第78話 最終決戦!
こんにちわ!
迫る最終回、そして別れの時。
でもその前に片づけないといけないことがあります!
-午前9:00 東京都港区 慶洋大学キャンパス内-
「来たのね。怖気づいて逃げるかと思ったわ。」
「逃げるのは男らしくないからな。泣いても笑ってもこれが最後だ。」
春休み真っただ中のある朝、俺は東京都港区内にある慶洋大学の校舎内にある広い教室にいた。目の前には昔から俺のことを敵対視している滝澤エレーヌ・ユリナがいた。
「勝っても恨みっこなしよ。」
「勿論だ。俺が勝ってもお前こそ文句言うなよ。」
お互いに牽制し合う俺達。その後ろからはいろんな人たちの声が聞こえてくる。
「タクちゃん、がんばれー!」
「こんな女、やっつけちゃって!」
「モリタク殿、某はお主を信じているでござるよ!」
「森君、ファイト!」
俺は一人でけりをつけたいって言ったのだが、寶藍、ステイシー、幹夫、秋本はそれを振り切って応援しに来た。一方滝澤サイドも…。
「ユリナ頑張って!」
「慶洋ブランドの意地を見せて!」
「ユリナなら大丈夫!」
「フレー、フレー!ユリナ!」
勝負を一目見ようと慶洋大生が数人応援に来ていた。俺達は席に着くと、一人の男子学生が入ってきた。
「それでは二人とも、準備はよろしいですか?問題を配りますんで机の上は筆記用具だけにしてください。」
そう言われて俺と滝澤は机の上を片付け、問題用紙を受け取る。うん、大丈夫。
「時間は60分。用意、初め!」
さあ、最終決戦の幕開けだ!
-一週間前 東京都日野市 森家の玄関-
「あれ、何か入っているぞ。」
バイトから帰ってきた俺は、ポストに何か入っているのに気づいた。茶色い封筒には「森拓人へ」と赤いボールペンで書かれている。部屋に戻った俺は封筒を開けてみると、中にはこう書かれていた。
『学園祭では負けたけど、私はまだ諦めてはいないわ。もう一度私と勝負しなさい。次こそ勝ってお前の面目をつぶしてやる。やる気があるならここに連絡しなさい。滝澤・E・ユリナ。』
送り主は滝澤だった。全く、懲りないなお前も。丁寧に連絡先までかいてやがる。俺はまぁ、だまされたと思って連絡するとすぐに繋がった。
「手紙が届いたようね。もう一度言うわ、私と勝負しなさい!」
「お前もいい加減にしろよ。こんなことやって何の意味がある?」
「私があんたより上だって証拠を見せるためよ。あんたにでかい顔してもらっちゃ困るから。」
「はいはい、分かりました。条件を飲んでくれるならいいけど。」
「いいわ、言ってみなさい。」
俺はしぶしぶ本音を吐き出すように言った。
「俺が勝ったらもうこんなくだらない勝負を仕掛けてこないこと。これが最終決戦だ。」
「ふん。別にいいけど。じゃあ私からも条件。私が勝ったらあんたはみんなの前で土下座して、私にその頭を踏ませなさい。無様なあんたを晒しものにしてやる。」
「いいだろう。受けてやる。」
「勝負の内容は後でメッセージで送るから。じゃあ。」
そう言って電話が切れた。勝っても負けてもこのくだらない因縁つけられるのが最後となると俺は少し安心した。
場所は戻って慶洋大学。今俺達がやっているのは高三模試の国語の問題だ。最後の勝負なので公平性を考慮した結果、男女差や国公立と私立大の差が全くない高校卒業レベルの学力勝負に決まった。今回の勝負は国語、英語、数学の三教科300点満点の合計で勝負する。お互い受験勉強からかなり離れているしこれならハンデもへったくれもない。しかし、長らく遠ざかると意外と忘れていることが多いな。昔は簡単に解いていた問題にも悩むようになっちまう。そう言えば、うちの合格発表は今日だっけ?結果はホームページに掲載及び合格者に送付されることになっているけど、春香のやつ大丈夫だったのかな?そう思いつつ俺達は黙々と問題を解き続けた。
「止め!」
試験管の男子学生の声が教室に響き、俺達はペンを置いた。
「お疲れさまでした。次は10分後に英語のテストです。」
英語か。大学でもやっているけど受験英語とは全く違うし大丈夫かな?
「ちゃんと全部解いたようね。でも、英語だけは負けないわ!帰国子女をなめないで!」
「俺も負けないぜ。伊達にステイシーの家にホームステイしてた訳じゃないからな!」
そう言いあいながら、英語の試験が始まった。ふう、受験英語ってどうも好きになれないな。何の役に立つか分からないし。とはいいつつも最後まで手をつけて英語も無事突破。最後はいよいよ数学だ。正直文系の俺はあんまり得意ではない。ましてやもう2年間数学に触れてはいないし。でもこっちにも意地があるので最後の力を振り絞って解き続けた。そして…。
「止め!ペンを置いて解答用紙を提出してください!」
試験終了だ。これでもうこんなくだらないことにつき合わなくて済む。俺は一息ついて天を仰いだ。
「覚悟しなさい。土下座したあんたの頭を踏めるのが楽しみよ。」
「まだ勝負は分からないぜ。全ては結果を見てから言いな。」
ユリナは不敵な笑みを浮かべて友人達と教室から出て行った。
「お疲れ、タクちゃん!良く頑張ったわね!」
「集中して問題といているタクト、カッコよかったわ!」
「これで勝ってくれると一番いいんだけど…。」
「何を仰る?!モリタク殿が負けるわけがなかろう!」
寶藍、ステイシー、秋本、幹夫が労いの言葉をかけてくれた。さて、この勝負の行方はどうなるのかな?全ては1時間後に分かることだ。
1時間後。
「えー、それでは採点が終わりましたので発表いたします。まずは森さん。」
いよいよ発表だ。まぁ、悪い点数ではないと思うんだが。
「国語100点、英語96点、数学94点。300点満点で合計290点です。」
おお、予想以上に取れたな。9割以上取れるとは思わなかった。それでも隣にいる滝澤は勝った気でいるのか顔から笑みがこぼれている。
「それでは、次は滝澤さんです。」
さあ、運命の瞬間だ。
「国語98点、英語98点、数学94点。300点満点で合計290点です!」
「ちょっと待ってよ!これじゃあこの勝負は…?」
滝澤は動揺した顔で椅子から立ち上がり、試験監の男子学生に詰め寄った。そして男子学生は涼しい顔で言った。
「よって、勝負はドローですね。」
「マジか、どうしよう?」
俺も思わずそう言ってしまった。これじゃあ、お互いの条件はどうなっちゃうんだろう?茫然としているみんなの前にある人物が現れた。
「やっぱりここにいたのか。」
「まったく、お前ってやつはどうしていつもこうなんだ?」
高そうなスーツを着て眼鏡をかけた中年男性と、城田優に少し似ているハーフ顔の若い男性が入ってきた。
「パパ、お兄ちゃん!」
「「ええ~!!!!」」
滝澤だけでなく、その場にいた全員が驚いていた。勿論俺も。
「皆さん、馬鹿な娘に付き合わされて申し訳ありません。私、父の滝澤時三郎と申します。」
「兄の滝澤ジャスティン・健一です。妹がお世話になっております。」
高飛車なこいつとは違い、お父さんとお兄さんは何て礼儀正しい人なんだと思った。滝澤は怪訝な顔をして反論する。
「パパ、お兄ちゃん!これはプライドをかけた勝負なの!帰国子女で誰よりも可愛くて裕福な私がこんな田舎者に負けていい理由なんてないわ!」
「お前、自分でそれ言ってて恥ずかしくないのか?」
お兄さんである健一さんが呆れ顔で滝澤にそう言った。そしてお父さんの時三郎さんが続く。
「私が言うのもなんだが、確かにお前はほかの同年代の女の子に比べて恵まれているかもしれん。それに私はお前に向上心を持つように育ててきた。」
「だったら…。」
「だが、私は人を侮辱するように育てた覚えはない!お前は自分の立場を鼻に掛け、気に入らない人に対しては徹底的にでかい態度を撮り、侮辱したりした!お前はうちの家に泥を塗るつもりか!」
「だって、実際うちは裕福だし私は実際容姿にも恵まれているでしょう?本当の事だからそう言ってるし、自分を脅かす存在が出てきたら勝ちたいって思うのは当然でしょう?何がいけないの?」
時三郎さんに言われて、滝澤は少し泣きそうな声で叫んだ。そしてすぐさま健一さんが溜息交じりに言った。
「はぁ。お前仮にも社長令嬢なんだから少しは考えろよ。そうやって自分のことしか考えられない奴はみんな離れて行くんだよ。考えが偏ったヤツは上に行くことはできないんだよ!」
健一さんがそう言うと滝澤は黙ってしまった。そして時三郎さんと健一さんは俺の方を向いて言った。
「君が森拓人君だね。」
「はい。」
「馬鹿妹が迷惑かけたね。兄として謝るよ。」
「私からも謝る。娘が迷惑かけた。」
「そ、そんな。顔を上げてください。二人とも。」
深々と頭を下げた二人に俺はそう声をかけた。すると、二人は滝澤の腕を引っ張って言った。
「ユリナ、お前も謝れ!」
「さんざん侮辱した上にこんな事にまで付き合わせておいて!恥を知れ!」
そう言われた滝澤の顔は妙にしょんぼりしていた。そして、呻くように言った。
「今まで悪かったわよ。私、あんたが羨ましかった。私は社長の娘として帰国子女として、期待はずれとか言われたくなかったからとにかくできた子でいたかったしそういう努力もした。だからあんたみたいに必要最低限で何でもできちゃう上にそう言ったプレッシャーがない一般庶民って言う立場が理解できなかったし許せなかった。才能も容姿も恵まれているのにそれを活かさないあんたがもどかしかった。おまけにあんたに勝てないし。」
「お、おお。そう思っていたとは気付かなかったよ。」
「でも、勝てはしなかったけどようやく追いつけた。それだけで私は満足よ。だから条件とか…そう言うのは何もかもチャラ!これで貸し借りなしよ!」
滝澤は手を差し出してきた。握手するつもりなのか?こいつが何を考えているのかいまいち分からないことがあるが、和解の握手として受け取った俺は滝澤の手を握る。そのユリナは少し照れくさそうにしていた。
「それではみなさん。今日はありがとうございました。」
「これからも妹のユリナを宜しくお願いします!ほら、帰るぞユリナ!」
「みんな付き合ってくれてありがとうね。じゃあ、解散!」
そう言って3人は教室から出て行った。
「終わったわね、タクちゃん。」
「タクト、引き分けだったけど御苦労さま!」
「ふう、バチバチムードもこれで終わりか。」
「モリタク殿は偉いでござる!最後まで男だったでござる!」
みんなが俺の所に集まり、優しく声をかけてくれた。俺もようやく肩の荷が一つ下りたような気がして思わず言葉が漏れた。
「ああ、これで終わったぜ!みんなもありがとうな!」
その後の気分を一言で表すと、とても清々しかった。
-同時刻 東京都江東区亀戸 栗原家-
「春香ー、あんた宛に郵便が届いてるわよ!」
「なに?お母さん?」
礼子が娘である春香を呼び出し、白いB5サイズの封筒を渡した。表には西東京国際大学と書かれている。
「これってもしかして?」
「うん、開けてみよう!」
春香は恐る恐る封筒を開けて中日は言っていた紙を取り出している。そこにはこう書かれていた。
『受験番号02358 栗原春香殿 あなたは本学校入学試験において教育学部に合格したことを通知します。』
その文字を呼んだ瞬間に二人は一瞬固まった。そしてその直後…。
「やったぁ!受かった!タク兄と同じ学校だ!」
「おめでとう春香!良くやったわ!お父さんにも知らせなくっちゃ!」
合格したことと受験からのプレッシャーから解放されて二人とも大はしゃぎだった。そして、春香はつぶやいた。
「タク兄、私やったよ。だから、タク兄も最後に頑張ろう。」
意味ありげに呟いた直後、春香は拓人に吉報を知らせたのだった。
こんにちわ!
ユリナの伏線が回収できてよかったです。
ドローでしたけど勝負にケリはつきましたし。
あと、春香ちゃんおめでとう!
春は新しい出会い、別れの季節です。
拓人達に近づく留学生帰国の期日。
果たしてその結末は?
答えは最後まで読んでからです!
まだ続きます!
それではまた次回!




