前哨戦
「ウヴィーーーーー!」
「よっと」
――――バシッ!
「プギィィィィィ!」
フォートに向かって突進して来たイノシシは、矢が頭蓋骨を貫通して脳に突き刺さり、絶命した。フォートはイノシシが死んだことを確認すると、その側に寄っていった。
「これで3匹目か・・・・・確かにこれは多すぎるな」
そう言って、自分に近づいてくるイノシシがいない事を確認して、腰を下ろした。
「さて、あっちの方はもうどのくらい倒したのかな・・・・・っと」
フォートは数メートルほど離れた茂みが、ガサガサと揺れるのに気がついて、背中の矢筒に手を伸ばした。
「よお、そっちはどうだ?」
茂みから出てきたのはイノシシではなく、ケンだった。二人は今、手分けをしてイノシシ退治をしていた。
「何だケン君か。イノシシかと思って撃っちゃうところだったよ」
「気をつけてくれよ? それと、今はケンじゃくてソーマだ」
「ああ、そうだった。忘れてたよ」
「本当に頼むぞ・・・・」
ケンの本業はスパイである。そのため、役に応じてそれっぽい名前をつける。
理由はわからないが、彼にとってはソーマと言う名前は冒険者っぽい名前らしい。
「それで、お前は何匹仕留めた?」
「僕は3、君は?」
「6だな。まあ索敵なんかは俺の方が上だから当然だ」
「索敵って言ってもこの山、探すまでもなくイノシシだらけじゃん。こうしてる間にもほら」
フォートが指さした、ソーマのいる所から少し離れた茂みから、イノシシがいきなり飛び出してきた。イノシシはすぐに方向を転換して、ソーマの方に向かって行った。
――――ヒュッ
――――ボト
ソーマがいきなり消えたと思った瞬間、ソーマはイノシシの後ろに移動しており、そのすぐ後、断末魔さえ上げるいとま無く、イノシシの首が地面に落ちた。
「相変わらず速いなあ。時速何キロくらい出てんのそれ?」
フォートからの問いに、ソーマは刀についた血を振り払って「さあ」と答えた。
「しっかし、ほんとに休むヒマすらないな。ノルマは何匹だったっけ?」
「10だな」
「あ、じゃあこれで全部か。残業はしたくないし、仕留めた分だけもって村に戻ろう」
「そうしたいところだが、そうもいかないみたいだぞ」
辺りから“ガサガサ”と言う音がいくつも聞こえ、数頭のイノシシが飛び出してきた。
「ゲゲゲのゲ」
フォートはそんな悲鳴を上げると、背中に手を回した。
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「いやー、どうもありがとうございます。それもこんなにたくさん」
「いえいえ、仕事ですから」
フォートはそう言って、依頼主から依頼料を受け取った。
(今日狩ったイノシシの肉とか毛皮を売った方がもっと稼げそうだな)
フォートはそんなことを思ったが、口には出さなかった。それに、彼にはイノシシの毛皮を刈り取る技術は無いので、どちらにしろ無理な話だ。
ソーマなら出来そうだったが。
「いやー、本当に助かります。イノシシが多くて困ってましたから」
「それにしても本当に多いですよね。おかげで依頼より多く狩っちゃいましたし。何でこんなにいるんですか?」
「実は以前はイノシシの他にも狼がいたんですけどね、ほら危ないでしょう? だから毒入りの餌で駆除したんですよ。そうしたらご覧の有様で、天敵のいなくなったイノシシが増えてしまったんですよ。しまいには畑を食い散らかす有様で、おかげで危うく、今年は冬を越せなくなるところでしたよ。これじゃあまだ狼の方が良かった」
「ああ、なるほど・・・・・・」
まあ良くある話だ。よかれと思ってやったことが、むしろ状況を悪化させる。自然からの予期せぬ反撃。駆除の仕方は計画的に。
「しかし、これだけのイノシシ、毛皮や肉を売ればかなりの額になるんじゃないんですか? それならもう少し報酬をはずんでくれても・・・」
すかさず、金額交渉に入る。どうやら、商人の性が染みついてしまったようだ。
「残念ですが、私共もこれを売ってイノシシに食われてしまった分を取り戻さねばならないので・・・・」
依頼人にとても申し訳なさそうに謝られた。まあ、生活がかかってるんなら仕方ないな。たとえぼったくりみたいな依頼でも文句は言うまい。
それに、今年は蝗害のせいで食料品が高騰している。いくら金があっても足りないだろう。
「冗談ですよ。でも、せめてイノシシ鍋くらいはいただけるんですよね?」
「ええ! それはもちろん!」
――――カンカンカンカン!
突然に、物見やぐらの鐘が鳴り始めた。すぐに、『何事か?』とそこら中の家々から、村人達が顔を出す。
フォートもまた、何事かと依頼人に尋ねる。
「どうかしたんですか?」
「いえ・・・何かあったことは確かですが」
そりゃそうだ。でなければ、あんなにけたたましく、あの鐘を鳴らすわけがない。
「とりあえず、やぐらの方に行ってみましょう」
そう言って、二人は歩いて行った。




