第66話 それぞれの思い
こんばんわ。
今年ももうすぐ終わりということで、今回のお話はサイドストーリー仕立てにしてみました。
-12月上旬 東京都港区 慶洋大学キャンパス内-
「どうして、どうしてこうなるのよ!」
私、滝澤エレーヌ・ユリナは雑誌を見ながら愕然としていた。なぜか。それは勿論負けるはずもない勝負に負けてしまったからである。朝の教室にはまだ誰もいなかったから恥ずかしくはなかったが、問題のページを見たとたん思わず声が出てしまった。ぞろぞろと他の学生が教室内へと入室してきたが、気にも止められなかった。
「お、ユリナもう来てる!」
「おはよう!ユリナ!」
仲のいい友人の新田綾香と古谷真奈が話しかけてきたので私は挨拶を返す。
「おはよ…。」
「ユリナ機嫌悪い?」
「別に。」
「いや、そんな顔で言われても説得力無いから。」
「そんなことないって言ってるでしょ!もう!」
思わずバアンと机に手をたたきつけて立ち上がってしまった私。綾香と真奈は勿論、周りにいた他の生徒達も驚いていたので私は深呼吸して再び席に着く。
「何かあったでしょ?」
「話してみなよ。」
二人に言われ、さすがの私もこれ以上ムキになったら大人げないと思ったので冷静にわけを話すことにした。
「これを見て。」
私は二人に雑誌のあるページを見せた。そこには『楽しい学園祭はどこだ?大学編』と書かれている。
「これは?」
「どうかした?」
二人が聴いてきたので私は再び話し始めた。
「なんでうちの大学が負けなきゃいけないのよ!負けちゃいけないのに!」
「話が見えないわ!」
「もっと詳しく!」
二人の言う通り、私は詳しく話す。
「宣戦布告したのよ。西東京国際のキモ男にうちが負けるかけないって。なのになんで負けるのよ!ムカつく!」
「そう言えば、トップ10に入ってないわね。」
「それに引き換え西東京国際は7位。あんな田舎なのにすごいよね。」
「で、ユリナの言うキモ男って言うのは誰?」
「男に厳しいユリナが言うんだから相当な奴よね。」
私はとりあえず写真を見せた。そう、忌まわしき男、私にとって邪魔な存在の森拓人の写真を。因みになぜそんな写真があるのかというと、空気が読めない雑誌の編集スタッフがこの前川越ではち合わせた時に「同級生の再会記念なんだから」と無理やりツーショットを取らされた。あいつマジで殺してやりたい。
「え?」
「カッコいいじゃん!」
案の定な反応だった。なので私は二人に忠告する。
「見た目に騙されちゃだめよ!こいつは見た目も頭もいいけど消極的でオタクなどうしようもない男なの。だからもし街中で会ったら殺しちゃっていいから。」
「ユリナ怖い…。」
「確かにオタクはちょっと…。」
二人は戸惑っていた。まあ、でもこいつがこんなとこまで来れるわけがないし大丈夫だとは思う。
「とりあえずこの話はここまで!授業始まるわよ!」
「そ、そうね!」
「あ、お昼はおいしいお店見つけたからそこ行かない?」
「いいわ。行きましょう!」
私は笑顔でそう言い、授業の準備を進めた。今年ももうすぐ終わりだというのに、何でこんなに胸糞悪い思いをしなきゃいけないのかしら?まあいいわ。森拓人、何年かかってもあんたは私の下であることを証明して、あんたの居場所を奪って抹殺してやるわ。
-同時刻 神奈川県横浜市 白楽大学キャンパス内-
「ふう。」
私、秋本和美は朝の教室でカフェオレを飲みながら余韻に浸っていた。寒い、教室の暖房はなぜ付いていないのだろう。と、同時に昨日見たテレビの事を思い出した。
「森君、あんなのにでちゃあ今頃人気者になってるだろうね。」
昨晩放送されていた「突撃、隣のイケメン」に出ていたバイト仲間の森拓人の事だ。カッコよく、頭も良く、スポーツ万能なくせに恥ずかしがりやで消極的なあいつ。私は、以前あいつに「隙が無いからモテない」と言ったこともあるがそれでもあのレベルのルックスで放っておかれている状況に少し疑問を抱いていた。
「あの3人以外は考えられないか。」
あの三人と言うのは尹寶藍、ステイシー・バーネット、綾瀬有希子の事だ。この三人は森君の事を遠ざけるどころかむしろ積極的にアプローチしている。鈍感なあいつが気づくわけがないが。しかし、有希子さんに関しては空港であんなことがあった以上、もしかしたら発展しているのかもしれないと思っていた。あいつは何も言わないが。この間森君はうちの大学の学園祭に安西君と一緒に来てくれた。ボラムとステイシーは何やら予定があってこれなかったらしいが、正解だったと思う。何せうちの大学の女子生徒達が「何あのイケメン?!」と騒ぎ出したので、来ていた時の状況を考えるとちょっと恐ろしい。おまけに私は森君とバイト仲間だと言うと女性陣から「紹介して!」と何回言われたことか。因みにその時会って有希子さんの事を聞いたが森君は「連絡取ってるけど、別に変ったことはないかな?まあ、元気そうだし安心したよ。」としか言わなかった。私がこういうことを言うのもあれだが、女性はイケメン好きが多い。そして、好きなタイプを聞かれると「優しい人」と答えるのも多い。あいつは両方を兼ね備えているが女性とは無縁のままだ。
「そう言えば、誠実な優男より、ちょっとやんちゃな方がモテてたわね。」
高校時代を思い出すと、まじめな優等生タイプはまったくモテず、チャラチャラしたやつはどんどん彼女を作って行ったかも。どう言うわけか、こういう法則が成り立ってしまうのが恋愛の不思議というものだ。
「森君、このままでいいのかな?」
森君が本当はどうしたいのかは分からない。だけど、ボラム、ステイシー、有希子さんの事を考えるとどうにも腑に落ちないことがある。この3人の誰かなら森君と成就しそうな気はした。根拠はないけどなぜかそう思えるのだ。
「もうすぐクリスマスだし、きっといい方向に行くかもね。」
私はそう信じ、登校してきた友人とあいさつを交わし、授業に臨んだ。森君…頑張って。そう思いながら。
-同時刻(現地時間) イギリスロンドン市 ヒースロー大学寮内-
「うぅん…。」
私、綾瀬有希子は今このロンドンにあるヒースロー大学に留学している。現在、ここの時間はもう夜の0時を回っており、友人達とのディナーから戻ってきた私はベッドに寝転がっていた。ちょっとはしゃぎすぎて疲れちゃったな。
「日本のみんなはどうしているかな?」
もうこっちに来て4カ月になるが、やっぱり日本の事が頭に浮かんでしまう。そしてあの子の事も…。
「森君…。」
そう、私が思いを寄せている後輩の男の子。森拓人君の事だ。恥ずかしがり屋だけど優しくてカッコよくて、頭がよくて可愛い後輩。最初こそ普通の可愛い後輩と思っていたけれど、電車で絡まれたときに助けてくれたのを思い出すと、やっぱり胸が熱くなる。そして、もっと近づきたくて、色々からかったりしたけれど、そうしているうちにいてもたってもいられなくって告白した。
「やっぱり、あれは無茶だったのかなぁ。」
告白したけど見事に断られてしまった。正直いきなりすぎたなぁって思うけど、やっぱりカッコよくて優しいから誰かに取られちゃうんじゃないかって思ったから後悔はない。それに諦めてないし。
「ねえ、有希子!」
話しかけてきたのはドイツ出身のルームメイトのベラだった。イギリスに来て、彼女と同じ部屋になって以来、結構仲良くやっていたりする。
「どうしたの?」
「ごめん、何か日本語でブツブツ言ってたみたいだけど何て言ってたの?」
「ああ、ちょっと日本の事を考えてたの。思わず日本語が出ちゃったわ。」
「まあ、有希子は日本人だしね。」
「フフフ…。」
笑いながらそう言った私。そして、ベラはもう一つ質問した。
「有希子は日本でどういう生活してきたの?」
「えーっとね…好きな人がいたから恋してた!」
「ええ、ホント?!聞かせて!」
ベラは笑顔になって食いついた。今まで恋バナなんてしたこと無かったけど、いざしてみると女の子は万国共通でこういう話が好きなんだなって思った。私は森君の写真を見せながら全部話した。森君の事がずっと好きだった話、振られた話、そして二人の留学生から森君が思いを寄せられている話、まだ諦めていない話をした。全部聞き終えたベラは笑顔で私に言った。
「有希子、絶対にあきらめちゃだめ!とにかくアピールしなきゃだめよ!」
「そうなの?」
「もちろんよ!こんなかっこいい男じゃぁ、絶対に誰かが捕まえようとするし、現にライバルが二人いるんでしょ?!攻めまくるしかないわ!」
「やっぱりそうするしかないのね。」
「有希子なら大丈夫!友達の私から見ても素敵な女の子だって分かってるんだし、自信持っていこうよ!」
「そうね、Danke schön!」
「Bitte schön!」
私はもう一度自信を持ち直せた気がした。そして、ベラに感謝しつつ、明日の授業に備えて眠りについたのだった。
-同時刻 東京都八王子市 西東京国際大学キャンパス内-
「ヘックション!ヘックション!ヘーックション!!!」
「どうしたでござるか?モリタク殿?」
「わかんねぇ。」
朝、幹夫と共に登校してきた俺は突然3回もくしゃみをした。一体なんだろう?
「風邪でも引いたでござるか?」
「わかんねぇ。誰かが噂してんのかな?」
「3回くしゃみしたから3人が噂していたに違いないでござる。」
「そうだな。ハハハ!」
突如謎のくしゃみに襲われた俺は笑いながら教室を目指した。何だかわからんけど、この時期は風邪に気をつけよう。
こんばんわ!
有希子が久々に登場です。
今回は拓人を嫌う人、第三者目線の人、拓人を想う人の3つの目線で書かせてもらいました。
最近拓人君に関する話が多いのでたまにはこういうのもいいと思いました。
最近作者は色々予定がいっぱいです!
でもちゃんと書きますんで宜しくお願いします!
それではまた次回!




