04(労働からの解放)
親は弱い者いじめは止せと言うが、なら強い者なら良いのか。下校中に高校生と思われる男とすれ違った時に、「バーカ」と言われたので、顔面を4〜5発殴って転ばせて、右手を十字固めで脱臼させる。痛みで気絶したか、雑魚が! アハハ。
こういうヘタレオタが犯罪を犯すんだ。外れた右肩をグリグリして神経を傷付ける。
土曜日、地獄の柔道タイム。やりたくない、つまらない、帰りたい。
「明日はいよいよ昇段試験だぞ。中学2年生で1級の者は松山、龍熊の2人だけだな?」
「うあ〜、日曜日も潰れるのかよ」
「やる気がないなら帰れー!」
「分かった、帰りま〜す」
俺は更衣室に行こうとすると、「待て待て待て」と、先生が止めに入る。
「帰れって言ったじゃん」
「そういう事じゃなくて」
「意味不明」
「明日の9時に公民館で集合だ。初段を取ったら柔道を卒業していいよ」
「念書を書いて。大人は信用出来ないから」
先生は道場の事務室から紙とボールペンを持ってきて、“龍熊二谷が初段を取ったらクラブを辞めてもらう”と書いてくれた。
「これで良いかい?」
「俺の親にも話を通しといてね」
――昇段試験の日の朝、俺は自転車で公民館へ行く。
「松山、おはよう。早いな」
「おはよう。龍熊だって早いじゃん。まだ8時半だよ?」
「労働が終わると思うと何かワクワクしちゃって」
「お前な〜、柔道をバカにするなよ? 昇段試験を軽く見てない?」
「楽勝だよ、アハハ」
「俺は自衛隊に入る為に真剣にやってるんだ」
「俺は労働の終わりと新作の格闘ゲームで頭がいっぱいだよ」
このチビ、身長155センチメートルなのに本気で自衛隊に入るつもりか、アハハ。
他の学校の生徒達が集まってきた。
――昇段試験が始まった。公民館の柔道場に20人くらいが集まる。礼で始まり礼で終わるとかどうでもいい。
俺の相手は妙に撫で肩でヒョロヒョロしてる。
「よろしくね」
「こっちこそ、よろしくね」
試験官が技名を言う。それに合わせて技を掛ける。支釣込足、体落、払い腰など。
次は乱取りだ。俺は一瞬の隙を突き、隅返を決める。一本だ。
相手からは小外刈で有効を取られただけだ。労働から解放される!?
――試験が終わり、俺は帰ろうとした時に声を掛けられる。
「君が龍熊二谷君だね?」
「そうですが、何か?」
さっさとゲーセンに行きたいのに邪魔くさいな。
「うちの高校に来ないかね? 隅返を決めるなんて! 君なら全日本が目指せるぞ」
「興味ないんで」俺は自転車に乗り、逃げるように去る。
これ以上の労働には耐えられない。それより新作の格闘ゲームだ。ワクワクするぜ。
――結果、戦績は6勝10敗。親にジュース代として渡された千円を遣いきってしまった。