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第50話 有希子旅立つ

おはようございます。

8月最後の投稿です。

宜しくお願い致します!

出会いがあれば別れもある。それは人生において誰もが経験するステップのようなものだ。進学、就職、引っ越しなどには必ずこの出会いと別れの両方がつきものだろう。俺も小学校、中学校、高校、そして大学と様々な出会いと別れを繰り返し、今に至る。そして、今日はある人としばしお別れすることになった。


「有希子~頑張って!」

「有希子なら絶対むこうでも頑張れるから!」

「たまには連絡するのよ!」

お盆が終わり、8月も半ばが過ぎようとしていたある日。半分泣きながらそう言っているのは愛先輩、麗先輩、そして二人のクラスメイトである飛田美香(とびたみか)先輩だ。ここは羽田空港国際線ターミナルの出発階。そう、今日は有希子先輩がイギリス留学に出発する日だ。有希子先輩の家族やクラスメートだけでなく、オリエンテーションでお世話になったこともあって俺、幹夫、翔太も含めた2年生数人、更に寶藍やステイシー、秋本まで来た。また、英語科の2年生である沖村一恵(おきむらかずえ)も一緒に同じ大学に留学するので、英語科の生徒も何人かいた。入学式自体は9月にやるらしいのだが、事前学習や現地のホストファミリーとの顔合わせがあるらしく、やや早めに出発することになっている。そんな有希子先輩は相変わらず笑顔を絶やさずに皆の涙交じりの激励にこたえている。

「みんな泣かないで!大丈夫私を誰だと思っているの?」

「えっ?」

「綾瀬さんだぞ!」

トレンディエンジェルのものまねをして、思いっきり笑いを取る有希子先輩。このいい意味で前向きでマイペースなところは俺も見習ってもいいと思った。そして、有希子先輩は俺の方を向いてにっこりと笑いながら近づいてきた。

「ヤッホー森くん!お迎えに来てくれてありがとう!お姉さんすっごく嬉しいよ!」

「いえいえ。有希子先輩もぜひ頑張ってください!」

「うん!私がいなくても泣かないでね!」

「泣きませんよ!」

「何よ、私がいない方がいいってわけ?」

「いや、そういう意味じゃ…」

「じゃあ泣いてよ!ハグしてあげるから!」

「無茶苦茶過ぎでしょ!」

「ジョークよジョーク!もう、森くんは冗談通じなくって可愛いんだから♡」

「はぁ…」

有希子先輩のイジりは今日も絶好調だった。有希子先輩はいつでも有希子先輩だな。

「しかし、このイジりが1年間見れなくなるのは寂しいでござる。」

「ああ、俺もそう思う。」

「お前らどっちの味方だよ?」

勝手なことを言う幹夫と翔太に俺は冗談半分で突っ込みを入れた。

「有希子先輩、某も応援しているでござる。英国での留学生活。充実させてくだされ。」

「俺も応援しますよ先輩。たまには俺達のことも思い出してくださいね!」

「うん!安西君も高木君もありがとう!」

「寂しくなったらモリタクを空輸しますんで!」

「ありがとう、是非!」

「おい、俺は差し入れかよ!」

無茶を言う翔太に空手チョップを食らわせた俺。ふう、俺どこ行ってもいじりの対象にされちゃうな。突っ込み入れすぎて疲れそう。そして、普段は有希子先輩と張り合っている寶藍とステイシーも今日は穏やかな笑顔を見せていた。

「私が日本に出発する日もこんな感じだったわ。」

「私もよ。寂しさと楽しみの両方がある不思議な気持ちよね。」

「あら、珍しく意見が合うわねステイシー。」

「なにせ、私とボラムは同じ留学生だからね。」

こいつら、普段からこれくらい仲よくしてくれればいいのに。そう思っていると有希子先輩は二人の元に近づいて来て言った。

「ボラムちゃん、ステイシーちゃん。わざわざありがとう。」

「いえいえ、私も留学している身ですし。」

「私も今の先輩の気持ちがよくわかります。」

「そうだね。私もイギリスでがんばってくるからあんた達も日本生活頑張んなさい!」

有希子先輩は母性あふれる笑顔で二人に優しくそう声をかけた。子供っぽい所もあるけど、こういう部分を見ると先輩らしさを感じることがある。すると、あの日の野球の試合&飲み会ですっかり意気投合したのか、見送りに来ていた秋本が声をかけた。

「有希子さん、頑張ってくださいね。それと酒の飲み過ぎは禁物ですよ。」

「だ…大丈夫よ!私はそんなだらしなくない!」

「前にあんだけ飲んで悪酔いしといて、説得力無いですよ。」

「う…」

秋本は微笑みながら有希子先輩に酒のことを注意する。珍しく有希子先輩がたじろいでいるのを見るのはある意味新鮮だと思った。出発の時刻が刻々と近付いている中、壮年の男女と中学生くらいの女の子が前に出てきた。

「このたびは娘の見送りに来ていただいてありがとうございます。私、綾瀬有希子の母、紗江子(さえこ)でございます。」

「父の周五郎(しゅうごろう)です。」

「妹の真希子(まきこ)です。」

有希子先輩の家族だった。3人は深々と頭を下げた後俺達に言った。

「本日は長女有希子がイギリスに旅立ちますが、どうぞこれからも娘の応援を宜しくお願い致します。」

「有希子ー!父さんは日本からずっと支えてやるぞー!」

「お姉ちゃん、ファイトよ!」

みんなに感謝の念を述べるお母さん、有希子先輩に声援を送るお父さんと妹さん。その光景を見ると、ふと高校1年の時のシカゴ留学の時の俺と重なる。あの時の親父とお袋もこんな感じだったのだろうか?そうこうしているうちに、ついに旅立ちの時間になった。

「それじゃあ行ってきます!頑張ってきますんで宜しくお願いします!」

「皆さんとの再会は1年後になりますが、時々連絡よこしますんであんまり寂しがらないでくださいね!」

有希子先輩に続き、英語科の沖村がそう言って出発前の保安検査場へ向かおうとした。俺達が手を振って見送っていた時…。

「あ、そうだ森くん!」

「えっ?」

有希子先輩がいきなり俺のところに戻ってきて言った。なんだろう?

「頑張るのよ!でも私も負けないから…チュッ♡」

え…何なのこれ?有希子先輩はいきなり俺の唇にキスしてきた。完全な不意打ちだ。こんな状況誰が予想できたの?教えて!有希子先輩は笑顔で手を振りながら再び検査場へと戻って行ってしまった。

「ゆ、有希子先輩は何のつもりでござったか…?」

「俺にもわからねぇ…。」

「私もびっくり…。」

俺だけじゃなく、幹夫と翔太、秋本までもが唖然としていた。それだけならまだしも、二方向からものすごい邪悪な圧が伝わってくる。言うまでもなく寶藍とステイシーである。

「タクちゃあん!こんな公衆の面前で堂々と…サイテー!」

「タクトの浮気者!もう許さないわ!」

半泣きになりつつもものすごい形相で俺に詰め寄ってくる二人。だが、それだけは終わらなかった。俺のクラスメイトの橋本と川口までもが俺に詰め寄ってきたのだ。

「モリタクてめぇ!尹ちゃんを親衛隊リーダーの俺の前で泣かせるとはいい度胸してるじゃねぇか!」

「ちょっと森くん!ちゃんと尹ちゃんの気持ちも考えて!」

「す、すまん。俺も何が何だか分からなくって。」

だんだん状況がこんがらがっている中で俺にさらなる追い打ちが。英語科の生徒達からも邪悪なオーラがにじみ出ていた。本来は沖村の見送りに来ているだろうが、ステイシーが英語科に友達も多いこともあり、みんながみんなでステイシーを擁護し始めた。特に沢村は怒り心頭の様子で…。

「森くん!ステイシーの目の前でなんて可哀想なことすんのよ!カッコよくて頭いいくせに女心だけは全然わかってないんだから、もう!」

と公開説教された。

「だからあれは不意打ちだっつーの!」

「言い訳は男らしくないわよ!」

う…それ言われると困る。一方うちの学科の3年、有希子先輩の同級生たちの反応はというと何故か盛り上がっていた。特に愛先輩と麗先輩はやけにはしゃいでいる。

「きゃぁ♡有希子の公開逆プロポーズよ!」

「流石有希子!」

「男っ気が無い我が美人の親友にようやく春が来たわ!」

「帰ったら赤飯食べよう!」

「さんせーい!」

おいおい、勝手にお祝いするのは…はぁ、もういいや。疲れてきた。結局おれは最後まで有希子先輩に振り回される羽目になってしまったが、それでも留学経験者として有希子先輩、そして沖村もイギリス生活を頑張ってほしいという気持ちは変わらなかった。


一方こちらは飛行機の機内。

『当機は間もなく離陸致します。シートベルトを締め、席を立たないでください。』

全乗客を乗せた飛行機の機内にアナウンスが流れ始め、巨大な機体が少しずつ動き始める。

「良かったんですか綾瀬先輩。あんなことして?」

「わかんない。でもなんか、反射的に体が動いていたの。」

有希子は隣の席に座る沖村にそう答えた。有希子自身、タクトの事は男性としても後輩としても好きな気持ちは変わってないが、つい彼の唇を奪ってしまったことに関しては少しモヤモヤしていた。

「今頃大騒ぎですよ、あっちは。」

「かもね。ウフフフ…。」

そうは思いつつも、拓人が総攻撃をかけられていることに関しては知る由も無い二人だった。そうこう話しているうちに、飛行機はものすごい勢いで滑走路内を加速。そして離陸し、日本の大地から飛んで行った。

「最後に一つ聞かせてください、綾瀬先輩。」

「何?」

「綾瀬先輩って、やっぱり森くんの事が好きなんですか?」

有希子は沖村に聞かれ、少し考えた。頭良くてカッコいいけど、不器用で鈍くて、頭が少し硬いのが玉に傷の彼。でもそこは彼の魅力でもあった。確かに有希子は本仮屋ユイカに似ているといわれるだけあって美人だ。中学時代も高校時代も男子生徒から何回かアプローチされたことはある。だけど、みんな有希子の表面的な部分しか見ておらず、彼女の心をつかむことはできなかった。だけど森拓人だけは違うと有希子は思う。彼は残念な部分があるけど、決して有希子を幻滅させるようなものではなかったと彼女は言いきれていた。彼女は笑顔で沖村に向き直り…。

「うん、大好きだよ!」

と言ったのだった。

「でも、ステイシー。そして韓国のボラムって女の子も森くんの事が好きなんじゃ…。」

「恋に試練はつきものよ。だからこそ負けたくない。魅力的って思われたいって気持ちが後押ししてくれていっぱい頑張れるの。だけど…。」

そう言った後、何故か有希子の目から大粒の涙がこぼれ始めていた。

「え?綾瀬先輩、どうしたんですか?」

沖村が驚いて聞いてくる。有希子はまだ涙を流しながらしゃくりあげていた。そして顔をあげて…。

「うっ…うわぁぁぁん!やっぱり寂しいよぉ!1年間とは言え好きな人に会えないのはぁぁぁ!」

涙を流しながら思わず大声で本音が出てしまった。

「だ、大丈夫ですよ先輩!二度と会えなくなったわけじゃないんですから!ね、私もがんばりますから先輩も頑張りましょう。頑張って帰ってきた先輩を見たら森くんも心を奪われるかもしれませんし。」

「ひっく…ほんと?ありがとう沖村ちゃあん!」

様々な思いが胸からあふれ、涙を流しつつ頑張ることを決めた有希子。そう思いつつ、彼女を乗せた飛行機は日本の大地を離れ、遠い異国の地であるイギリスへと羽ばたいていったのだった。

おはようございます!

もうすぐ8月ともお別れ。

そして今回のお話はお別れがテーマの話でした。

有希子が結果的に物語の本編から退場する形になってしまいましたが、有希子のファンの方がいましたらごめんなさい。

さぁ、夏休みが終わり、物語の中でも新学期を迎えようとしています。

拓人君たちの活躍、是非ご期待ください!

それではまた次回お会いしましょう!

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