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奴隷から始まる異世界マネーウォーズ   作者: 鷹司鷹我
変異トロールとの戦い
33/110

反撃

トロールは、巨大な木々に囲まれたエルフの村の、そのど真ん中、おそらく昨日までは大勢のエルフ達が笑って過ごしていたであろうその広場で、我が物顔で眠っていた。


しかし、それをとがめる者は、すでにトロールに蹂躙されてしまっていた。


「ぐぉぉぉぉぉぉ・・・ぐぉぉぉぉぉぉ・・・」


そんないびきをかきながら、トロールは眠っていた。



そして、そのいびきを聞きながら少女は、暗くて狭い中、ただ震えて、彼らが戻ってくるのを待ち続けていた。





<<<<   >>>>


「・・・・・・・ヴォ?」


トロールは自分のテリトリーの中に何者かが侵入したことに気がついて目を覚ました。すぐに、侵入者の方を見る。


30メートルほど遠くで、その人影はこちらに向かって来ていた。


トロールは気色悪く笑う。“また、おもちゃが現れた”と。


しかし、そのときだった。


――――バチチッ!


「・・・・・・!? ヴオオオオオオオオ!」


視界の外からの雷撃に、トロールは悲鳴を上げた。しかし二度目であるため、そこからの復活は早かった。すぐさま雷撃を放った女、シャルーナを見つけた。


「ぐぉぉぉぉ・・・・・」


『あれは先ほど自分に、失礼にも電撃を放った女だ。生きていたのか?』そんなことを思い、にらみつける。


再び自分に死角からの電撃を放った女に、トロールの怒りは頂点に達した。



「グオオオオオオオオオ!」


トロールは雄叫びを上げてシャルーナに突進する。

しかし、


――――ガキイイン!


「ヴォ!?」


突如として、自分の足を切りつけられたことにより立ち止まった。それは、ほんのさっきまでは、自分から離れたところにいたはずの最初の侵入者、ソーマだった。


「ちっ、やっぱり堅いな」


トロールの足の健を斬るべく放った斬撃は、フォートの予想通りトロールに満足な傷もつけられずにはじかれた。


しかし攻撃を放つとすぐに、ソーマはトロールから距離をとる。トロールはシャルーナの事など忘れ、目の前の貧弱な人間をターゲットにした。


トロールがソーマを追いかけようとすると、


――――バチッ!


「こっちよ!」


シャルーナの雷撃が三度トロールを襲った。そして、トロールの動きが電撃の痺れによって鈍った所をすかさず、


――――ガキキキキイイン!


ソーマの連撃が襲う。しかし、やはりそれは、剣から美しい金属音を発するだけで、有効なダメージを与えられない。


「やっぱきかねーな。しゃーない、もうやるぞ」


ソーマはシャルーナに合図を送った。合図を受けて、シャルーナは目をつむり、魔力をため始めた。



しかしトロールは、近くでちょこまかと動き回り、自分に毛ほども効かない斬撃を浴びせかけ続けるソーマに気をとられ、それに気がつかない。



(しょせんはトロールか。目の前のことしか考えられないらしい)


ソーマはトロールからの攻撃を紙一重でかわしつつ、そんなことを半ばあきれながら考えていた。

そして、


「それじゃ、さようなら」


ソーマはそう言って、トロールから離れていった。

トロールは『敵が自分を恐れて逃げだすのだ』と勘違いして追いかけようとした。が、



「二人の仇よ」


力をためきったシャルーナは目を開き、トロールの姿を捉えた。そして、落ち着き払った声で、無慈悲に言い放つ。


地獄からの一撃(ヘル・ボルテージ)


――――カッ!


シャルーナの周囲が激しく閃光した。

直後、


――――バヂヂヂヂヂヂヂヂヂ!


トロールの足下に巨大な魔方陣が現れ、強力な電撃がトロールの足下から空に向かって飛んでいった。


「グオオオオオオオオオ!」


それまでとは比にならない程に強力な雷撃に襲われ、トロールは口から煙を吐き出し、膝をつき、動きを完全に停止した。


トロールは厚い脂肪と表皮により一命は取り留めたものの、それでも重大なダメージを受けている。しかし、動けなくなったのはシャルーナも同じだった。


体力を完全に使い切り、彼女もまた膝をついて倒れる。


「よし、後はアイツに任せて逃げるぞ」


倒れかけたシャルーナを、ソーマは抱きかかえて走り出した。しかし、シャルーナにはもう意識はなかった。




「ここまでは予定通り。問題はここからだ」


膝をつくトロールの前に、フォートが現れた。


フォートは持っている矢の中でも最も強度のある、最近見つかった今のところ世界最高強度を持つ合金で出来た矢を取り出し、そして構える。


「スキル発動“剛射”」


フォートの体が、赤い光に包まれた。狙いを定め、そして、息を一つ吐き出し、矢から手を放す。


強烈にしなった弓が、矢を押し出した。矢は、赤い閃光をまとって進み始める。


放たれた矢はまっすぐに進み、そしてトロールの目をグサリと射貫いた。


「グオオオオオオオオ!」


目に金属製の矢を突き刺され、トロールは叫び声を上げる。トロールの片目から、光が失われた。


しかしトロールが死なないことから、どうやら矢の先端は脳まで届いてないらしい。


(やっば! 威力が足りてない!)


フォートはすぐに第二射を放とうと背中に手を伸ばしたが、


「ヴオオ・・・・」


トロールはかろうじて見えるもう片方の目で、自分から片方の目を奪った人間を睨んだ。そして、電撃のせいでピクピクと痙攣する右手を、かろうじてフォートに向けた。


トロールの手が輝き始める。


(ヤバい・・・・・)


この至近距離でトロールの炎魔法を喰らえば、消し炭すら残らないだろう。フォートの背筋は凍りついた。




「さっさと死ね」


魔法を放とうとしたトロールの頭に、ソーマは飛びついた。そして、目に刺さった金属製の矢を掴み、それを奥へと押し込んだ。


矢がトロールの脳みそに突き刺さる。


そしてソーマは、矢がこれ以上奥に行けなくなったことを確認すると、矢をぐるりと、まるでホットケーキの材料を混ぜるかのように回した。


トロールの頭の中で脳みそが、かき混ぜられた。


「ヴァグォヴィヴヴヴベボブブ・・・・・」


トロールはそんな変な声を出しながら、地面に崩れ落ちた。

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