平和的議論
「動かないでくれるかな? 抵抗しなければ、最悪殺さずにすむ」
フォートは“ガチャリ”と銃口を向け、男にそう告げた。
しかし男は『ヤレヤレ』と言わんばかりに顔を振った。
「……嘘つくなよ。どうせ殺すつもりだろ? 殺さないと、俺は止められないからな」
「……」
フォートは答えなかった。それは暗に、男の言葉を肯定していた。
男は、フォートの両手に握られた”銃”を見る。
「さっきの狙撃……俺を殺すつもりだったろ? まあどうやら、その精度の悪い銃じゃ当てれなかったみたいだけどな」
「……その通りだよ。悪いけど君を生かしておくことは出来ない。動くなって言うのも、せめて立ち止まってくれれば、苦しまずに一撃で死ねるってだけの話だ」
フォートの答えに、男は『ははっ、正直者だねえ』と笑った。
そんな男に、フォートは険しい表情のまま尋ねる。
「……君はなんでこんな事をしようとしているんだい? なんで帝国と合衆国で戦争なんか……」
「答える義務、俺にあるか?」
「……無いね。ただ僕が気になっただけ」
フォートの答えに男はやはり「はは、本当に正直者だねえ君は」と笑っていた。
そんな二人のやりとりを、厳戒態勢の中で見守っていたレイは、いよいよ耐えきれなくなった。
「おいフォート。無駄話なんてしてたら……」
「……わかってるよレイ。でも僕は……知りたいんだ。彼がなぜ、こんな事をしたのか。なんで会長は……死ななければならなかったのかを」
フォートの言葉に、男は反応した。
「死んだ? まさかゲイナス君が投げたナイフが刺さったヤツか?」
「……そうだよ。会長は……死んだよ」
「……」
男は一瞬、にやりと笑った。しかしフォート達がそれに気がつくよりも早く、男はその笑みを隠した。
「……OK。教えてやるよ。なぜ俺がこんな事をしているのか」
「……」
男の手のひら返しとも言える態度に、フォートは警戒を強める。しかし願ってもない申し出に、男の行動を妨げようとはしなかった。
男はニコニコと楽しそうに話し始めた。
「俺は前世で、活動家をやっていた。簡単に言えば、世界から戦争を無くそうって運動をする活動家だ」
男の言葉に、フォートとレイの二人は驚きを見せる。
「……世界から……戦争を?」
「おかしいと思ってるんだろ? なんでそんな平和主義者が、こっちでは真逆のことをしてんのかって。でも、別に不思議なことは無い。俺は失望したのさ。戦争が無くなった世界を生きる人類に」
「……」
「差別や格差、テロに紛争……戦争が無くなったところで、世界の闇は消えなかった。むしろ戦争という巨悪が無くなったことで、いままで日の目を見なかった”人類の悪行”が白日の下にさらされるようになった」
男は情けなさそうに自嘲する。そして「あの時まで、俺は大事なことも見えてなかったのさ」と自分を嘲った。
「……平和になって、人類の醜悪さをこの目で見て……ようやく気がついたよ。『ああ、人類自身が変わらない限り、世界を変えても意味が無い』ってな」
「……だから戦争を?」
「そうさ。俺は“精神的に弱っている人間を洗脳できる”能力をもらった。……いや、奪った。だからもし、世界中の全人類を絶望させることが出来れば、世界中の人間を洗脳し、操ることが出来る。真の平和を作ることが出来るんだ。そのための手段として、俺は戦争を選んだ」
「……戦争による……絶望」
「その通りだ。お前らも転生者……あのクソ以下の歴史を見てきたなら知っていると思うが、戦争が終わったあとに残るのは、破壊と悲しみだけだ。そしてそのどちらも、人間を絶望させるには十分すぎる力を持っている」
男は「昔、その絶望を無くそうとしていた俺が言うんだから間違いない」と自嘲ぎみに笑った。
しかしフォートは、クスリともしなかった。
「……世界を平和にするために君は、一度人類を滅ぼすつもりなのか?」
フォートの問いに、男は静かに頷く。
「まあな、そういうことだ。でも、それって安い犠牲だと思わないか? 今を生きる、ほんの少しの命を犠牲にするだけで、これから生まれてくる無限の命を幸福に導くことが出来るんだぜ?」
「……」
「君もそう思うだろフォート君?」
「……悪いけど、僕はそう思わないよ」
「……なに?」
フォートの答えに、男は顔をしかめる。
「なんでお前はそう思うんだ? 俺が納得する答えを聞かせてくれよ」
男の問いに、フォートは意地悪く笑った。
「簡単だよ。僕にとっては、これから生まれてくる命なんてのは、心底どうでも良いからだ。見ず知らずの命なんかよりも、僕はいま側にある見知った命の方がずっと大事だ」
「……」
「君の意見はたいそうご立派だよ。客観的に見れば、君の方が正しくて、僕の考えの方がむしろ、自己中心的で身勝手な考えなんだと思う。でも僕は……例え、これから生まれてくるたくさんの命達に後ろ指をさされることになったとしても、それでも今が大事だ」
「……」
男はフォートの答えを聞き、諦めたようにため息をついた。
「……なるほどな。どうやら俺達は、根本から考え方が違うようだ」
「そうみたいだね」
「……話を変えて悪いが、一つ聞きたい。お前今、何を感じている?」
「……?」
「自分の所為で“会長”を死なせて、悲しいか?」
「……そりゃあ…ね」
「……そうだろうな。悲しくて、悲しくて、仕方ないだろうな。なんたって、自分をかばったせいで人が死んだんだからな。それも”見ず知らずの命”じゃなくて、”よく見知った命”がだ。お前は当然、悲しくてしょうが無いはずだ」
男はそう言うと、にやりと笑った。
「そんな悲しみこそが、俺の求めているものだよフォート君。それこそが、俺の能力発動に不可欠な”絶望”だ。」
男は、フォートの隣に立っていたレイを指さした。そして、叫んだ。
「さあ、君の隣にいる彼女をその豆鉄砲で撃ち殺すんだ!」
――――バンッ!




