不安
「・・・・・・!」
目を覚ました彼女は、自分が横たわっていることに気づいた。どうやら、夢を見ていたらしい。
(ああ・・・・そうか・・・・)
体を起こそうとすると、腕に鈍い痛みを感じた。しかし、彼女にとってそんな痛みはどうでも良かった。それよりも遙かに、心が痛かったから。
(死んじゃったんだ・・・・・二人とも)
涙がこぼれてきた。
彼女は腕の痛みにもかまわずに、次から次へとあふれる涙を拭った。
目の裏には今も、二人が潰される様子が鮮明に残っている。
それはいくら涙を流しても、まぶたの裏から涙と一緒に流れていってはくれなかった。
「あ、起きた?よかったよかった。目を覚まさないんじゃ無いかと思ったよ」
涙を流し続ける彼女に、無神経にも“よかった”などとフォートは言った。彼女はようやく止めた涙を拭って、自分のすぐ側にいたフォートを見た。
「・・・・・・あなたも冒険者なの?」
「え、なんでわかったの?」
「・・・・・プレート」
「プレ・・・・ああね」
フォートは胸元の、白色のプレートを手に取った。
「お察しの通り、新米の冒険者だよ。と言うことは、君も冒険者なわけ?」
「・・・・・・」
彼女は黙って、怪我をしていない方の腕で胸元から銀色のプレートを取り出した。
「わお。銀色って事は上から3番目か。先輩ってわけだ。いや、先輩なわけですね」
「・・・・・敬語の必要はないわ。それより、あなたが助けてくれたの?」
包帯が巻かれた腕を見て、フォートにそう尋ねた。フォートはうなずく。
「エルフの村に行く途中に、崖の上から転げ落ちてくる君を見つけたんだ。くぼみとかに当たって、落ちてくるときに腕を怪我したみたいだけど、むしろあの高さから落ちてそれだけなら“運が良かった”ね」
「・・・・・・運なんて・・・良くないわよ・・・」
悲しそうにそういうのを見て、フォートは何かまずいことを言ってしまったのだと思った。すぐに話題をそらす。
「・・・・まあそれで、僕が君の介抱をして、相棒のケ・・・・じゃなかった、ソーマ君がエルフの村の様子を見に行ってくれてるんだよ」
彼女はピクリと反応する。
「・・・その人の階級は?」
「え? 僕と同じ白色だけど・・・・・」
「なっ・・・」
彼女の脳裏に、ほんのさっき目の前で押しつぶされた二人の仲間の姿がよぎった。
「こ、殺されるわよ・・・・・1人なんてそんな・・・・」
「殺されるって、あのトロールに?」
彼女は驚いて顔を上げる。
「相手がトロールだとわかっていて・・・1人でいかせたの?」
「というか、君をここに置いていくわけにいかなかったから、仕方なく別れたんだよ。それに、戦いを避けた偵察くらいなら、まあ彼なら問題ないでしょ。めちゃくちゃ強いし」
「強いって・・・白色でしょ?」
白色の冒険者の強さなどたかが知れている。そもそも、もしトロールと互角にやり合える実力があるなら白色などから始まらず、最初から金か少なくとも銀の階級のはずだ。
「まあまあ、そんなに心配しないでも大丈夫だから。それより、君が知っていることを教えてよ。何かの手がかりになるかも知れない」




