初出
帝国では年に二度、各国の王族や貴族、さらには特に力のある商会などから多くの人間を招待した晩餐会が催される。
このパーティーの目的は、世界中の権力者達とのパイプを作ることはもちろん、帝国の権威を示すことにもある。
そのため、晩餐会の食事、音楽、さらには城の装飾までの全てが、一流以上のプロフェッショナル達により施され、その全てが帝国の威信と名誉を表している。
もちろん、警備もまた帝国の威信を背負っていることは言うまでもない。本来ならばアリ一匹侵入することすらできない。
「にもかかわらず、どうやって爆弾を仕掛けたんですか師匠?」
シャルーナはエヴォルダ教の帝都本部の建物から、望遠鏡を使って巨大な城の全貌を見ながらそう尋ねた。
彼女の後ろには、信者から神とあがめられる彼女の師匠、ダーラーンが車椅子に座っていた。
「なに、簡単な話だシャルーナよ。単に、警備が厳重になる前に仕掛けただけのことだ」
ダーラーンはシャルーナからの質問に、にこやかに答えた。
彼の一言一言は、その場にいる者を落ち着かせるかのような優しさと、誰にも口を挟ませないような威厳を含んでいた。それはおそらく、彼のあまりにも長い人生経験から来るのだろう。
「警備が厳重になる前と言っても、侵入が難しいのは同じでしょう? どんな魔法を使ったんですか?」
「ふぉっふぉっふぉ、おぬしが一番わかっておろうが。魔法にそのようなことが出来ぬ事は。わしが使ったのはそんな非現実的な魔法などではない」
「へえ、じゃあどうやったんですか?」
「簡単じゃ。それが出来る者を借りたのじゃよ」
「借りた?」
シャルーナは背後の、床に付くほどにひげの長い自称“神”にそう聞き返す。
「そうじゃ。その者は我らの協力者でのお、わしが世界を支配することを望んでおると言っておった」
「へえ・・・信者の一人ですか?」
「いや、あの者は信者ではないのお。たしか・・・商人と言っておったな」
(・・・商人?)
「おそらくあやつは、わしが世界を支配することを本気では望んでおらん。協力しておるのは、金になりそうだからという下賤な理由からじゃろう。しかし、わしにとっては利用できるなら何でもいいのじゃよ。世界さえ支配できれば、あやつは嫌でもわしに従わねばならぬのだからな」
「フォッフォッ・・・」と自称“神”は笑った。それを聞いていたシャルーナは内心で危機感を募らせる。
(師匠の話が本当なら、その協力者も見つける必要があるわね。師匠がそいつの名前とかを知っていればいいんだけど・・・っと)
双眼鏡で城の前を監視していたシャルーナは、入り口で馬車から降りるフォートを見つけた。
(よしよし、とりあえず潜入は出来そうね。よかったよかった。・・・そういえば、男女一組でしか入れないって聞いていたけどフォート君、相手はどうしたのかしら?)
シャルーナがそんなことを考えていると、フォートは馬車の中に手を伸ばして、自分の相手が降りてくるのをエスコートした。
(・・・・・・あら? 誰かしら?)
フォートにエスコートされて出てきたのは、きれいな服に身を包んだ、周りから感嘆の声が漏れるほどに美しい、シャルーナが見たこともない女性だった。




