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奴隷から始まる異世界マネーウォーズ   作者: 鷹司鷹我
変異トロールとの戦い
34/110

終幕

「いやー、助かったよ。まさか刺さりきらないとはね。まぶたにでも邪魔されたかな?」


フォートはトロールが崩れ落ちる前に頭から飛び降りたソーマにそんなことを言いながら、トロールの目に刺さった金属製の矢を掴んだ。


「ぬっ・・・あれ、抜けないな。悪いけど抜いてくんない?」


「・・・それ、また使うのか?」


半ばあきれた様子でソーマはそう尋ねる。


「もちろん。金属製の矢は高いから、再利用できるときはしないとね」


ソーマが矢を引っ張ると、すぐにトロールの目から飛び出してきた。飛び出した矢の先端には、おそらくかき混ぜられた脳みその一部と思われる物が付いていた。


「うーわ・・・これはいらなかったかもなあ」


フォートは渡された矢に付いた脳みそのような物を見て、あからさまに嫌そうにした。しかし、わざわざ引っこ抜いてもらった手前、『やっぱいらない』とは言えないので、


(帰ったら捨てよ・・・・・・)


という結論に至った。


「そういえばシャルーナさんは?」


廃棄処分が決まった矢を矢筒の中に、他の矢に当たらないように入れながら、フォートはふとそうたずねた。


「ああ、そこの茂みに隠しておいた。意識がなくなっていたみたいだったけど、まあ大丈夫だろ」


「大丈夫って・・・この時間の茂みなんて虫だらけじゃん。そんなところに置いてくるなんて信じられないわあ・・・」


そんなことを言いながら、二人はシャルーナのいる茂みに歩いて行った。そして、茂みの中を覗いてみると


「うわあ・・・」


思わずそうこぼしてしまうほどに、シャルーナの顔はひどいことになっていた。羽虫だかなんだかわからないような虫が、無数に顔にひっついていた。


「僕が気絶しても絶対に茂みなんかにはおいていかないでね?」


フォートは隣のソーマに、心からそうお願いした。






<<<<   >>>>


「夜道は危険だから、夜が明けてから村に戻ることにしようか。それまでは、この家で休ませてもらおう」


二人は気絶したままのシャルーナを抱えて、もうすでに空き家となってしまった、燃え残った家の中の一つで腰を下ろした。


シャルーナはたった今まで自分に訪れていた“悲劇”を知るよしもなく、気持ちよさそうに眠っていた。


「・・・絶対言うなよ」


ソーマは念を押した。もちろん、『俺がおいていったせいで虫が顔面に張り付きまくった』ことを言うなよと言う意味だ。


「言わないよ・・・言ったら僕にも被害が来そうだし」


フォートは鞄からパンを取り出した。そして、半分にして片方をソーマに渡す。


「帰りの食料は村で猪の肉をもらえるから、気にせず食べていいよ。まったく・・・次来るときは食料を食べきれないくらい買い込んでやる」


二人はパンを口に押し込んだ。たったさっきまで死闘を繰り広げていたとは言っても、それでも腹は減る。


「・・・そういえばさあ、あのトロールの死体ってどうなんのかな?」


「たしか、一部は俺たち冒険者がもらえるはずだが、大半はギルドに持っていかれるはずだ」


「マジでか・・・つくづく儲からないな冒険者って。じゃあ悪いんだけどさ、今回もらえるトロールの素材は全部僕にくれない?」


「かまわないが・・・何に使うんだ?」


「さあ、なんだろうねえ」


フォートはぼかしつつ、最後のパンを口に放り込んだ。


「・・・まあいい。しかし、今回のことでおそらく階級も上がるだろう。少なくとも銀、よければ金だろうな」


「へえ~、一気にそんなに上がるんだ」


「トロールを倒せる冒険者はそれくらいの実力があるって言われてるからな。少なくとも、こいつは“金”確定だろうな」


ソーマはいまだに眠り続けるシャルーナを見た。


「・・・・まあ当然でしょ。実際この中で一番のベテランは彼女なわけだからね。それに、彼女の魔法がなかったら、倒せなかったのも事実だし」


「・・・・・・まあそういうことにしといてやるよ。疲れてくたくただしな。俺はもう寝る」


「僕も寝たいんだけど・・・・見張りはやっぱりいるよね」


「ああ、よろしく頼む。3時間たったら起こしてくれ」


「わかったよ。じゃあ、おやす・・・」


――――ガタッ


「!」


二人は家の奥を見た。そこから、物音が聞こえたのだ。


「・・・誰かいるのか?」


フォートは恐る恐る立ち上がって、奥に進んでいった。ソーマは懐から短剣を取り出す。


トロールは倒したので、おそらく物音の主は敵ではないだろう。しかし、用心に越したことはない。


フォートは、懐から商会特製の点火装置を取り出し、火をつけた。“ポオッ”と辺りが明るくなる。


フォートの目の前には小さめの箱があった。フォートは周りには他に何もないことを確認すると、そっとその箱を開けた。


「っ!」

そこには、小さな箱の中に、それよりも一回りも小さなエルフの少女が入っていた。


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