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奴隷から始まる異世界マネーウォーズ   作者: 鷹司鷹我
蝗害編
14/110

予感

「ええ。それではよろしくお願いします」


フォートはそう言って、農夫の男にぺこりと頭を下げる。


「いやいや、頭を下げねえでくれ。礼を言いたいのはこっちだよ。最近は小麦の値が落ちてたから、あんたのとこに定価で買ってもらえるのは願ってもない話だ。しかし、なしてこんなことをしてんだ?」


「実は最近、大口の取引がありまして。小麦が大量に“いりよう”なんです」


もちろん、この理由は建前だ。“来年に蝗害が起きて小麦が高騰するから”なんてことを正直に言えば、まず間違いなく売り渋られるだろう。


(それに、ここまでして情報統制してるのに、こんなところでうっかり話して全部水の泡なんてのだけは避けたいし)


フォートは心の中でそう思った。



(しっかし、金のために悪いことしてるなあ僕)


蝗害が起こると言うことがわかった以上、もし本当に人々のためを思うなら、それを公表すべきだ。

そうすれば、少なからずパニックは起こるだろうが、それと同時に対策をとることだって可能なはずだろうから。


対策さえきちんと出来ていれば、被害を最小限に抑え、餓死者を減らすことが出来る。しかしそれはフォート達、商人にとってはもうけを減らしてしまうことにつながる。


彼らにとって最もありがたい状況、それは“餓死者がいくらか出るくらいの食糧難”なのだ。


餓死者が全く出ないレベルの食糧難では、高値で小麦を売っても売れないし、逆に大量の餓死者が出るような食糧難になれば、それはそれで違った問題が発生する。


(まあ、そこそこの食糧難になることを願うしかないな。こればっかりは)


フォートは馬車に乗り込みながらそんなことを考えた。彼が合図をすると、馬車が動き出した。


(でも、やっぱ気分は良くないな。まあ、他人の命で金儲けしようとしてるんだから当然か)


そう、先ほども言ったが、本来“人として”とるべきなのは“蝗害が起きることを教える”と言うことなのだ。


それを伝えず、被害が拡大したとしたら、それは間違いなく自分たちのせいだ。増えた餓死者の命を奪ったのは、間違いなく自分たちなのだ。


(・・・・・いや、気をしっかり持て。今の僕は“人”である前に“商人”なんだ。お金を手に入れることが、何より優先すべき事のはずだろ)


フォートが『商”人”って言うくらいだから、一応は人なのか』と思いなおしたとき、馬車が急に止まった。


そして馬が“バヒヒヒヒーン!”と、前足を大きく振り上げたことに気がついた


「おい!急に飛び出してくんじゃねえ!死にてえのか!?」


運転手が怒号を飛ばした。どうやら、何者かが馬車の前に飛び出て馬車を無理矢理止めたようだ。


(町からは少し距離があるな。まさか・・・・・)


フォートは額に冷や汗をにじませた。そっと、懐に隠した短剣に手を伸ばす。

「す、すみません! でも、この馬車はミカエル商会のものと存じます! 乗っているのはグラシェ・フォート様ではありませんか?」


「・・・・そうですけど」


肯定しつつ、フォートは恐る恐る馬車の窓から顔を出した。


「ああ! やっぱりフォート様! 良かったー!」


「・・・・・・ああ」


フォートはすぐに、自分を見つけて喜ぶ少女が誰なのかがわかった。彼女はタライア・シェアハート、元奴隷で今はフォートの秘書をやっている。


フォートが奴隷だった頃に一緒の檻に入れられていたことがあり、そのときに見せた齢10歳とは思えない程の身体能力と知能から、フォートが魔法部門の責任者になった時に会長に“おねだり”して、自分の専属秘書として雇ったのだ。


しかし彼女は今、出かけているフォートの代わりとして魔法道具部門の仕事を肩代わりしている会長のサポートをしていたはずだ。


「なんでターラちゃんがここに?」


フォートはタライアのことをターラと呼んでいる。


「はい!ナーベ様がフォート様に言づてを伝える人を探していたので、私が来ちゃいました!」


「来ちゃいましたって・・・・」


(何のために君を残したと思ってるんだ・・・・)


フォートがいない穴を埋めるための人間が、フォートに言づてを伝えに来るなんて事があって良いわけがない。


「フォート様に会いたくてきちゃいました!」


「・・・・・・」


ターラは、自分を奴隷から解放してくれたフォートにとてつもなく恩義を感じているらしく、フォートにこれでもかと言うほどになついている。


(能力は高いんだけど、こういう所がなあ・・・・・)


ターラはこれまでにも度々、フォートが好きすぎるあまりに問題を起こしていた。フォートのことになると、ターラには他のものは全て目に映らなくなってしまうらしい。


しかし、そんなことばっかりも言っていられない。フォートは馬車の中にターラを入れると、運転手に再び馬車を動かすように頼んだ。


馬車に乗ったターラは“ちょこん”と席に座っていた。


彼女の見た目は年相応で、何も知らない人が見れば、二人は部下と上司ではなく、兄妹に見えてしまうだろう。


フォートはターラの向かい側に座った。ターラは不満そうにほっぺたを膨らませた。


「で? 何を伝えに来たわけ?」


「はい。でも、ちょっと待ってください」


ターラはそう言って、ガタガタ揺れる馬車の中で立ち上がり、フォートの隣に座った。ニコニコと満足そうにするターラを見て、フォートはあえて何も言わなかった。


「それで伝言というのがですね、なんでもカルテルというものを形成することになって、明日会議があるそうです。そこで私たちは小麦の販売価格を決めることになります」


「ふーん、予想より動きが速いな」


(ダリア商会は多分、こっちの動きを予想していたな。蝗害の情報入手といい、侮れないぞ)


「それで、私たちはそこで定価の2~3倍を提案します」


「・・・・・・2~3倍?」


それまで話を聞いていたフォートの顔が曇った。


「それは確かなのか?」


「ええ。ミカエル商会として提案するだけなので、もしダリア商会がこれより高い値段を提示したり、逆に低い値段を提案したならば、それに対応して値段を調整することになります。でもナーベ様は『おそらくダリア商会もこれくらいの値段を提示してくるだろう』と言っていたので、多分このくらいで打ち止めになるはずです」


「・・・まずいな」


突然に顔を曇らせたフォートを見て、ターラは困惑した。


「何か問題でも?」


「ああ。非常に問題だ。今すぐにでも商会に戻るぞ」


フォートはそう言うと、運転手に目的地を商会本部に変えることを伝えた。そして、できるだけ早く行くように頼んだ。馬車は向きを変えて、粗い道を爆走し始める。


スピードを上げて揺れが激しくなった馬車の中で、ターラはフォートに疑問をぶつけた。


「あの、何が問題なんですか?もしかして安すぎるとかですか?それなら、売り始めてから様子を見て、値段を少しずつ上げていけばいいと思うのですが・・・・・」


しかし、そんなターラの疑問にフォートは苦笑いをして答えた。


「安すぎる? 冗談じゃない。高すぎるんだよ。このままじゃ・・・・」


フォートは揺れが激しくなり、座席から転げ落ちそうになったターラを支えながら答えた。


「僕たちの中から死人が出るぞ」


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