とか“ソーマくん”とか、明らかに男の名前で呼んだりしたら、いろいろなことが一発でばれてしまう。


しかし、仕方ないとは言えなんというか・・・・・呼び名が増えすぎて頭がこんがらがりそうだ。間違いなく、マンガとかのキャラなら結局、読者や作者にさえ、名前を覚えてもらえないタイプだ。


でも、本当に彼女はなぜここまでしてパーティーに参加したいのだろう? やはり、僕に言っていないことがあるのだろうか?



「ほんとにさ、なんか僕に隠してることない? ここに来た本当の理由とか」


「・・・・・・」


レイは無視した。しかし、レイの目的がなんであれ、彼が彼女として参加してくれたのは、フォートにとってはとても運がいいことだった。


なんせ、もしレイが断っていたら、このパーティーまでに相手を探さねばならず、そしておそらく、それは無理だっただろうから。


もしかしたらレイもまた、あの時点から相手を見つけるのは不可能だと悟っていたからこそ、こうして無理をしてでも女性として参加することにしたのかも知れない。


しかし、やはりそれ以外にも何らかの理由があったと思わずにはいられないが。




「それより、他の連中はどこだ? まだ来てないみたいだが」


レイは周りを見てそう言った。確かにその通りだ。もうすぐにでもパーティーが始まるのに、まだ誰も来ていない。


僕たちが一番乗りだったのだろうか? それともまさか、みんなパーティーに参加する相手が見つけられず、潜入に失敗してしまったのか?


冒険者達のトップに立つ存在であるはずの彼らが、まさかそんなことになってしまっているなんて想像したくはないが・・・


それに、モンスター相手には無敵の冒険者達が異性に関してはスライム以下だなんて、もはや笑えない。


「うーん・・・場所を間違えちゃったかなあ?」


フォートが自分の記憶を疑いだしたとき、


「ん? お前ら誰だ? 見ない顔だな」


と、ようやく冒険者らしき男が一人やってきた。どうやら場所は間違えていなかったとわかったフォートは一瞬安堵したが、すぐに気を締め直す。


まずは、お互いの確認だ。


「ギルドはどこですか?」


「あ?・・・・ああ、そうだったな。確認だったな」


男はどうやら忘れていたらしかったが、事前に連絡があって、お互いが潜入している冒険者であることを確認するために、出会ったらまず自分の所属するギルドのある町を言うことになっていた。


「俺はビゼーラって町にあるギルドの金等級冒険者で、ケインズっていうんだ。お前らは?」


「僕らはロンダンという町にあるギルドの所属で、僕がフォート、こっちの彼女がソー・・・じゃなくてレンさんです」


一瞬名前を間違えそうになったフォートを、レンは軽く蹴った。


「ふーん。等級は?」


「金ですね。二人とも」


「そうか。まあいい、仲良くやろう」


「ええ、お願いします」


フォートは、ケインズが差し出した手を握った。すると、突然ケインズは握った手を見て“ふーん”と、何かがわかったような様子を見せる。


「? どうかしましたか?」


「・・・いや実は俺、握手した相手の考えていることがわかるんだよ。それでわかったんだけどさ、お前らまだ、金等級になったばかりだろ?」


ケインズの指摘に、フォートは少し驚く。確かにフォートとレンは、ほんの先日金等級になったばかりだ。もっと正確に言えば、金等級(仮)になっただけである。


「・・・なんで握手するだけでわかるんですか? もしかして、そういうスキルか何かですか?」


「・・・ふ、ははははは!」


不思議そうに聞いてくるフォートを見て、ケインズは吹きだした。そして、「悪かった悪かった」と謝る。


「冗談だよ冗談。俺にはそんな握手した相手の考えがわかる能力なんてものは無い」


「え・・・じゃあどうやって・・・」


「なーに、簡単な話さ。お前らがここにいたからだ」


「? ここにいたから?」


フォートは首をかしげる。ここにいることの何が問題なのだろう? 確かに、ここに集合するようにと連絡された。


ケインズがここに来ていることからも、ギルドからの連絡を聞き間違えたとは思えない。にもかかわらず、『ここにいたから』?


フォートには話が全くわからなかった。



「お前らここでずっと待ってたけど、他に誰も来なかっただろ?」


「ええ・・・」


確かに、ケインズの言うとおり誰も来なかった。場所を間違えたのではないかと疑ったほどだ。


「悪いんだけどな、ここで待っていても誰も来ないぞ。お前ら新入りと、新入りにそのことを伝える役目の俺以外は」


「え? でもここに集合って・・・・・・」


「そうだな。確かにそう連絡があった。“連絡は”な。けど、誰も来ないんだよ。みんな自分勝手だから、自分たちだけで勝手に進めちまうんだ」


「・・・・・・は?」


フォートは思わず聞き返す。


「いやな、金以上になる奴は大抵みんな、『自分さえいれば平気』って思っているんだよ。というか、そういうやつしか金以上になれないんだけど。だから、一応事前に集合場所は伝えるんだが、誰も他の奴に頼ろうとしないから、この通り誰も来ないってわけなんだ。新入りはそんなこと知らないから、お前らみたいにここでずっと待ってる。それを助けるのが俺の役目だ」


「・・・・・・」


フォートは唖然とした。


まさか、冒険者の上位陣にここまで常識が無いとは思ってもいなかった。仮に他人に頼る必要が無いとしても、事前に言われた集合場所に来るくらいは最低限のマナーだろう。


唖然とするフォートを見て、ケインズは「うんうん」と頷く。


「わかる、わかるよ。俺も最初にこれを知ったときは『嘘だろ!?』って思ったもん。でもそのうち馴れるさ」


「・・・だからわかったんですね。僕たちがまだ、なりたてだって」


もしケインズの話が本当なら、ここにいるのはなりたての金等級冒険者で間違いない。なにせ、そんな上位陣の常識を知らないのだから。


おそらくケインズは、毎回二人のような新入りにこのことを伝えに来ては、さっきみたいな、マジックまがいのことをしているのだろう。


それはそれで、ケインズもなかなか性格が悪そうだった。



「それじゃあ、他の人たちは・・・・」


「ああ。もう各自勝手に探し始めているだろうな。かく言う俺も、すでにいくつかの場所を見てきたところだ。まあこの通り、収穫無しだが」


そう言って、ケインズは空の両手を見せる。まあ、見つかっていたら、こんなところに来ないだろうし当然だ。


「それじゃ、お前らもこんなところにいないで、さっさと探しに行くこった。じゃあな」


ケインズはそう言って、二人に手を振りながら、スタスタとパーティー会場に戻っていった。


あらすじを少しいじくりました。若干のネタバレを含んでおりますが、これからどんな話が展開されるのかと言うことの確認をしていただけたら幸いです。(早くお札を作りたい・・・)

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