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第44話 ようこそ、我が学び舎へ! 後編

おはようございます!

この間の続きです!

テストを控えた7月半ばのとある晴れた日。俺はわざわざ大学に来てくれた進学希望の従妹の栗原春香のため、マンツーマンで学校案内の真っ最中だ。春香自身はまだどの大学に行くか完全に決めているわけではないが、やっぱり自分の大学に興味を持ってくれるのは嬉しいし、もし春香がうちの大学に入りたいと言うなら是非来て欲しいと思っている。さっきも色々回って案内し、健介先輩やステイシーにも会ってご機嫌な様子の春香だったが、回っていくうちにどんどん気温が上昇し、俺達は少し疲れ始めていた。

「暑いよぉ〜タク兄…。」

「午後の一番暑い時間帯だからなぁ…。にしてもこれは暑すぎだな。」

「喉渇いたよ。水無くなっちゃったし、どこか飲み物買うところ無い?」

「この近くに購買があるからそこに行こう!」

「ホント?サンキュー!早く行こう!」

俺は春香を連れて購買がある建物の中に入った。お昼の時間を過ぎているだけあって、店内はそこまで混んでいない。俺はスポーツドリンク、春香は麦茶をそれぞれ買って店から出た。

「ありがとうタク兄。隣は本屋になっているのね。」

「そう。ここで参考書や資格試験の申込みもできるぞ。」

購買から通路を挟んで隣にある本屋は参考書だけでなく、雑誌やコミック、小説など品揃えがいいので学生の間では人気である。すると春香は何かを見つけたのか、雑誌コーナーに駆け寄って行った。

「あっ!月刊ミュージックの今月号もう売ってる!タク兄、ちょっと買ってくるね!」

「おう、行ってこい!」

春香はお目当ての音楽雑誌をレジへ持っていき、購入するとご機嫌な様子で戻ってきた。

「ウフフ、ここで買えるとは思わなかったわ!」

「良かったな!取り敢えず、学生ホールで少し休もう。」

「うん。」

俺達は購買のコーナーから出て、学生達が休憩する多目的スペースの学生ホールまで移動した。椅子に座り、先程購入した飲み物で水分補給をする。

「ああ〜生き返る!ありがとうね、タク兄!」

「いいってことよ!このまま動き続けたら二人共ミイラになっちまう。」

「もう、タク兄ったら大袈裟なんだから!」

「でも下手すりゃ熱中症で病院送りだぞ。」

飲み物を飲み、クーラーが聞いた広いスペースで涼みながら談笑する俺と春香。しかし、涼しい。普段何気なく使っているこのスペースだが、今俺はここがまるで天国のように感じていた。

「どうだ、ここまでうちの大学を見て?」

「うん!ちょっと遠いけど、すごくいいと思うわ!いい人も多いし!」

「そいつは良かった!因みに、他はどの大学を考えているんだ?」

「そうねぇ、一応横浜大学の教育学部と、あとは荒川大学の文学部も候補に入ってるわ。」

「ほう、中々ハイレベルだな。どうだ?行けそうか。」

「正直微妙ね。この前模試はC判定だったけど、頑張ってやるわ!」

「おう、頑張れ春香!」

ガッツポーズをし、気合十分な表情でそう語る春香。この時期は暑いし、進路もしっかり固めて置かなきゃいけないから高校3年生に取っては本当に大事な時期だよな。すると、後ろから見覚えのある話し声が聞こえてきた。その方向を見ると、やはりいつも見慣れた顔…尹寶藍がうちのクラスの女子二人と一緒にいた。

「やっほー!タクちゃん!」

「おう、寶藍か!」

「隣座っていい?」

「いいぜ。」

寶藍と女子二人は、向かい合わせに座っている俺と春香のスペースの隣に座った。

「ねぇねぇタクちゃん!この暑さ何とかなんないの?そうだ!今度サマーランド行こうよサマーランド!」

「サマーランドか…。まぁこの暑さじゃプール行きたいよな。考えとく。」

「やった!約束よ、タクちゃん!」

嬉しそうな表情を見せる寶藍。すると、寶藍と一緒にいた女子の一人、川口が俺の後ろに回り込み、耳元で何か呟いてきた。

「森くん、尹ちゃんとのプールデートならちゃんとのチューしてやることやんなきゃだめよ。」

「おい、何馬鹿な事言ってんだよ。」

変な事を言い出す川口に俺は小声で突っ込む。すると寶藍が…。

「何コソコソ話してんのよ二人共。それとタクちゃん。この女の子は誰?」

寶藍が春香の方を向いて俺に聞いてきた。

「ん、こいつか?こいつは栗原春香。来年この大学の受験考えてんだ。春香、挨拶しろ。」

「はーい。」

春香は幹夫と翔太に自己紹介した時と同じテンションで立ち上がり、笑顔で話し始める。

「初めまして!北総学院高校3年、吹奏楽部所属、栗原春香です!タク兄がお世話になってます!」

「タク兄…?」

元気一杯に自己紹介した春香に寶藍は少し疑問に感じながら俺に聞いてきた。

「あんた、妹なんかいたっけ?高校3年生ってことは2個下か…でも幼稚園被ってないし、家でも見たこと無いけど…。」

「違うって寶藍。春香は俺の従妹だ。まぁ、妹みたいなもんだけど。」

俺がそう言うと、寶藍は納得した顔で言った。

「ああ、従妹ね!言われてみれば名字も違かったわね。よろしく春香ちゃん。私は尹寶藍。韓国からの留学生でタクちゃんとは幼稚園一緒だった幼馴染よ!」

噛み付いたステイシーとは対象的に、寶藍は笑顔で春香に自己紹介した。そして春香は驚きの表情を見せた。

「ええっ、韓国の人なんですか?日本語上手ですね。一瞬分からなかったです。」

「家の都合で3年間日本に住んでたの。タクちゃんとはその時からの腐れ縁よ!」

笑顔を絶やさずそう言う寶藍。こいつの日本語は確かに上手い。外国人特有の訛も一切ないし、初見で寶藍を韓国人だと見抜ける人はほとんど居なかった。語学は身につけてもしばらく使わなければ人によっては忘れてしまうが、こいつは帰国後も忘れないように努力していたのだろう。

「こんな綺麗な幼馴染がいるなんて、やっぱり幸せ者ね、タク兄!」

「よせやい、照れるわ。」

「な~に赤くなってんのよタク兄。」

いたずらっぽく微笑みながら俺をからかう春香。そして寶藍も笑いながら言う。

「フフフ。あんた達本当に兄妹みたいね!仲良くて見てるこっちも笑顔になっちゃう!」

「お前はお姉さんとはどうなんだ?」

「今も仲いいわよ!」

「そいつは良かった!」

俺は寶藍と寶藍の姉との姉妹仲が今も良好だと知り、自然と笑顔になった。お姉さん、今頃元気にしてるかな。すると、寶藍と一緒にいる川口と戸田が春香に話しかける。

「ねぇ、春香ちゃんだっけ?春香ちゃんは森くんに彼女が出来たら嬉しい?」

「ご意見をお願いします!」

「おい、お前ら!いきなり何聞くんだ!」

俺が二人にツッコミを入れる横で、春香は少し考えた後、笑顔で答える。

「お似合いの人だったら嬉しいですね!従妹の私から見てもタク兄カッコよくて優しいから是非いい人と一緒になってもらいたいです。」

ニコニコ笑顔で答える春香。そして二人は更に質問を続ける。

「じゃあ、森くんと尹ちゃんはお似合いだと思う?」

「私はいいと思うんだけど、どうかな?」

今度は何を聞くかと思ったら、なんて質問するんだ…。冷房が効いているはずなのに、なぜか体温が上昇する俺。横で寶藍も顔を赤らめながらモジモジしている様に見える。春香はというと、すぐに笑顔になり、嬉しそうに言った。

「はい!ステイシーさんもいいと思いますけど、寶藍さんもお似合いだと思いますよ!幼馴染ですし、相性は抜群なんじゃないですか?」

「ほらね、森くん!春香ちゃんもそう言ってんのよ。」

「何がだよ。」

俺は川口に突っ込んだ。すると今度は戸田が口を尖らせる。

「もう、鈍いわね!あんた達二人は傍から見てもお似合いなのよ!」

「そうなのか…。」

俺はなんと言ったらいいか段々分からなくなってきた。そして、寶藍の方向を見ると、なぜか嬉しそうだった。

「春香ちゃん、ありがとう!貴方とは仲良くなれそうね!」

「こちらこそ、ありがとうございます!タク兄のの事をよろしくお願いします!」

「分かったわ!それとタクちゃん!」

「どうした寶藍?」

「サマーランド行く件忘れないでよ!今度水着買いに行こ!」

「おう、了解!忘れないから安心しろ!」

「私のプロポーションはステイシーにも負けないから!楽しみにしておきなさい!」

「オッケー!そのときは、俺も鍛えた体をお披露目してやる!」

なんて冗談を交えながら楽しく談笑した俺達。そして、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。

「あ、もうこんな時間!バイバイ、タクちゃん!このあと商用日本語の授業あるからまたね!」

「おう、頑張れよ!」

「それと春香ちゃん。あんたも受験頑張るのよ!」

「はい、今日はありがとうございました。寶藍さん!」

寶藍達はそのまま立ち去っていき、俺達も学生ホールを出た。その後も学生寮なりグラウンドなりを案内していくうちに、夕方が近づいてきた。

「あー、楽しかった!ありがとうタク兄!」

「いいってことよ!お前も頑張れよ!」

帰りのバスの中で、話す俺と春香は話していた。正直上手く案内できるか不安だったけど春香は満足したみたいだったから嬉しいな。

「春香、よかったら家寄ってくか?ここからそんなに遠くないし。」

「うーん…気持ちはありがたいけどあんまり遅くなるとお母さん心配するし…今日は遠慮しとく。私からは叔母さんに言っておくから。」 

「そっか。よかったらまた遊びに来い!何時でも歓迎するぜ!」

「うん、今日は本当にありがとうねタク兄!そうだ!記念に写真撮んない?」

「ああ、いいぜ!」

春香はそう言うと、スマホを取り出してカメラを起動させる。そして二人が画像の中に収まるとシャッターをきる。

「オッケー!後でタク兄のLINEに送っとくね!」

「ありがとう春香。」

そうしている間にバスは駅に到着。電車に乗り換えて、俺は日野、春香は亀戸に向かうが途中まで一緒なので同じ列車に乗る。そして電車が日野駅に着いた。

「じゃあ、俺はここだから。」

「うん、じゃあねタク兄。」

「お前も気をつけて帰るんだぞ!それと勉強頑張れよ!」

「うん、じゃあね。」

ホームに発車メロディが響き、「ドアが閉まります、ご注意ください」のアナウンスが終わった直後だった。

「タク兄!」

「どうした?」

いきなり後ろから春香が呼んだので、俺は振り返る。春香はまだドアが開いている電車の中から大声で俺に言った。

「いい恋しなよー!応援するから~!」

そう言い終えるとドアが閉まり、電車は発車した。ホームから笑顔で俺に手を振る春香が見える。

「いい恋…ね。」

俺は何だか分からない感情を胸に抱きながら、ホームを降り、家に向かったのだった。

おはようございます!

先週寶藍が登場しなかったので今日は出しました!

しかし、最近の天気は不安定でもう嫌になっちゃいます!

さぁ、いよいよ夏休み編に入ります!

拓人達はどんな夏を過ごすのか?

次回もお楽しみ!

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