第58話 学園祭初日
こんにちわ!
前回大ピンチを迎えた拓人君達。
果たして乗り切れるのか?
業者が日にちを間違えたせいでホットドックに必要なパンが前日までに届かないというアクシデントを迎えた俺達。本当にこんなんで当日無事お店を出せるのか不安なまま、学園祭初日の朝を迎えてしまった。
「どうしよう。今日もう本番じゃん。」
「パンが来ないまま始まってしまっては困るでござる。」
「そうだよな。看板にもう書いちまったんだし、パンフレットにも載ってるしな。」
「ああ、神よ。我らに救いを。」
時刻は朝8時。俺と幹夫は模擬店のテント設営のために資材を運びながら朝日が眩しいキャンパス内を歩いていた。学園祭は今日の朝10時に始まるのだが、昨日健介先輩が電話した内容によると、パンを届けられるのは早くても朝10時半。本当にこの時間に届くのはいいのだが、その間はどう乗り切るかが鬼門となっている。
「おーい、モリタク!幹夫!」
俺達がテントの所に着くと、健介先輩が手を振りながら立っていた。
「おはようございます、先輩。」
「おはようでござる。」
「おっす、おはよう!」
俺達のあいさつに返事をした健介先輩は、なぜか昨日までの険しい表情じゃなく余裕のある爽やかな表情だった。
「何だよ二人とも。今日は本番だぞ、元気出せよ!」
「そう言われましても…。」
「パンの事が不安でござる。」
一体健介先輩の余裕はどこから来るのだろうか?それとも何か秘策でもあるのだろうか?
「まったく。屋台が出来なくなったわけじゃないんだぞ。シけた表情するなよ。」
「そうですけど…。このままパンが届かずにホットドックが作れなかったらどうしようかと思って。」
「某も同じく…。」
俺と幹夫は俯き加減でそう答えた。正直俺は悔しいが、何より一番気合が入っていた春菜ちゃんのあの悲しい表情を見て、不憫でならなかった。すると、健介先輩は俺達に肩をポンと叩いて言った。
「大丈夫!まだ焼きそばがあるじゃないか!だったらそれを全力で売ろう!折角ここまで来たんだ!トラブルがあってもできることをやって、乗り越えればいいじゃねぇか!」
その言葉に俺と幹夫ははっと気付かされたような気がした。そうだ。一つ出来なくなったからって何を悲しんでいたんだ!道はまだ完全に断たれたわけじゃないなら、別のルートでレールをつなげばいい。健介先輩の言う通りだと思った。
「あ、タクちゃん達いた!」
「Good morning! Every one!」
「おはようございます、先輩方!」
声がした方向を振り向くと、店の装飾を持ってきた寶藍、ステイシー、春菜ちゃんがいた。
「みんなおはよう!」
「おはようでござる!」
「おう、今日は頑張って行くぞ!」
俺、幹夫、健介先輩はそれぞれあいさつを返し、持ってきた装飾を受け取りつつ設営の準備を進める。
「タクちゃん、今日は頑張ろうね!」
「ああ、勿論だ!」
俺はさっきまでの暗い表情をごまかしつつ、やる気が籠った寶藍に返事をする。
「活躍するカッコいいタクトを見たいわ!」
「お前も頑張れよ、ステイシー!」
ステイシーも昨日の事はあまり引きずってないようだった。一番心配だった春菜ちゃんはというと…。
「皆さん!その…パンのことは心配ですが、私頑張ります!こんな事で挫ける訳にはいきません!頑張りましょう!」
どうやら立ち直ったようだった。そんな春菜ちゃんを見て、さっきまで引きずってた俺達が少し情けなくなった。
「ああ、ありがとう春菜ちゃん!おかげで元気出たぞ!サブカル研ファイトー!!!」
「「オー!!!!!」」
俺の気合が籠った言葉に皆が反応する。こうして不安要素を抱えつつも俺達は準備を進め、ついに学園祭開始の時刻になった。
学園祭初日は特に大きな事故やトラブルもなく、定刻通りに開始。各屋台がそれぞれ盛り上がりを見せている中、俺達の屋台にもチラホラ人が来ていた。
「いらっしゃいませ!」
「焼きそばとホットドックください!」
「申し訳ございません。ただいまホットドックは準備中ですので、焼きそばのみの提供でございます。」
「そうですか。じゃあ焼きそばください。」
「ありがとうございます!200円になります!」
俺はこんな感じで接客をしながら、ホットドックを欲しい人に不愉快を与えないよう説明しつつ焼きそばを売りさばいていた。時刻はすでに10時20分。パンが届く予定まであと10分だが本当に届くのだろうか?
「いらっしゃいませー!おいしい焼きそばいかがですか?」
「ホットドッグはただいま準備中ですので、少々お待ちください!」
一方店の前では、カウガールのコスプレをした寶藍とステイシーが元気に呼び込みをしていた。それにしても似合ってるな。
「でも、本当にホットドックのパン間に合うの?もうすぐ予定の10時半じゃない。」
「あら、ボラム。不安なのかしら?私は間に合うって信じてるわ。そんなネガティブ思考だからあなたは運が悪いのよ。」
「だ、誰がネガティブ思考よ!それに私は心配だなって思っていることを言っただけよ!」
「心配に思う時点でネガティブでしょ。」
「あんたに危機感がなさすぎるのよ!」
「おいおい、本番中に喧嘩するなよ!」
俺はヒートアップした二人を屋台の中からなだめる。こいつらは相変わらず平常運転だったが、内心俺もまだ不安は少し残っていた。そんな時…。
「もしもし?え、ホントですか?!分かりました、すぐ伺います!」
釣銭の整理をしていた健介先輩の携帯電話が鳴り響き、それに出た健介先輩は大声でその相手と話す。一体どうしたんだろう?
「パンの業者から連絡があって、今校門に注文したパンを持ってきたそうだ!モリタク、一緒に受け取りにいくぞ!」
「了解です!行きましょう!」
俺は急いで健介先輩と一緒に校門まで向かう。そして寶藍とステイシーにこう言った。
「寶藍、ステイシー!もうすぐホットドッグの販売が始まることを宣伝してくれ」
「アラッソ!」
「OK!」
二人は笑顔で了解し、俺は健介先輩と共にダッシュでパンを受け取りに行った。
「大変申し訳ございませんでした!それではここにサインか印鑑をお願いします!」
頭を下げて謝る業者のお兄さんから健介先輩はパンを受け取り、伝票にサインした後業者は去って行った。
「やっと届きました!これでホットドッグが出来ますね!先輩!」
「ああ!俺が言ったとおり何とかなっただろう?」
「はい。さっきは雰囲気暗くして申し訳ございませんでした。」
「いいってことよ!早くいくぞ、みんなが待ってる!」
「はい!」
俺と健介先輩はパンが入った箱を持ってきた台車に積み、屋台の所へ戻ってきた。
「お待たせ!」
俺が屋台に戻ってそう言うと、春菜ちゃんが目をキラキラさせながら寄ってきた。
「わーい!パンが来ました!これでおいしいホットドッグが作れます!それじゃあ、準備しますよ!」
そう言って春菜ちゃんは焼きそばを焼いていた鉄板の横のスペースで同時にホットドッグのソーセージを焼き始める。そして、呼び込みの寶藍とステイシーも…。
「お待たせしました!ホットドッグの販売始めまーす!」
「美味しいので是非来てくださーい!」
さっきよりも気合入れて呼び込みを始めた。その宣伝効果があったのか、ホットドッグは順当に売れていった。お客さんは次々と集まって昼頃には列を成すようになり、午後になってからすぐ、まずホットドックが売り切れ、押してその数分後には焼きそばが売り切れた。前日ピンチを迎えたサブカルチャー研究会だったが、予想以上の結果を出し、壁を飛び越えて初日から最高のスタートを切れたのだった。
こんにちわ!
ピンチを乗り越えられてよかったです!
次回は展示を中心に書き、他の人物も登場予定です。
お楽しみに!




