21(立ち塞がるNPO法人)
――次の日の朝、俺の部屋のチャイムが鳴る。
誰だ!? こんな朝早くに! もう少し眠ってたいのに。ゆう子かな?
防犯モニターを見ると、知らない40歳くらいの男だ。
「新聞なら要りませんよ」
「あっ、おはよう。龍熊二谷君?」
「そうだけど、何か?」
俺の名前を知ってる。生徒時代の先輩……? にしては老けてる。
「ちょっと話したい事があってね。出てきてくれる?」
「はい、分かりました」
なんだろう? 宗教の勧誘だったらボコボコにしてやろう。俺はドアを開ける。
「君が二谷君だね? 希望のスパイラルの設楽という者だけど」
「宗教には入りませんよ」
俺はドアを閉めようとすると、男は右足をねじ込んで止める。
「宗教じゃなくて、NPO法人だよ。話だけでも」
「融資なら、お断りだ」
「そうじゃなくて。我々は引きこもりを真人間にする活動をしていてね。親御さん、生活が厳しいって、今後どうするの?」
「それが何か? ……働けっての? 俺は一生分の労働をした」
「それは親御さんから聞いてるよ。でも今は働かないと」
「ゲームで収入を得てるから」
「遊んで暮らすのが許されると思うの!? どうせ些細な収入でしょ?」
「頭が固いんだよ。絶望感を与える説教するの楽しんでるだろ?」
「なっ、何を言ってる!?」
図星か。
「サイバーブロッサムって会社がスポンサーになってくれてる」
「そんな旨い話がある訳ないだろ。騙されてるんだよ」
「根拠は? 確認もせずになぜ断言できる?」
「親に迷惑かけて恥ずかしくないの?」
「親が大変で収入がないなら、お前が金をくれれば良いじゃん」
「はぁ!?」
「はぁ……、大した“力”もないくせに、人助けごっこをするな」
「自立してもらわないと……」
「だから! お前が金を寄越せば済む話じゃん」
「そんな余裕ある訳ないだろ」
「だから! 大した力がないのに人助けごっこをするな」
「そっ、それじゃあグループホームに入ろう?」
「俺を雑魚キャラと一緒するな」
コイツは素人だ。話が噛み合わない。
「柔道やってたんだから立ち直れるよ」
「知った風な口を聞くな」
俺はカチンと来てドアノブを強く引く。
「痛い痛い! 親御さんは大変なんだよ?」
「もっと苦しめばいい。慰謝料だ。三段にならなきゃレフェリーにもなれない。初段を取らしたのは完全に親の世間体に利用された」
「もう来月から振り込みはないよ? 預金はいくらあるの? アパート代が払えなくなったら大変だよ?」
「お前には関係ない」
「今月中にアパートを退去してもらわないといけなくなるよ」
「だから! 金はあるって! 帰れよ、塩を撒くぞ?」
「分かった、また明日来る。一度頭を冷やそう」
お前が頭を冷やせ。




