類は友を呼ぶ
「誰に見られてもいいように、僕の故郷の言葉で書いてるんだ。少しも読めないだろ?」
自分が見たモノに驚いていたせいで、彼はフォートが戻ってくる足跡に気づくことが出来なかったのだ。彼は本を机の上に置いた。
「おっと、変なことはしないでくれよ? そうなると、僕も君を倒さなければならなくなる」
「倒す? 俺をお前がか?」
半ばあきれたように、侵入者は笑う。侵入者から言わせれば、実力差は目に見えていた。
「こう見えて、鍛えてるんだよ。レベルで言ったら、戦闘力10レベル分くらいね」
「・・・・・・嘘だな」
侵入者はすぐに見抜く。最近になって奴隷から解放された人間が、ここまで短期間で身体能力を10レベルも上げるなどと言うことは、よっぽどの才能があっても不可能だ。
そして、どこからどう見ても目の前のフォートは、そんな才能すら持ち合わせていない。
「体の芯がブレブレだ。そんな奴が、そんなレベルのわけがない」
「嘘じゃないさ。本当に戦闘能力は10レベル分以上ある。まあネタバレしちゃうと、射手としてのレベルが10なんだけどね」
「・・・・・なるほどな。それならあり得る。もちろん、お前にそれほどの才能があればだが」
身体能力と違い、武器を扱う能力ならば、筋力などとは違って能力向上の上限が存在しない。よっぽどの才能さえあれば、一日でレベルを一気に上げることだって可能だ。
何度も言うが、才能があればだが。
「そこはほら、才能が無くても努力次第でなんとでもなるよ」
努力を何よりも信頼するフォートは、なんの恥ずかしげもなくそう言い放った。しかし、侵入者から言わせればそんなことはどうでも良かった。
「ところで、そんなことを俺に言ってもいいのか? 弓を持ってない射手なんて、どんなにレベルが高かろうがそこらの雑魚以下だ。つまりお前は、自分が敵じゃないって事を俺に教えちまったんだぜ?」
「おっと、うっかりしてたよ。確かにその通り。あのままレベルが高いふりをしておくべきだったかな?」
「まあ、俺はレベル40だから、仮にお前の戦闘能力がレベル10相当だったとしても、何の問題も無く勝てたんだがな」
「あ、そうだったんだ。じゃあどっちでも良かったのか。うーん、しかしそうなると極めてまずいね」
フォートは悩ましげに頭を抱える。
「君の目的は僕の暗殺でしょ?」
「ああ。そのとおりだ」
侵入者からの答えに、フォートは「やれやれ」と身構える。
「はあ、どうやって逃げようかなあ」
もし今戦ったならば、フォートはなすすべもなく殺されてしまうだろう。そして、身体能力も明らかに侵入者の方が上である以上、仮に逃げたとしてもすぐに追いつかれて殺されてしまう。
そんな、死を覚悟しはじめたフォートとは対照的に、侵入者は一切身構えなかった。そして、微笑混じりに口を開く。
「だが、もうその必要はなくなった」
「・・・・・・ん?」
驚いて彼の方を見るフォートに、この世界のどこにも存在しない、しかし確かに存在するその言葉で、侵入者はこう言った。
「どうやら俺たちは、同じように異世界に飛ばされたお仲間のようだ」
その言葉は間違いなく、聞き慣れた日本語だった。




