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奴隷から始まる異世界マネーウォーズ   作者: 鷹司鷹我
蝗害編
18/110

最悪でそこそこマシな結末

~蝗害発生から一週間後~


「どうも、今回はよろしくお願いします」


「いえいえ、こちらこそ。早速ですが、取引を始めましょう」


ドラガは連れられるままに、カミュール商会の商会本部に入っていった。カミュール商会は、帝国の東側に位置する国、協商連合にある世界でも有数の商会である。


以前にあった大口の貿易から、ミカエル商会とカミュール商会の間にはコネクションが出来ていた。


「さてさて、この通りすでにグリッド鉱石は依頼された量準備できていますよ」


ドラガを倉庫に連れて行くと、カミュール商会の商人ランデムは、倉庫に積まれた大量の木箱を見せた。


「さすが、協商随一の商会ですね。こんな短期間で、この量を用意できるとは」


「資源の入手力が私たちの売りでしてね。さて、そちらの品物はどうですかな?」


「問題ないですよ。点火魔法用の魔法道具を必要分用意できています」


「エクセレンッ! それでは、交渉成立ですね!」


そう言って、二人は握手をした。




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「そうそう。そちらでも先日、大規模な蝗害が発生したとか」


近場の店で食事をしていたドラガとランデムだったが、酒がいくらか入った頃、ランデムはドラガにそうきりだした。


ドラガは食事の手を止める。


「ええ。私が商会を出た頃には、大体帝国の半分くらいは被害に遭ってましたね。多分今頃は、帝国中で草一本生えていないでしょう」


ドラガの答えを聞いて、ランデムは“なるほど、やっぱりか”と頷く。


「いやー、話を聞いてやっと、なんであなた方があれほどの小麦を買っていたのかわかりましたよ。でも何でわかったんですか?出来るなら、我々にも教えてほしいものですねえ」


「・・・・・・残念ですが、機密情報なので」


ドラガは申し訳なさそうに答える。しかしランデムは、それを特段責めることもせずに笑った。


「あっちゃー、まあそれはそうですよね。それさえわかっていれば、儲けたい放題ですからねえ。でも、売るときは気をつけた方がいいですよ?」


ドラガは、食事の手を再び止める。


「気をつけた方がいいとは?」


「ええ。実は最近になってようやく情報を得たんですけど、南の連合国でも蝗害が起きてたらしいんですよ」


「連合国で蝗害? 本当ですか?」


「多分、連合国は帝国よりも南側にあるから、あっちの方が早かったんでしょうね。まあそれで、お察しの通り商人による買い占め、売り渋りが発生したわけです」


「・・・・・でしょうね」


「といっても、あなた方と違って事前にそんなの予想していなかったもんだから、蓄えはとんでもなく少なかった。そこで、私たちカミュール商会はそこにつけ込んで、向こうの商会と小麦を高値で取引したんです」


「それは・・・・・・儲かったでしょうね」


「それはもう!・・・・・と、言いたい所なんですが、実はあんまり儲からなかったんですよ」


ランデムはそう言ってため息をついた。ドラガは首をかしげる。


「儲からなかった? そんなまさか・・・・」


「いや、最初の方は儲かったんですよ? なんせこっちは小麦を定価の2倍で向こうの商会に売り、向こうの商会は3倍でそれを売る。がっぽがっぽですよ。でも、それがまずかったんですね」


「・・・・・“襲われた”・・・ですか?」


ドラガからの言葉に、ランデムは驚いた。


「おや、知ってたんですか?」


「いえ・・・・そうかな、と」


ランデムは感心したそぶりを見せながら、話を続けた。


「実はその通りなんですよ。高く売りすぎたせいで、暴動が起こったんです。その暴動で、取引をしていた商会は潰れてしまい、結局は最初に稼いだ僅かな分しか儲からなかったんです。情報もなかな

か入ってこず、最近になってようやく、連合国の“有様”がわかりましたよ」


ランデムの“有様”と言う表現から、ドラガはたやすく連合国の現在の姿を想像することが出来た。


「だから、あなたの所でも気をつけた方がいいと忠告しようとしたんですが、どうやらいらぬ世話だったようだ」


そういうと、ランデムはドラガの空のコップに酒を注いだ。


「いやはや、ドラガさんはそんなにお若いのに、慧眼をお持ちのようだ。会長になる日も近いかもですね。そうなったら、ぜひウチの商会をごひいきに・・・」


ドラガはランデムに勧められるがまま、酒を飲み干した。




<<<<   >>>>


ドラガは暗くなった夜道を一人で、宿へと歩いていた。町の家々は、数えるほどしか明かりがついていない。


未だに電灯が発明されていないため、貴重品であるろうそくを使っている家は少ないのだ。裕福な家庭でのみ、使われているのが現状である。


そのため、夜道を照らすのは月明かりだけだ。


「食べ過ぎたな・・・・・」


ドラガは壁にもたれかかって、腹をさすった。あの後、ランデムに誘われるがままに、数件をはしごする羽目になってしまった。


「こういう誘いも断れるようにならないとだな・・・」


そう独り言を言うと、ドラガは遅い足取りで宿に向かった。しかし、彼の心はそれほど落ち込んではいなかった。


(商会のみんなに、いい土産話が出来たな・・・)


ランデムから聞いた連合での蝗害と、その結末。それはまさに、フォートの考えが正しかったことを示していた。


「・・・・どうやら彼は、嘘つきではないらしい」


ドラガはそう言って、満足そうに月明かりの下を歩いて行った。


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