夢の中で
「素晴らしい!わしが見てきた中で、お前は間違いなく一番の才能を持っておる!」
どこか見覚えのある場所で、見覚えのある誰かに、彼女は肩を叩かれた。
「都に行きなさい。あそこには魔法を専門に学べる学校がある。紹介状を書くから、そこで才能を目一杯磨くといい!おぬしなら帝国一、いや世界一の賢者になることも可能かもしれんぞ!」
(・・・・・あ、お師匠)
彼女はようやく、自分に期待を掛ける誰かが自分の師であることに気がついた。しかしそれに気がついたとき、目の前の光景は全て霧散していた。
「よお、お前が最近話題の大魔法使い様か?」
今度は酒場のようなところで、誰かが話しかけてきた。彼女が振り返ると、そこには鉄の鎧を着た男が立っていた。
そして、鉄鎧の男は座っていいかの確認もせずに隣に座ってきた。挙げ句の果てに無作法にも、彼女に断りもせずにテーブルに置かれた彼女の酒を勝手に自分のコップに注いだ。
「・・・・・・ケンカなら買いますが?」
強奪した酒を飲み干した鉄鎧の男を見て、彼女の口から自然とそんな言葉が出てきた。すると後ろから、
「すみませんね。いつもはこんな男ではないのですが、どうやら彼は、ようやくお目当ての女性に会えて興奮しているようです」
紳士風の男がそう謝ってきた。紳士風の男は服の上からでもわかるほどにガタイが良く、紳士風の風貌とそのガタイの良さのミスマッチが妙な雰囲気を出していた。
「おいおい、人を女目当てみたいに言うなよ。まあ、アンタという女をお目当てにしているってのは間違いじゃないけどな」
鉄鎧の男はそう言うと、空になったコップを机に置いた。そして、隣に座る彼女に言った。
「俺たちと“冒険者”、やらないか?」
再び目の前の光景が霧散し、次に気がついたときには、今度はどこかの森の奥にいた。
「そっちに一匹行ったぞ! 気をつけろ!」
「こちらも手一杯です! すいませんが自分でなんとかしてください!」
少し離れたところで何か小さなモンスターと戦う二人が、彼女にそう叫んだ。彼女はすぐに、自分に向かってモンスターの中の一匹が突進してくるのに気がついた。
「ライトニング!」
気がついたときには、彼女の口からその言葉が飛び出してきた。
――――バチチ!
「ギイイイイイ!」
モンスターはそんな声を上げて絶命した。
またもや光景が霧散する。
「なあ、これなんていいんじゃないか? 山火事の原因解明だってよ」
今度はギルドの掲示板の前にいた。鉄鎧の男は掲示板から依頼書を引き剥がす。
「ようやく我々も階級が銀になったのですよ? もっと階級にあった仕事を・・・・なるほど、依頼してきたのはエルフの村ですか。エルフの女性に会うのが目的ですね?」
「ばっ! ちげえよ! やっと階級が上がった初仕事だからこそ、こういう無難な仕事をするべきだろ! お前もそう思うだろシャルーナ!?・・・・・シャルーナ? 聞いてるのか?」
鉄鎧の男は、二人の前で顔を覆って、質問に答えない彼女に、そう聞いた。
「・・・・・・お願い」
シャルーナと呼ばれた女は、涙を流していた。そして、すがるように二人の服を掴んだ。
「死なないで・・・・・」
彼女は無駄だとはわかっていても、そう言わずにいれなかった。




