23(神童だった翔)
「翔? 翔じゃないか。久しぶりだな〜、元気か?」
翔はレジの隣の列に並んでた。
「話は後でね」
俺と翔はスーパーマーケットの外のベンチに座る。
「今日は休みか?」
「正社員になってから初めての有休だよ。それより、クレイジーモンキーの名はネット界ではかなり有名だよ」
「実はサイバーブロッサムから社員にならないかって打診があった」
「もちろん、オーケーにしたよね?」
「当たり前じゃん、こんなオイシイ話。翔の戦績はどうなんだ?」
「総キル数は8万くらい、勝率は7割くらいだよ」
「結構やるじゃん。サイバーブロッサムからいくらか貰えるだろ?」
「月に数百円だよ。二谷君が異常に強いだけ。化けたね、今や時の人だ、アハハ」
「そうか、ネット界ではなんて言われてるんだ? 俺はSNSとかやらないし」
「アンチが目立つよ、奇人変人だとか」
「負ける理由を周りのせいにするタイプだな?」
「元々SNSはそういう特性があるのも仕方ないけどね」
「クレイジーモンキーはまだまだ強くなる! 昇華させる!」
「そのモチベーションはどこから湧いてくるの? 不思議だ。燃え尽き症候群とかにならないの?」
「子供の頃の強制労働で封印されていたのが、一気に解放されたのさ」
「そういえば、子供の時に二谷君がいじめてた、田辺洋介を覚えてる?」
「そんな奴も居たな〜。すっかり忘れてた、アハハ」
「IT企業の立ち上げに失敗して今はクラッカーだって」
「犯罪者か」
「じゃあそろそろ行くね。天才プロゲーマーを拘束しちゃいけない」
「もう行くのか?」
「これだよ」翔は小指を立て、駐車場の方へ歩き出す。
「女とイチャコラか。ちゃんとゴムを使えよ」
翔は片手を振り行ってしまった。
さて、俺は帰ってウイスキーと鰻重だ。
俺は駐輪場に行き、原付バイクの鍵を開け、フルフェイスのヘルメットを取り出し、買った物を入れる。もうちょい稼いだら車を買おう。
俺は無事に帰宅して祝杯を独りで挙げる。寂しくはない、慣れてる。車は何を買おうかな? 建谷兄ちゃんみたいにスカイラインもいいな、シルビアもいいな、景気よくR32スカイラインGTRもいいな。
俺はウイスキーをワイングラスで飲む、コーラ割りだ。一口ストレートで飲む。ベッドまで歩いて行けない。酔っぱらった。ソファーで我慢だ、暖かくなってきたし、風邪は引かないだろう。




