08(進路指導)
俺は家に帰り、買ったばっかりのゲーム機を箱から取り出して、ネットに繋ぎ、ログインする。親に見付からなくて良かった。
対戦待ちのユーザーがたくさん居る。まずは数回戦ってみる。全勝だ。
おっ! 世界ランク100位のユーザーが対戦待ちだ。倒してやる。向こうは飛び道具メインか。俺はスピードと攻撃力を重視してキャラを選ぶ。対戦が始まると同時にまたアドレナリンがドバドバ出てるのが分かる。
結果は引き分けタイムアウト。3対3形式の格闘ゲームでは珍しい事だ。
チャットが来て一言、『強いですね』
――次の日、学校に行くと、上級生が待ち構えていた。
「お前が龍熊? 随分とゲームが強いらしいじゃん」
「周りが雑魚過ぎるだけですよ、先輩」
「お前なあ! お前がゲーセンで32連勝した時の相手だよ! 忘れたのか!? 先週の話だぞ」
「ああ、その日は50連勝しましたよ。対戦相手なんていちいち覚えてませんから」
「そうかい、覚えてとけよ!?」捨て台詞を吐いて逃げて行った。
俺は教室に着くと、クラスメートから「龍熊君! すげえよ、ゲーセンで50連勝したんだって?」
「まあね。昨日はネット対戦で世界ランク100位の人と引き分けたよ」
俺は素直に喜べなかった。田辺達に惨敗したのが脳裏から離れない。
――高校生活は順風満帆だ。サッカー部と対戦格闘ゲームの両立をしている。すぐにキレる父と霊感商法にとり憑かれた母を他所目に。
クラスメート達と家で対戦型ゲームをするが、負ける事もあった。クラスメート達は自分が負けると皆、物に当たったり、周りのせいにする。結論は1つ、弱いから負ける。負けたきゃなければ強くなればいい。俺はずっとそう考えてきた。
――そして俺は3年生になり、担任の沖田聖子先生から進路指導が入る。
「龍熊君、教室に残って。進路について話そう」
「ついに来たか〜」
聖子先生と2人で話し合う。
「龍熊君、将来どうするの?」
「ニートです」
「はぁ!? 薄々感付いてたけど、働く気ないの? 働かなきゃ生活出来ないよ?」
「父が働いてますし、祖父母4人も年金を貰って生きてますし」
「健在な内はそれでもいいけど、親やお祖父さんお祖母さんはいつまでも援助出来ないよ」
「そしたら、生活保護で」
「はあ〜、私の指導法が悪かったのかしら」
「保育園から中学生まで対価のない労働をしていましたから」
「それって、柔道の事?」
「幼少期から苦痛でしたから。三つ子の魂百まで……遣い方合ってる?」
「はあ〜、全く……」