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奴隷から始まる異世界マネーウォーズ   作者: 鷹司鷹我
帝都騒乱編
36/110

火種

~休暇8日目~


「あの・・・・・・少しよろしいでしょうか?」


ギルドの中にある酒場で休んでいたフォートとソーマの所に、受付嬢はわざわざ出向いてきてそう告げた。

フォートは不思議そうに受付嬢を見る。


「この通り暇を持て余している状況なので、別にいいですよ。なんですか?」


「そうですか・・・それなら」


受付嬢は辺りを見てから、


「ここではちょっと・・・少し場所を移しましょう」


そう告げた。



<<<<   >>>>


「へー、ギルドの奥ってこんな風になってたのかあ」


前を歩く受付嬢の後を追ってフォート達は歩いていた。

彼らは今、本来ならば金等級以上の冒険者しか入れない、ギルドの奥へと続く廊下を進んでいた。フォートはキョロキョロと辺りを見回す。


「いやー、ほんとに金ぴかだねえ・・・少し削らせてもらいたいくらいだ。ねえ、ソーマ君?」


フォートはすぐ横を歩いているソーマにそう尋ねた。

しかしソーマは、内心あきれているのか、何も答えなかった。


フォートは前を歩く受付嬢に尋ねる。


「でもいいの? 僕たちまだ銀等級なのにここに入っちゃって」


「はい。今回は例外です」


前を歩く受付嬢は振り返りもせずに答えた。


廊下に施された装飾は絢爛豪華で、天井にはシャンデリアがつられている。


(こんなんに金を使うなら、もっと他の事に使えよ・・・というか、僕にくれ)


辺りを見回していたフォートの率直な意見がそれだった。

それほどに、廊下は金がかかっていた。


まるでそれは、ここに来ることが出来る金等級冒険者のすごさを代弁するかのようだった。



「・・・こちらです」


受付嬢はその部屋の扉の前で立ち止まると、ドアを開けて二人を中へと招いた。

そして、そこには先客がいた。


「よっ! 久しぶりだね二人とも!」


中に入った二人にそんな気軽な挨拶をしたのは、すでに部屋の中で待っていたシャルーナだった。


「シャルーナさん?なんでここに?」


「まあまあ、それよりまずは座りなよ。話はそれからそれから!」



<<<<   >>>>


「4日ぶりだね二人とも。あれからなんか依頼はこなした?」


「ええ。まあそれなりには・・・それよりもなんで、シャルーナさんがここにいるんですか?」


いかにも高級そうなソファに座ったフォートは、向かいに座るシャルーナを不思議そうに見る。


彼がそんなことを聞くのは、シャルーナがこのギルドの冒険者ではないからだ。

彼女は本来、隣町にあるギルドの冒険者だ。

そして普通、冒険者が自分の所属するギルド以外に出向くことはない。



フォートの質問に、シャルーナは笑って答える。


「それはもちろん、君たちに会うためよ」


「僕らに・・・・会うため?」


フォートは首をかしげる。

この前のことがあったとはいえ、別にシャルーナと度々会うくらいに仲が良くなったわけではない。

間違いなく、会いに来たのには理由があるはずだ。


「あ、それについては私から・・・・」


受付嬢はそういうと、二人にある依頼書を見せた。

その依頼書は普通の依頼書とは違い、“白紙”だった。


かろうじて、それが依頼書であることを示すギルドの刻印がなされていたおかげで、それが依頼書であることがわかった。


「なんだこれ?」


ソーマは“おそらく依頼書である”紙切れを受け取る。

そして、それを光にかざしたりして調べた。しかしすぐに、興味をなくしたようにそれをフォートに渡した。


「それは依頼書です。それも、金等級以上の冒険者のみが受注できる」


受付嬢の答えを聞いて、紙切れを調べていたフォートは全てを理解した。


「・・・シャルーナさん、お願いします」


そういって、フォートはシャルーナに白紙の依頼書を渡す。

シャルーナがそれを受け取り、胸元にかかった金色のプレートを当てると、


「・・・!」


白紙だった依頼書に文字が浮かび上がった。

シャルーナはそれをフォートに返した。


「このように、金等級以上の冒険者がプレートをかざすと依頼が浮かび上がる仕組みになっています。金等級以上の冒険者が受ける依頼は大抵、人に知られてはまずい物ですから」


依頼書に目を通す二人に、受付嬢はそう教えた。

しかし二人はその言葉を話半分に聞いていた。

それほどに、依頼書の内容は驚くべき物だったから。


「これは確かに・・・知られたらまずいかもですね」


フォートが一通り目を通した感想はそれだった。

ソーマも似たような思いを抱いていた。



依頼書には、元冒険者だった大賢者とその仲間が、帝国で開かれるパーティーを爆破する計画を立てており、それを阻止して欲しいという依頼が書かれていた。





「その大賢者というのは、もともと帝国内のギルドでも特に力のあった魔法使いです。引退した後も後進の育成など、あらゆる面でギルドを支えていました。しかしそんな彼が突然、新興宗教を作り、このような暴挙に出ようとしているのです」


「新興宗教?」


「エヴォルダ教という宗教です。彼を絶対神とし、世界を彼が治めることを目的としています」


「なるほどね、要するにそいつを中心とした世界を作ろうっていう、宗教の名を借りた秘密結社なわけか」


やばいなあ。そういう宗教組織って、前の世界でもたくさんいたんだよなあ。

しかもそういう組織ってかなりクレイジーだから、正直関わりたくない。



「で、そのエヴォ・・・・ナントカ教は、なんでそんなことをしようとしているんだ?」


ソーマはどうやら、エヴォルダ教についてはしらなかったようだ。

知っていたら“エヴォナントカ教”とか言わないだろう。

彼の情報網はやっぱり商業限定なのかな?


・・・いや、もしかしたらそのエヴォルダ教がごく最近出来たばかりで、単に知らなかっただけかな?

いくら彼の情報網がすごいと言っても、帝国の端っこで起きたことまで全部を知ることは出来ないだろうし。



「蝗害が起きたことはご存じですね?」


「ええ・・・それはもう」


起きる前から知っていたし。


「その社会情勢の不安につけ込んで、ごく最近になって彼らは帝都での活動を活発化させました。そして、その勢いそのままに帝国を攻撃しようとしているわけです」


「なるほどね・・・・」


要するに、調子に乗っているわけだ。

社会が不安なとき、力を持つのはいつも宗教だ。

そして力をつけた彼らは、この機に帝国を吹っ飛ばして、自分たちの力を示そうって腹づもりなのだろう。


蝗害が起きてからなんの対策もとらない帝国には市民の不満も募っている。

だから、爆破なんてしたらむしろ市民達からは喜ばれることだろう。

ついでに信者を増やせれば一石二鳥というわけだ。


「でも、どうやってこの情報を得たんですか?こんな情報、そうそうゲットできないでしょ」


「それについては・・・・」


受付嬢はチラリとシャルーナの方を見る。

シャルーナは頷いて受付嬢と話を代わった。


「私が手に入れたの」


「シャルーナさんが? 一体どうやって・・・・」


「簡単よ。私の師匠からこの計画に協力するようにお願いされただけだもの」


「・・・・・・は?」


「エヴォルダ教の開祖、ダーラーン・シンドラは私のお師匠様なのよ」


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