後日談
~後日談~
僕たちが黒幕を倒し、合衆国から悪の手を排除したことで、帝国と合衆国との間での戦争はひとまず避けられた。
僕たちが“彼”(名前が最後までわからなかったのでこう呼ぶことにする)の暗殺に成功したと同時に、それまで“彼”に洗脳されていた合衆国の兵士や、そして大統領を含んだ合衆国首脳部の面々は全員、その洗脳から解放された。
洗脳が解けた彼らに話を聞いたところ、どうやら数年前に突然、官邸に“彼”とウェルゴーナスが攻め込んできて『逆らったらこの場所ごと爆破する』と爆弾片手に脅してきたらしい。
彼ら“洗脳された者達”の脅されてからの記憶はあいまいで、そこから推測するに、おそらく爆弾によって脅され、それによって生じた“精神的不安”につけ込まれて洗脳されたのだろう。
しかし洗脳され記憶が曖昧だったとは言っても『自分たちが操られ、合衆国と帝国間で戦争を起こすために利用されていた』ことは覚えていたらしい。
だからその戦争を止めるために『合衆国大統領府に暗殺のために潜入する』という大事件を起こした僕たちには何のお咎めも無く、むしろ感謝すらされた。(『英雄として君たちのことを公表させて欲しい』と言われたけど、丁重にお断りした。面倒くさそうだったから)
こうして僕たちは作戦に成功し、そして事後処理も無事に済ませ、ついに念願の帝国に帰還することが出来た。
でも無事に帰還できたと言っても、まだ全てが終わったわけじゃ無い。
確かに僕たちは“今回の”戦争勃発の危機を回避することが出来た。でも、だからといって安心できるわけじゃ無かったのだ。僕らはまだ、関門の一つを超えただけに過ぎないのだから。
もしミカエル商会が実行する“合衆国再建計画”が頓挫し、合衆国に再び戦争の意思が生まれれば、その時ばかりはさすがに、僕なんかには止められない。言い換えれば、もし失敗してしまえば僕らの今回の努力は全部無駄になってしまう。
だからそうならないためにも僕は……いや、僕たちは努力し続けなければならない。
何としてでも合衆国の再建を成功させ、そして誰も“戦争をしたい”と思わないように世界を再構築する必要がある。
『世界を再構築するなんてそんな大げさな』と思うかも知れない。でも残念なことに、これは誇張でも何でも無いのだ。
と言うのも実は最近、帝国の首脳部…とくに王族出身者が“合衆国に戦争を仕掛けよう”と画策していると言う情報があるのだ。彼らは『合衆国が弱っている今ならたやすく征服できる』と考えているらしい。
せっかく命がけで戦争を回避したのに、今度は王族か……ほとほと嫌になる。
でも、いくら嫌になるからといって、彼らのそんな企みを放置するわけにはいかない。僕を生かしてくれた会長のためにも、絶対に戦争を起こさせるつもりは無い。
だから僕は決めた。戦争無き世界を実現するために、今度は世界を書き換えてやることを。
世界地図から、国一つを消すことを……
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「……と以上のように、合衆国の経済再建は概ね上手くいっています。貸し付けの不履行も殆どありませんし、農地整理による効果もかなり出ています。ただ昨年の不作の反動か、今年の収穫量は去年と逆にかなり多く、このままでは農作物の値段が急落する可能性があります」
ナーベはミカエル商会会長であるドラガに、そう報告した。それを聞き、ドラガは頭を悩ませる。
「不作に悩んだ次は、豊作に悩むことになるのか……まあ足りないよりはマシだが」
「ですね。暴動も起きませんし」
ナーベは「ふふふ」と笑いながら答えた。
ドラガも僅かに笑っていたが、しかしすぐに真面目な顔つきに戻った。
「確かにマシではあるが、しかし商品の価値が落ちるのは、俺達商人にとっては無視できないことだ。食料部門に、今年の出荷量を調整するように言ってくれ。保存がきくものはできるだけ備蓄だ」
「わかりました。伝えておきます」
「さて、この詳細は次回の定例会議で話し合うとして……他に何かあるか?」
ドラガに尋ねられ、ナーベは“ペラペラ”と書類をめくった。
「……あ、一つあります。協商から“銃火器”の追加発注の申し出がありました」
ナーベの報告を聞き、ドラガは怪訝な表情を浮かべる。
「追加発注? おいおい、確か先月の条約で各国の保有量に制限がかけられたばかりだろう?」
「それが……どうやら条約の“穴”を付いているようで……」
「……? どういうことだ?」
「今回依頼があったのは、個人に向けて販売するための銃火器……つまり“国としての保有”では無く、“個人所持”のための銃火器を要求しています」
ナーベの言葉を聞いて、ドラガは納得して頷いた。
「……なるほどな。それなら条約上、問題なしか。まあ考えるまでも無く、戦時には個人が所持する銃を“国のために供出”することになるだろうな」
「どうしますか? 条約上は問題ありませんが……」
ナーベの問いに、しかしドラガは一瞬も悩むこと無く答えた。
「論外だ。『戦争反対を標榜するミカエル商会がそんなことを許すとでも?』と返してやれ」
ドラガの答えに、ナーベは僅かに笑って「了解です。一言一句漏らさず伝えます」と言った。
――――ダダダダダダダダダダダダダ……バンッ!
一通りの報告を終えた頃、そんな“やかましい足音”と共に、会長室の扉が開け放たれた。
「フォート様がいません!」
飛び込んでくるなり、部屋にいた二人にターラはそう叫んだ。
「あら、ターラちゃん。そんなに慌てて……」
「慌てるのも当然です! 今日の朝、フォート様を起こすために部屋に忍び込んだら、ベットがもぬけの殻でした!」
「……忍び込んだ?」
ターラの発言に紛れ込む気になるワードに、ドラガ首をかしげる。しかしそんなこともお構いなしに、ターラは続けた。
「これは大事件ですよ! この商会の要であるフォート様が消えたんですから! もしかしたら誰かに連れ去られたのかも知れません! いや、ひょっとしたらもう殺されてるかも……!」
泣き出しそうにそう言ったターラを見て、思わずドラガは笑みをこぼした。しかし、それがターラを怒らせた。
「何を笑ってるんですか!? 消えたんですよフォート様が! 会長のくせに、身内の危機を笑うんですか!? 笑う暇があったらさっさと捜索の準備してください!」
「ごめんごめん……いや、別に心配じゃないから笑ったわけじゃ無いんだ。ただ君の……そんな心配の仕方がちょっと可愛くて……」
ドラガは少し笑うと「いや、笑って悪かったね」と謝った。そして、真面目な顔つきに戻った。
「……でもそうか、君がそんなに慌てていると言うことは……どうやらフォート君は、君には秘密にしていたようだね。今日のことは」
「……今日のこと?」
ターラは首をかしげる。
「当然ですよ会長。だって考えてもみてくださいよ。もし教えていたらターラちゃん……きっと意地でも付いていきましたよ」
ナーベの指摘に、ドラガもまた「確かにそうだな」と笑った。
「ちょっと! 二人で何を笑っているんですか!? ターラにも教えてください!」
「うーん……どうしようかなあ……教えたら君、行きそうだしなあ……」
「行く!? 行くってどこに!?」
「どうしましょうかね?」
「どうしようか?」
意地悪くそんなことを言う二人を前に、ターラは「二人とも意地悪しないでください!」と半分泣きそうな顔でお願いした。
それを見て、二人はついに「少しだけなら良いか」と顔を合わせた。
「……実はね、フォート君は今帝都にいるんだよ」
「帝都に……? なんでそんな……」
「まあ要点だけ言うと、彼は今クーデターを起こそうとしている」
「ク…クーデター!?」
「そうだよ。情報漏洩を避けるために、このことは俺達を含めたごく少数しか知らない。と言うかさっきまでは、ミカエル商会で知っていたのは俺とナーベだけだった」
ドラガはターラにそう言ったが、しかしターラはすでに話を聞いていなかった。
そして、
「……今から休暇をもらいます!」
とだけ言い残し、颯爽と会長室を飛び出していった。それを見送った二人は『やっぱりな……』と顔を見合わせる。
「……まあ大丈夫でしょう。今から馬車で行っても、その頃にはもう全部終わっているでしょうし」
「そうだな。さて、それじゃあ俺達はフォート君達を信じて、いつも通り過ごすとしよう」
「あれ、ターラちゃん……どこ行くの?」
慌てた様子で宿舎に戻ってきて、そしてすぐにまた出て行こうとするターラの姿を見ると、リンナは思わずそう尋ねた。
「あなたですか! すいませんが話ならまた今度にしてください! 急いでいるので!」
「ちょ、ちょっと待ってよ! いったん落ち着きなよ!」
「落ち着いている暇はありません! 急がないとフォート様が……!」
“フォート”という言葉を聞き、リンナの表情が変わった。
「フォートさんがどうかしたの!?」
「あなたには関係ないことです!」
「関係なく無いよ! なに!? フォートさんがどうしたの!?」
「ああ、もう! そんな説明なんてしてる場合じゃ無いんです! 馬車も待たせてるのに……!」
「ちょ……行かせないよ!」
無理矢理に行こうとするターラの袖を、リンナは間一髪のところで掴んだ。
「さあ捕まえた! 説明してくれるまで放さな……うわわわわわわ!」
リンナは確かに手を放さなかった。しかしその代わりに、とてつもない力で前進するターラに引っ張られ、ズルズルと引きずられていった。
しかしある程度進むとさすがに疲れたのか、ターラは「ああもう!」と立ち止まった。
「邪魔なんですよ! 言っているでしょう!? 急いでるんです!」
「そ、そんなの関係ないよ! 私だってフォートさんのことが心配なんだもん!」
言っても聞かなそうなリンナの表情を見て、ターラはあからさまに苛立つ。そして投げやりに言った。
「わかりましたよ! そんなに聞きたいなら馬車の中で教えてあげますよ! だから放してください!」
「え……ほ、ほんと?」
「マジモンのマジですよ! だからさっさと放して!」
「言ったね!? 嘘つかないでよ!?」
リンナはそう言うと、ようやく手を放した。しかし今度は、ターラがリンナの腕を掴んだ。
そして、リンナを引っ張って走り出した。
「急いでください! 一分一秒も無駄に出来ません!」
「う、うん!」
リンナは『手を放してくれた方が速く走れるんだけどなあ……』と思いつつも、しかし少し楽しそうに馬車に向かって走っていった。
次が最終話となります。最終話は、今日中にUPします。最後までお付き合い頂けたら幸いです。




