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奴隷から始まる異世界マネーウォーズ   作者: 鷹司鷹我
プロローグ
1/110

原因と結果

ある疑問をずっと抱いていた。

僕という人間は果たして、今の自分の地位にふさわしい人間なのかと。

誰に対しても、胸を張れるような人間なのかと。


もしかしたら、僕はただ単に“運が良かった”だけで、実際は地位にふさわしい努力などしてこなかったのではないか?


親の経済力、愛情、それ以外にもいろんな幸運に恵まれて、僕は自分の努力に見合わないポジションにいるのではないだろうか。



そんなことばかりをずっと考えていた。


しかし考えてはみても、結局はどうしようもない。僕はただひたすらに、少なくとも自分の今いる地位に“もしかしたら”見合うかも知れないだけの努力をし続けるしかなかったのだ。


少なくとも、あのときまでは。



<<<<   >>>>


「坊ちゃん、会食お疲れ様でした」


「うん。待たせたね爺。」



僕は会食場の入り口で僕を待つ爺にそう言った。爺は黒塗り外車のドアを開ける。


入り口の近くで“カシャカシャ”とカメラのシャッターが切られているが、そんなのは無視して、僕はすぐに車に乗り込んだ。



僕を待っていた車は確か、ナントカという世界有数の車会社の、その中でも特に値段の高い黒塗りの高級車だ。


いつも『高級車なんて燃費が悪くてお金の無駄だから、実用性が高い軽自動車でいい』と言っているのに、爺は一向に僕のそんな意思をくんでくれる様子はない。



「ねえ爺、いつになったらもっと地球と財布に優しい車に変えてくれるのかな?」


「坊ちゃま、大切なのは何も実用性だけではございません。将来、光谷グループを統べる人物として、それ相応のメンツという物を持たねばならないのですよ」


「そうは言うけどねえ、なにも小学校の送迎に黒塗りの高級車で来ることはなかっただろ? あのときは学校でメチャクチャに浮いちゃったんだからな。そもそも、普通の小学生は車での送迎自体ないわけだからね。あのときのことは今でも恨んでるぞ」



しばらくの間、僕のあだ名が”坊ちゃん”になったのは、どう考えてもその所為だ。

ていうか、他に理由がないし。



「しかし、坊ちゃんは光谷グループ総帥のご子息であらせられます。誘拐や、光谷グループを妬む人間から襲われるなど、心配はつきませんよ」


「なら、なおさらあんな目立つ車で来ちゃ駄目だろ!? ・・・まあいいや。この話は後でしよう」



僕は“フー”とため息をついた。

このため息は“疲れた”と言うよりもむしろ、周りの人間達から次々に勧められた食事のせいだ。



「お疲れのようですね。どうぞゆっくりとお休みになられてください。できるだけ揺れない道を選びますゆえ・・・」


「いや、普通でいいよ。いつも通りの道で。早く帰って、横になりたい」


「かしこまりました。家でぐっすりと疲れを癒やしたいというわけですね」



疲れを癒やしたいんじゃなくて、単にいち早く横にならないと食べたものを全部吐き出しそうなだけなんだけど。まあいいか。

そもそも、あんな“ただの食事会”のどこに疲れる要素があるんだって話だ。



今日の会食は、来年大学を卒業して、親のコネで光谷グループの傘下の会社の一つで重役として経験を積むことになる僕の、いわば顔見せだ。


おそらく僕はこれから、重役としてある程度の経験を積んだ後、どこかの会社の社長となり、最終的には光谷グループの総帥となるだろう。


だから今日の会食で会った人たちはみんな、僕にまるで『顔を覚えてもらおう』と言わんばかりに続々と近づいてきた。


そして、まるで僕に恩でも売るかのように食事やら飲み物やらを勧めてきた。

でも、本当に僕のことを考えてくれるなら、あんなに一杯食べさせないで欲しい。


途中で『もしかしてみんな、僕を生活習慣病にして早死にさせようとしているのではないか?』という“暗殺疑惑”を抱いたぐらいだ。



「・・・ねえ爺、一つ聞いてもいい?」



僕は運転をする爺に、注意をそらしたら悪いとは思いながらも、そう尋ねた。



「はい、なんでしょうか?」


「爺はさ、今の自分の境遇と自分のしてきた努力が見合っていると思う?」


「境遇・・・でございますか。どうでしょうか・・・少なくとも私は、坊ちゃんの成長を近くで見守ってこられたことをうれしく思ってはおりますが、それが自分のしてきた努力と釣り合っているかと言われれば、正直それは釣り合っていないでしょうな」


「それは、どっちの“釣り合っていない”なわけ?努力が足りてないって事?それとも今の地位が足りてないって事?」


「“努力が”ですな。お恥ずかしい話、私は旦那様に出会う前、お世辞にも真面目とは言いがたい人間でございました。にもかかわらず、旦那様にお助けいただき、こうして坊ちゃんの側で坊ちゃんを見守り続けるという、なんともありがたい仕事を与えられております。まことに私は幸せ者です」


「ふーん、じゃあ爺は僕と同じだ」


「同じとは?」


「『自分が努力に見合わない地位にある』と感じていることがだよ。・・・いや、同じじゃないか、爺よりも僕の方がよっぽど釣り合いがとれていないからね。それこそ、同じなんて失礼なほどに」


「坊ちゃま、失礼を承知で申し上げますが、それは大変な勘違いという物でございます。私が知る限り、坊ちゃまほどに努力をしてきた人物を私は知りません」


「そうかねえ・・・」



確かにじいやの言うとおり、僕も自分が努力をしてこなかったかと言われれば、そうは思わない。

少なくとも、人並み以上に努力をしてきたという自覚はある。


と言うよりも、()()()をここまで恵まれて()()()()のだから、努力しないのはむしろ犯罪みたいなもんだ。



それでも、思ってしまうのだ。

自分の努力は足りていないのではないのかと。



今日の会食だってそうだ。

今日、僕に媚びを売りに来た人たちは何も、“僕がしてきた努力”に対して媚びを売っているのではなく、僕が将来、光谷グループの総帥になるという“生まれ”にたいして媚びを売りに・・・いや“なすりつけに”来たのだ。


そういう現実を突きつけられるたびに、僕の努力は未だに、少なくとも自分の生まれに釣り合ってはいないのだと言うことを痛感させられる。



「しかし私から言わせると、坊ちゃまはむしろ誰よりも、努力に対してご自身の境遇が恵まれていないのだと思いますがねえ」


「・・・・? そんなわけ無いだろ」


「そうでございましょうか? それならばいつ、旦那様と奥様に坊ちゃまのご友人、ないしは恋人を会わせることが出来るのでしょうか?」


「・・・・・っ、爺!」


「お二人とも、大変ご心配されております。ご友人ならまだしも、恋人となると、光谷グループの今後に関わりますゆえ。・・・いや、旦那様はむしろご友人の方を心配しておられましたね。光谷グループの総帥となられるお方に、コネクションの一つも無いというのはいささか、問題ですので」


「恋人はともかく、友達は誰の所為で出来なかったと思ってんだ!」



親父と爺が空気も読まずに、僕を学校で浮かせまくったせいだからな!?

授業参観にSP付きで来たときのこともまだ恨んでるぞ!

あのときから、クラスメイトが親父のことを”大統領”って呼ぶようになったんだからな!?


ていうか、そこまでするなら、もう来るなよ!

襲われたら襲われたで、他の参観客に迷惑だしな!



「それも、旦那様の坊ちゃんに対する愛ゆえです。どうかそこはご理解ください」


「はあ・・・わかってるよ。わかってるからもうこの話はやめだ。なんだかこっちで話している方が会食よりも疲れるよ」



僕は狭い車内で伸びをした。

車の中でずっと座っていると肩がこるな。



「どうぞゆっくりとお休みください。これから高速に入りますので、目も覚まさずにいられるでしょう」


「ん・・・そうだな、少し休んでおくよ。確か明日は・・・用事があった・・・から・・・」


「ええ。ご自宅に着きましたら起こしますので、ごゆっくりとお休みください」



爺がそういったときには、僕はもう目を閉じて、眠りに落ちていた。









それから数時間がたって、二人の乗った黒い高級車はようやく目的地に着いた。


車の運転席にいた爺は気がつかなかったが、家の前の大きな石門の影に、暗闇に溶け込むように黒づくめの男が潜んでいた。


もちろん、その男がキラリと光る何かを持っていることにも、爺は気づいてはいなかった。




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