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奴隷から始まる異世界マネーウォーズ   作者: 鷹司鷹我
変異トロールとの戦い
30/110

尊敬

彼女の名前はシャルーナ・ミラー。銀等級の冒険者で、魔法使いである。


数年前から、剣士のエバンスと武術家のブレイの3人でチームを組んで様々な依頼をこなしていた。


3人全員が銀等級に上がったのはごく最近で、それを祝して今回は、『山火事多発の原因調査』という“簡単な”依頼を受けた。そのはずだった。


エルフの村が近づいてきたとき、三人の中で最も目の良かったエバンスがそれに気がついた。


「なあ、向こうで何か燃えてないか?」


もう少し近づいたところで、残りの二人もそれがわかった。それが、今向かっているエルフの村のある方向であったため、三人は急いで火の元に向かった。


そしてそこは・・・・・




「ひどい有様だったわ。そこかしこに人が燃えた残りカスがあって、そこら中から悲鳴が聞こえた」


シャルーナは頭を抱えて言った。


「思い出しただけで吐き気がするほど、嫌な臭いがしてた。人が焼けた、鼻を貫くような臭いが」


「・・・・・ソーマ君も、そんなこと言ってたよ。人が焼ける匂いがするって」


ソーマは人が焼ける匂いのことを“ひどい匂い”などとは言っていなかったが、それでもあのときの顔を見れば、ソーマがあの匂いを好きだとは到底思えない。


「それで私たちは、すぐにその元凶を探した。でも、すぐに見つかったわ。悲鳴がする方にいけば良かったんだからね」


「そんなに悲鳴がひどかったのか・・・・・まさに地獄のようだったろうね」


「それ以下よ。あそこは地獄なんて生やさしいものじゃなかった」


「・・・・・それで?」


「手から炎を出すトロールがいたわ。おそらく、変異種でしょうね」



変異種とは、モンスターの中にごく僅かに生まれることがある()()()使()()()特殊な個体のことである。


その危険度はモンスターの種類や魔法の強さにもよるが、ほとんどの場合はギルドが特別措置をとり、討伐のために各地から高レベルの冒険者を集めなければならない。


「なのに、何で君たちは戦いを挑んだわけ?逃げることだって出来ただろ?」


フォートは当然の疑問を投げかける。どう考えても変異種のトロールなど銀等級の冒険者パーティーの手に負える相手ではない。


フォートからの問いに、シャルーナはまるで自嘲するかのような様子を見せた。


「おかしいと思うでしょ? でも、私たちのリーダーは残酷に殺されていくエルフ達を見捨てられるほど、賢くなかったの。それに、私たちもそれを止めるつもりもなかった。殺されるのはわかってたのにね。笑えるでしょ?」


「・・・・・さあね」


「結局私たちは、私が囮としてトロールを森の奥におびき出して、そこを残りの二人が攻撃するって作戦をとったの。でも、結局このざま。エルフを助けるどころか、仲間を殺され、私はあなたに助けられた」


「・・・・・・あんまり自分を責めるなよ。少なくとも、君らは人に誇れることをやったんだから」


フォートからの慰めに、シャルーナは怒りを満たして反論する。その怒りは、明らかにフォートだけに向けられた物ではなかった。


「人に誇れる? バカ言わないでよ。何も守れないなら、何もしてないのと同じよ。自分達の命まで無くして、ほんとに間抜けよね私たち」


「そうかな? 少なくとも僕は、会ったことはないけど、死んだ君の二人の仲間は“誇れる生き方”を貫いたんだと思うよ。それは、人生を成功させることよりも重要だと思う。うらやましくさえある」


「死んだのがうらやましい? 冗談なら笑えないわね」


「冗談なんかじゃないよ。僕は本気で、君らのことをうらやましく思うんだ」


シャルーナは、今度は全ての怒りをフォートに向けた。


「・・・・・死んだことも、死にかけたこともない奴が、なめた口をきいてるんなら、はっ倒すわよ」


「はは、それは御免被りたいなあ」


死んだことなら・・・・・ある。その言葉を、フォートは飲み込んだ。

言う必要はない。言うつもりもない。


そんな言葉、慰めにもならないのだから。

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